暗室②
――長く短い一ヶ月の間、色々あったなと思い返しながら自分はこの列車史上最遅となる瞬間を、胡乃葉と共に部屋の窓から眺めていた。
自分がこの列車内で目を醒ましてから過ごしたこの〝一ヶ月〟という期間が奇しくもこの列車にとっても重要な期間なのかは知らないが、少なくとも今回に限ってはそうだと言えそうだ。
「この列車に通過する駅なんて存在したんだね」
自分が呟くと、胡乃葉は徐々にゆったりと緩慢になっていく風景を眺めながら呟いた。
「そりゃあ、列車だもん。通過駅くらいあるわよ」
列車と言っても普通の列車じゃないから言ってるんだが……まぁ、胡乃葉みたいな人間に言ったってやっぱり無駄か……。共感できる相手が限られているって、少しストレスだな。
「この通過駅ってなんていう名前なの?」
「さっきの車掌のアナウンス聞いてなかったの?」
「聞いてたら胡乃葉には訊かないよ」
「オリーブ、確かそう言ってた」
「オリーブ……オリーブが名産なのかな?」
「さぁ、どうだろう」
そう話しているうちにも列車はどんどんとその巨体のスピードを落としていく。だが自分は潜在的に理解していた。通過駅と言えど多分列車は停車寸前まではいっても完全には停車しないし、自分達がこの簡素で最低限のホームの設備しか整っていないオリーブに降り立つこともないだろう。
というか、まず廊下に外へ出るための扉というのがない。仮に扉があったとしても、気味が悪くなるくらいずっと向こう側まで無限に平原しか見えないこの駅に降りたいと思う人間もいないだろう。この簡素で最低限の設備しか整っていないホームというのも、一見平和的で牧歌的な平原も、全てが自分にとっては気持ちが悪かった。
列車は最遅の速度で時間としては十分から二十分未満ほどの時間をかけて、短い通過駅、オリーブを通過した。
徐々に日常的な速度にまで列車は加速を始めると、数分経つ頃にはもう日常的な速度にまで列車は戻っていき、もう数分経った頃にはもう我々の関心は、日常である流れゆく車窓風景から離れていた。
胡乃葉は読書に、自分は軽い昼寝へと我々はそれぞれの時間へと戻っていった。




