暗室⑧
午前五時十分ほどになると、次第に夜明けの匂いが更に強まってきて、車窓から見える遠くの景色には朝焼けが見えてきた。
自分は胡乃葉と共に、食堂車へと行った。食堂車にはたまたま自分達以外は誰も食事をしている人間はいなかった。
自分達は一番手前側の席に座ると、それぞれお望みの料理を頼んだ。料理を待っている最中、自分はふと、この列車内で誰かと食事を摂るのは初めてだということに気がついた。そう考えると、何故だか軽い緊張と、胸の底から湧き上がるようなじんわりとした嬉しさを覚えた。料理が自分達の元へ届くと、自分達はそれを堪能しながら、初めてちゃんと面向かって話をした。
食事を共にするとこんなにも会話が弾むのか、と思った。そして、こうして初めてちゃんと面向かって会話をすると、落ち着いている、ある種地味にすら思えた胡乃葉の姿がなんだか明るく可愛らしく思えた。我々の会話の内容は多岐に及んだ。本当であれば、自分が現世で生きていた頃の話でもしてみたりしたかったが、まぁ、胡乃葉が現世の話を理解できるはずもないし、そもそも自分は記憶を取り戻していないから、そのことについては多少虚しさを覚えた。
胡乃葉は、自分が列車内で目を醒ます前の同居人のことについて詳しく話してくれた。前の同居人がおばあちゃんであった事は前に教えて貰っていたが、おばあちゃんとの生活中にどういう事が起きただとか、どれほど楽しかったのかという事を胡乃葉は喜々として話してくれた。
「――私がおばあちゃんにそうしてもらって嬉しかったから、列車内で目醒めて混乱していたあなたに私はそうしたのよ。あなたに優しくすることが、おばあちゃんへの恩返しになると思ったから。ねぇ、私ちゃんとあなたに優しくできてる?」
胡乃葉は食後の紅茶を嗜みながら、柔らかい微笑を浮かべながらそう言った。
その微笑に自分も連られて笑みを浮かべながら、一言呟いた。
「うん、十分優しくしてもらえている。ありがとう」
そんな自分の言葉に、より一層微笑を深めた胡乃葉の表情は、自分の心をじんわりと温かくさせた。




