空挺試運転(その2)
曇り、風速5メートルくらいの風が海の方から吹いている。
見晴らしの良いアルフレッド牧場から見下ろす町の向こうの海は今日は荒れ気味。
大きな白波が見える。
お昼にアルフレッド牧場に集合、今日は飛行馬車のテスト。
ここまではユンカーが馬車を浮上させて片手で登りの坂道を押しながら運んできた、スゲ~。
「では”エースパイロット”、候補としてイリア姉さんに操縦してもらいますね。
姉さん、先に入って、でボクが入ったら伯爵様、ギルドマスターも操縦席にお座りください。
狭いですけどベンチシートなので横並びに座れます。」
イリアの隣にユンカー、伯爵、エスカイヤーの順に座る。
「では皆さん、浮上します。」
ユンカーの掛け声と同時、馬車が浮上を開始する。
2分で100メートル、30階建てのビルの高さ。
スルスルと垂直に登っていく間、
馬車は風に流され、どんどん海から反対、カミサマ山脈の方向に船首を向けて流されていく。
「すごいわねー、こんな魔術聞いたことないわ。」
イリアが感嘆した声。
「高さはボクの自由になるけど、”風”で動かすのは姉さんだからね。」
「あと、よく分かんないけど魔術じゃないです。
マジで魔力ないっす。」
ユンカーがオウム返し。
「あーそっか、景色にビックリしてすっかりお客さん気分だったわ。」
「で、どーするの?」
と、イリアが問う。
「では、まだ設定高度まで上昇していないけど構わないので、姉さん馬車を動かしてください。」
「まずはユックリ海まで30分ほど飛行しましょう。」
ユンカーの声に頷くイリア。
「”風よ”、」
イリアがつぶやきその体が一瞬白く輝いた。
ややあって、カミサマ山脈に向かって流されていた馬車が急激に船首を反転させて海(北側)に向くと風で流される速度が急減速。
で、”止まった””、と皆が感じた瞬間、前進を開始する。
馬車が海に向かって進み始める、ゆっくりと加速している。
イリアがの表情は余裕そのもの。
「今日のミッションの一つ、”上昇しながら、水平方向に動かしてみる”、を達成。」
ユンカーがそう言いながら手帳に書き込んでいる。
すでに町の上を通り過ぎて海上約400メートルの高さを北に向かって飛行中。
「おー、すごいものだな!」
下に広がる海を見て伯爵がうなる。
ユンカーが黒い小さな箱の画面を見ている。
「今、時速30キロになりました。
この速度で1時間飛んで、そこでUターンして戻れば、2時間60キロの飛行となりますので、やってみましょう。」
「どうですか、姉さん?」
50分ほど順調に飛んでいるところでユンカーが問う。
その間、伯爵様親子は居住性のチェックも兼ねて運転席後部、居住空間のお風呂やベッド、トイレなどを細かくチェック。
「なんてことないわね。緩い上り坂を歩いている程度の疲労ね。」
イリアが答える。
数分ほど前に運転席に戻ってきた伯爵様親子、急にベンチシートが狭くなる。
「そろそろ伯爵様もギルドマスターも動かしたくてウズウズしているようですが、もう少しお待ちください。
姉さん、最高速までゆっくり上げて、そこからユックリ止めてください。
まもなく30キロ地点に達します。」
馬車がユックリと加速を開始した。
デジタルメーターが50キロを超えて54キロに。
「限界だわ、止めてくよ。」
イリアが魔力を抜いたのか、急激なGを感じるほどの急停止。
急速に馬車の先端、運転席が反対側に回転して向く
完全に、制御を失った馬車は操縦席の方向に風でフラフラと流される。
不思議にも操縦席は風下を常に向いている。
「操縦席の上に空力抵抗を受けるように尾翼をつけてるんです。
抵抗が大きいので常に風下に向いています。
だから、常に進行方向に向かっているように見えるんですよ。」
「現在、風速約5メートルの風に乗って南南東、だいたいアルフレッド牧場の右手7キロくらいの方向に”うまく”流されてますね。」
「分かり易く言いますと、時速18キロの逆風の中をイリア姉さんは30キロを保って飛んでたので、相対的には50キロ程度の速度で飛んでましたね。」
黒い箱を見ながらユンカーが言う。
先ほどから降る雨で何も見えない、窓ガラスにはなんとワイパー付き。
「馬車をアルフレッド牧場の方向に向けます。」
ユンカーがそう言って操縦席の前側についている丸いハンドルを回すと、馬車の向きがかすかに変わったような気がする。
「尾翼に受ける風の方向を調整してアルフレッド牧場の方向に向けました、あと24キロで到着します、風力による自然飛行ですがそれですと1時間と少し、かかります。」
「では伯爵様、よろしければ馬車を向いている方向に風魔法で導いてください。」
ユンカーに言われて伯爵様。
「やっと、私の出番か!
昨晩は楽しみ過ぎて、少々寝不足気味だよ。」
伯爵様、若々しい笑顔でニッコリ。
「風よ!」
伯爵様の詠唱に白く体が一瞬、輝く。
加速感が感じられる、が数分ののち等速へ。
デジタルメーターは時速24キロ、若干の加速で数分間。
「ダメだな、年に加えて属性が向かないようだ。」
瞬時で、くたびれて弱音の伯爵様。
「じゃ、最後はあたしね。
風で流されているのを押してやればいいのね、楽勝だわ。」
得意げに行って張り切るエスカイヤーに不安を覚えるユンカー。
「ギルドマスター、この馬車は70キロ当たりで限界ですから60キロ以上出さないで下さいね。
空中分解したら死にますからね。」
ユンカーが注意する。
「うわー、こえーっ!」
エスカイヤ、ビックリしてそーっと加速。
「ギルドマスター、30キロしか出てないですよ。
もう少し頑張ってください。」
ユンカーが笑う。
「なんと、ユンカーにバカにされるとは!」
今度は追い風の上に張り切り過ぎて、危うく55キロオーバー。
突然、馬車に響く大音量の警報!
雨で前方が見えないが
「ギルドマスター、あと900メートルでアルフレッド牧場の斜面に激突します。
止めてください!」
「ウワ、うわぁ!やばい、姉さんも最大速の逆走を応援して!
あと、200メートル!」
雨の灰色の視界の中、アルフレッド牧場の斜面!
で、急停止。
「追い風こえ~、」
地上に降りて一同、くたびれ果てる。
「すいません、アラートの設定距離は3000メートルに設定しなおします。」
ユンカーが皆に言う。
「あと、あの音楽。眠くなりそうなんで変えた方がいいッポイ。」
「はい、やっぱり『メリーさんの羊』はアラートには向いてないですよね。」
イリア姉さん、代表して連続のダメ出し。
『ユルスギ』 ( 一同 )




