空挺試運転
「いよいよ、新規航路の試行の準備が整ってきたわね。」
冒険者ギルドの正面玄関の前でユンカーとギルドマスター、エスカイヤーが話している。
ミッションを簡略に説明すれば、
危険な箇所以外で日中はユンカーが”馬車”を軽く持ち上げて浮遊させ、徒歩で押してゆく。
主に街道筋、1日30キロの歩行の予定。
他の旅の人に絡まれたら馬車の家紋を見せて、”ホリデー伯爵命”、を名乗っていいことになっている。
この馬車は”魔道具”、ということで統一。
ユンカーが歩行中は馬車の中で”エースパイロット”(風魔法の使い手)"、は基本的には睡眠休憩。
夜は危険なので高度300メートルまで浮上させて高度を固定、そしてユンカーは基本的には睡眠休憩。
高度をユンカーが設定すれば変更しない限りは、寝ていようが何をしていようがデフォでその高度設定が維持されるという、”ナゾ”、の能力。
”エースパイロット”、は浮上してフリーな状態の”馬車”、を風魔法を用いて時速30キロで6時間(あいだに2時間の休憩)、180キロの飛行を行う。
夜間飛行のあいだ、王都ギルドの屋根に設置したビーコン(電波発信機)を頼りに極力ショートカットをして新航路の開発にトライする。
もう1つのサブビーコンを王都ギルドのメインビーコンからきっかり、1キロメートルの場所に設置してあるので3点測量の応用で解析、王都までの距離が自動的にデジタルで表示される。
王都でのビーコンの設置は王都ギルドに伯爵を通じて頼んである。(魔道具、とか言ってな)
また、前方水平方向120度(左右60度づつ)、水平距離2000メートルに障害物(山とかな)が電波を遮蔽し、衝突の危険がある場合は大音量の”アラート”(警告音)が鳴るので暗闇の無灯光飛行でも安全は担保されている。
ご先祖様、ありがとうございます。
ただし、暗闇の単純作業の継続は精神をやられるので、室内灯をつけてこまめに休憩。
また、同乗者も夜間のエースパイロットの精神ケアに気を使わなければならない。
ぶっちゃけ、たまに起きてお話相手しなさいね、ってことかな。
ドライブの助手席みたいなもの。
ホリデー伯爵領は王都から見て、大陸の真反対。
王都に向かうには内陸部の危険地帯を避けて、海岸沿いに東回り、西回りともに行程約2500キロ。
歩いて3か月、馬車でも乗り継いで2か月近くかかる。
そのため、北海岸の3伯爵は共同で2年に1度、王都へと大部隊を編成し納税の白金貨を文字通り命懸けで届けている。
それをユンカーが安全で早い空路を開拓すれば、納税部隊の莫大な経費が節約できるかもしれない。
大変なことなのだ。
今回のトライは最初なので様子見だ。
最終目標は4000メートル級の高山の連峰、カミサマ山脈の上空を飛行で超えて、大陸ど真ん中のショートカット。
しかし、操縦者たちの技量が上がらなければそれは冒険というよりは無謀。
試運転も兼ねての処女航海である。
目の前には伯爵家の家紋のついた馬車。
極力、軽量化に極振り。
床板を支える床下の下地材こそしっかりとしているが壁板や屋根はフレームに木板を強固に貼り付けただけのしろもの。
車輪は駆動可能だが、着いてるというだけの程度。(馬車の体裁を保つ)
最悪の場合、かろうじて馬による曳航可能。
馬車のくせにな(笑)。
幅2メートル、長さ4メートル、高さ(車内)2メートル。
カーテンで仕切った小さなトイレ(スライム式浄化槽改20リットル使用)、小さなお風呂(1M×1M×1M)、1口魔石コンロミニキッチン、セミダブルベッド、操縦席前面はガラス。
コックピットはベンチシートだが真ん中だけまたいで後ろの居室コーナーに行けるように背もたれが無い。
側壁面にはスライドドアが右側に一つ、空中飛行のため2重ロック。
左右のカベには小さな小窓が1個ずつ。
代々、伯爵家の馬車をあつらえているドワーフに”特注”。
以上の装備で自重400キロ。
ユンカーの浮上可能重量は1000キロ(暫定)。
食料10キロ(20日分)、人間2人100キロ。
その他(衣類、寝具、など)100キロ。
計610キロ、お風呂は390リットルまでなら(39センチ)飛行可能。
「これって、新婚さんルーム?」
ドワーフの工房から新作の飛行用馬車を受け取って、数センチ浮上させて手押しで運んできたユンカー。
その中を見てのエスカイヤーの第一声。
操縦席は後ろの居室とカーテンで仕切られている。
『こ、これで青い海の上を一緒に飛んだりしたら・・・、
隣がカボチャみたいなオトコ(どんなだよ!)でも、あっさり恋に落ちるわ、ゼッタイ!』
『し、しかも、な、何日も一緒に旅を”2人きりで”、(誰も言ってないが)、ウワ~、ウワ~!』
可愛いお部屋(馬車)にエスカイヤー、混乱気味。
『なんで、カーテンがみんなピンクなのよ!ベッドカバーまで!!』
「で、ユンカー。”エースパイロット”、は誰になったの?」
エスカイヤー、平静を装って質問。
「あー、イリア姉さんが『”風”、は少し苦手だけど問題ないわ。潤沢な魔力の力技で押しちゃうから。マザーが留守引き受けてくれたからあたしが行くわ。』、って言ってましたよ。」
「とりあえず、明日の午後にテスト飛行をすることは伯爵様と打ち合わせ済みです。
伯爵様もご自分で試験飛行されるご希望ですよ。」
「今の〝から荷”、の状態ですと1000キロまで600キロあるので、大人でも8人くらい乗れそうですかね。」
「ユンカー、明日の飛行テストはあたしも行きます、え~行きますとも!」
ギルドマスター、言い切った!忙しいのに。




