暴力的なチェリーボーイ⑦
翌日になると、自分はお昼前頃にアミリーの部屋を訪ねた。
アミリーは、ちょうど今さっき同居人が用事があって外に行ったから今だったらいいよ、と自分を快く部屋に招き入れてくれた。部屋に入るやいなや前来たよりも自分が妙に落ち着いているからか、部屋の雰囲気というか趣向が自分と胡乃葉の部屋よりも随分違うことに気がついた。
なんというか……より生活感に溢れるというか……勿論その人の個性も強くあるだろうが、アミリー達に比べたら自分達は何か異端な者同士に思えた。
前回と同じように同居人のベッドに座っていいよと言われ、自分は言われるがままにアミリーの同居人のベッドに座った。
ふと、アミリーに同居人の事を訊いてみた。
「ねぇ、アミリーの同居人ってどんな人なの?」
「うーん……男の人だよ。すっごく身体が大きいの! キビトなんかよりもずっと大きいよ」
「まぁ、自分は小さいからね。縦にも横にもどちらにも。でも、初めてシャワーを浴びて思ったんだけど、完全な個室とはいえ、シャワールームが男女兼用って怖くないの? それが当たり前だとはいえ。まぁ、それを言ったら部屋だってそうかもしれないけど」
「うーん……怖くない、ことはないかな。勿論、そういう事件が起きることだってあるよ。同居人に襲われるーなんてことよくあるし。でも、少なくともアミリーは慣れちゃったかな。度の過ぎた悪さをすればこの列車内からは追放されちゃうしね。それに、まだキビトは思い出してないけど、アミリー達が元いた世界の方が場所によっては凄く危険で、そういう意味ではまだこの列車内の方が、悪さをした人間が度の過ぎた悪さであれば必ず〝列車内〟という存在に裁かれるわけだから、いいかもしれないな」
そう言われると、自分達の元いた世界というのが本当に気になって仕方がなくなってきた。どんな世界なんだ? どんな危険を孕んでいる世界なんだ? ――そう思ったものの、今の自分は〝追放〟という言葉の方により引っかかった。
「追放って言うけどさ、どうやって追放されるの?」
「消えるんだよ」
「どうやって?」
「さぁ? アミリーはそこまでは分かんないな~。でも、度の過ぎた悪さをすれば追放されることは事実だよ。まあその度の過ぎた悪さの定義って、誰がどうやって決めてるんだって思うけどね。だから、本当に極悪な人はいないって言えるだけかな~。でもこの列車内においては、ということだから別の異空間みたいな場所がもしあれば話は別だね」
異空間みたいな場所……自分が潜り込めた映像の中の世界も、ある種の異空間みたいな場所だな。
そうして、自分はこうしてアミリーと話している間にも内心迷っていた事柄を、決断した。
自分はアミリーに、とある人物からノートパソコンを受け取って、そのノートパソコンの中に入っていた取り調べの映像の中に入り込んでしまった事を、全て簡潔に話した。
アミリーは特段驚いたような表情はしなかったが、何か、自分の中にある何かしらの〝能力〟みたいなものを見抜いたのだろうか、目を見開きながらアミリーは自分の両手を握ってきた。
「やっぱり、キビトは特異性を持った特異体質者なんだね」
そう言われてもなぁ……という感じだった。そもそも特異性が何かっていうこともあまり分かってない今、あまりピンとこないというのが実情だった。
「キビトの持つ特異性は、すっごく強大ですっごく沢山人を救える特異性に思える。アミリーもまだその全容は分からないけど、でも、そう思うんだよ。でもその特異性は強大な反面凄く危険で、身体への負担は大きいようにも思える。自分の特異性がなんなのかを知る手立てはたったひとつだよ。日常の中で何か普通じゃないことが起こったり、自分だけができる特別なことがあったら、それが自分の特異性なのかもしれない。アミリーが感じる限り、キビトの特異性はアミリーよりも強大でより現実に強い波及効果の持つ特異性だとも思う」
より現実に波及効果のある特異性――実用性のある特異性ということだろうか?
「今キビトが話してくれたノートパソコンの事とか、取り調べの映像の中に入っちゃった事とか、全部アミリー達の秘密だよ?」
「勿論、マスターには言うなってことでしょ?」
「うん、やっぱりノイジーさんには秘密の方が良い。なんらかの意図があってそうする必要性があるんだったら、それでもいいけど……。その時までは、アミリー達の秘密だよ」
「分かった、そうする」
そうして、用事が済んだ自分は、ボソボソっと何かを呟いたらしきアミリーに感謝を告げて、自分の部屋へと戻った。
部屋に帰ってくるやいなや、自分はベッドに寝転びながらアミリーが別れ際にボソボソっと何か呟いていたような言葉を反芻しようとした。けれどアミリーは本当に小さく呟いていたから、今さっきの言葉なのにハッキリと文脈として反芻することは難しかった。
それでも、単語はかろうじて頭の中に格納されていた。
『取り調べ』『事件』『追いか』『気がす』この単語だけは、文脈から外されてもなお頭の中に残っていた。
ちゃんとした文脈としての言葉は分からないが、これを呟いた今さっきのアミリーの口調はまるで、書き手紙をそっとテーブルの上に置くような、繊細で柔らかい口調だった。そして、その声が漏れただけのような小さな呟きを聞いたときの自分の心は、凄く心がじんわりと温かくなるような、そんな感触だったから、心配してくれての言葉であることも分かる。
恐らく、『取り調べの事件のことを追いかけるのは危ないからやめた方がいい気がする』とでもアミリーは言ったのだろう。でも、大丈夫。分かっていながらも、自分はその道を進む。
自分という人間の全容を知る旅は、今このときから始まったのだから。




