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魔法災害隊  作者: 横浜あおば
次元結界編
78/100

第70話 魔法神の片鱗

 響華たちが目を覚ますと、そこはサンディエゴ海軍基地の敷地内だった。

「良かった、脱出できたみたいだね……」

 響華が起き上がりながらホッとした様子で言う。

「だが、まさかあの東京が次元結界の中だったとはな」

 碧が呟く。

「今思えば、おかしな所だらけだった気がしますけどね」

 雪乃の言葉に、遥はこくりと頷く。

「特に地名とか。いかにもアメリカの魔獣っぽい書き間違えしてたし」

「なんで私たち、あれを普通に読んでたんだろう?」

 首を傾げる響華。

「それもこれも、全部あの魔獣の仕業だろう。全員無事に帰ってこられたのだから、今さら気にすることもないんじゃないか」

 そう答えた碧を、遥は軽く小突いた。

「ピンチを招いたのはそもそもアオが洗脳されたからなんだよ? そのアオがそれを言うかね」

「う、うるさいな……!」

 碧は顔を真っ赤にして視線を逸らした。


「そういえば藤島さん、早く桜木さんを助けに行かないとまずいんじゃないんですか?」

 ふと思い出したように問いかける雪乃。響華はハッとして声を上げる。

「そうだった! でも、ちょうどいい飛行機あるかな? というか、私がアメリカに来たのは検査を受けるためだったのに、これで帰っちゃったら意味ないんじゃ……」

 ぶつぶつと呟く響華に、ライリーが話しかける。

「藤島響華、あなたへの転移魔法使用許可は下りています。行ってあげてください」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 響華は深々と頭を下げる。

「桜木芽生の入院先は中野区の東京警察病院です。こちらの方で魔力検査の用意はしておきますので、また転移で戻って来て頂ければと思います」

 ライリーの言葉に響華は大きく頷き、魔法を唱えた。

「魔法目録十五条、転移。場所、東京警察病院!」

 響華の体が光に包まれ、その場から消える。それを見届けたライリーは、残された碧、遥、雪乃の三人に視線を移して声をかけた。

「新海碧、滝川遥、北見雪乃。皆さんにお話したいことが」

 三人は顔を見合わせ、何だろうと首を傾げた。




 中野、東京警察病院。

 芽生の病室には国元の姿があった。

「このままでは、医師が異変に気が付くのは時間の問題ですね……」

 国元が言う。

 芽生が病院に搬送されてきてから、かなり時間が経っている。その間ずっと芽生は死亡状態にあり、いくらアマテラスのコピーのハッキングにより生きていると偽装していても、アナログ的な手法で確かめられればそれまでだ。

「どうか、気付かれませんように」

 国元は祈るように呟いた。

『コンコン』

 その時、病室の扉がノックされた。

「はい」

 国元が応じると、扉が開き木下副長官が入って来た。

「国元さん、CIAから何か情報は?」

 木下副長官の問いかけに、国元が答える。

「響華さんたちは今、魔獣マリナが作った次元結界の中に閉じ込められているそうです」

「そうですか……。とりあえず医師や看護師には暗示魔法をかけておいたので、しばらくは芽生さんの異変に気が付かれることは無いかと」

 木下副長官の言葉に、国元はため息をついて言う。

「木下副長官はまだ暗示魔法をそんな風に使っているのですか? アマテラスの言いなりになっているならまだしも、もうこちら側に付いたんですよね?」

 それを聞いた木下副長官は、頷いてから口を開いた。

「はい。ですが、芽生さんを救うにはこれくらいしか手段が思い浮かばなかったので……」

「まあ、今回ばかりは仕方ないとします。今後は暗示魔法の使用は慎重にお願いしますね」

 国元が微笑みかける。

「了解しました。では、失礼いたします」

 木下副長官は一礼し、病室を後にした。

 国元は扉が閉まるのを確認すると、芽生の顔を見遣った。

「暗示魔法で時間を稼げたとはいえ、このままでは芽生さん自身の身が持たない。響華さんが早く次元結界から脱出できるといいのですが……」

 その時、『バン!』と勢いよく扉が開いた。国元は木下副長官が戻って来たのかと思い、振り返りながら言う。

「木下副長官、まだ何かご用ですか?」

 しかし、そこにいたのは木下副長官ではなかった。

「国元さん、芽生ちゃんは?」

「きょ、響華さん!」

 国元が驚いた様子で声を上げる。響華はベッドに駆け寄り、芽生の手を握った。

「芽生ちゃん、今ペンダントかけてあげるからね」

 響華は自分の首にかけたペンダントを外し、芽生の首にかける。すると芽生の呼吸と心拍が回復した。

「芽生さん!」

「芽生ちゃん!」

 国元と響華が話しかける。しばらくして、芽生が目を覚ました。国元と響華の顔を見ると、ゆっくりと口を開いた。

「……国元さん、響華、ありがとう」

「こちらこそ、助けてくれてありがとう。芽生ちゃん!」

 響華が芽生に抱きつく。芽生は照れ臭そうにしながらも、どこか嬉しそうだった。

「医者、呼んできますね」

 国元は二人の邪魔をしないようにそっと部屋から出て行く。

『ピッ、ピッ、ピッ……』

 それと同時に、モニターの表示に少しノイズが入った。国会議事堂の地下では、アマテラスのコピーが安堵したように呟く。

『わらわのハッキングも、もう必要ないナ……』

 芽生が無事に助かった。この情報は守屋刑事や長官にもすぐに伝えられた。その中でも、一番喜んでいたのは意外にも木下副長官だった。




 アメリカ、CIA本部。

 碧、遥、雪乃の三人は、ライリーと共に魔法能力検査が出来る施設にいた。

「こちらで藤島響華の検査を行う予定です。もしよろしければ、皆さんも検査してみますか?」

 ライリーが問いかける。

「もし検査するとしたら、どんなことをするんですか?」

 首を傾げる遥。

「すみません、まずは説明が先ですね。失礼いたしました」

 ライリーは謝ってから魔力検査についての説明を始めた。

「こちらで行う魔法能力検査は魔法能力だけでなく、どの程度の魔力を有しているかも詳細に調べることができます。検査方法としてはボディスキャンと血液検査で、時間は一時間もかかりません。せっかくの機会ですし、受けられてはいかがでしょうか?」

「そうだな……、改めて調べてもらうのもいいかもしれないな」

 最初に口を開いたのは碧だった。

「では、新海碧は受けるということで。滝川遥、北見雪乃はどうしますか?」

 ライリーが遥と雪乃を見遣る。

「一時間で済むなら、私も受けよっかな。響華っちがいつ戻るかも分からないし」

「滝川さんが受けるなら、私も受けてみようと思います」

 遥と雪乃の答えに、ライリーは首を縦に振った。

「かしこまりました。それでは、早速検査を始めましょう。そちらで採血をした後、奥の機械でスキャンを行うという流れになります」


 碧、遥、雪乃の三人の採血とボディスキャンが終わった。

「で、待ち時間は何すんの?」

 遥が聞く。すると雪乃は、ふと思い出したようにライリーに話しかけた。

「そういえば、ライリーさん話があるって言ってなかったでしたっけ?」

「はい。ちょうどその話をしなければと思っていたところでした」

 ライリーは頷いて言うと、三人にソファーに座るよう促した。

「それで、話というのは?」

 碧がソファーに腰掛けながら問いかける。ライリーは真剣な表情を浮かべ、三人に向かって話し始めた。

「私がお話したいのは、藤島響華についてです。次元結界の壁を突き破るなど、まず普通の魔法能力者では不可能です。日本の魔法能力者学校の優等生クラスに在籍している時点で魔力は高いものと思われますが、それでもあの魔力は異次元。もはや人間を超越しています。その上、あの時の藤島響華は目が青く光っていた。それが何を意味するか。想像には難くないでしょう」

 ライリーの言葉に、三人は息を呑んだ。

「藤島響華は魔法神の力を有している、もしくは魔法神そのものである。その可能性が極めて高いと考えます。CIAは藤島響華を以前から追跡しており、接触する機会を窺っていました。魔法能力検査をしない限り、藤島響華の正体を掴むことは出来ない。そう考えていたからです。しかし、私は彼女のその力を目の当たりにしました。あれは明らかに魔法神の持つ力。新海碧、滝川遥、北見雪乃、あなた達は藤島響華を間近で見てきたものと思いますが、それについてどう思いますか?」

 黙り込んでしまう三人。ライリーはもう一度問いかける。

「別に些細なことでも構いません。藤島響華について、何か感じることはありませんか?」

 すると碧がゆっくりと口を開いた。

「……藤島はつい先日、魔力暴走を起こしました。その時、藤島の左目が青く光っていた。今思えば、それは魔法神の力の片鱗だったのかもしれません」

 続けて雪乃が言う。

「以前に魔災隊の長官と話した時、江戸時代に魔法神エミュレータが十七歳の少女と融合して魔法災害を鎮めたという言い伝えを聞いて、もしかしたら藤島さんはその言い伝えのように魔法神と融合しているのではないか、という仮説に至りました。ですが、その場合いつ融合したのかの説明がつかず、行き詰まってしまいましたが……」

「でもその言い伝えでは、『大好きな江戸の街を守りたい、みんなを助けたい』って少女が願ったからエミュレータが現れた。それって響華っちがいつも言ってることに似てるし、無関係とも言えないと思う」

 遥の言葉に、ライリーは「なるほど……」と呟いた。

「藤島響華が人々を助けたいと願い、そして魔法神エミュレータと融合した。一応筋は通っていますね」

 だが、やはりライリーも腑に落ちないところはあるようで。

「ただ、CIAが藤島響華の追跡を始めたのは彼女が小学生の時です。それ以前に融合していたという点は、少々疑問に感じられます」

 どこか納得できないといった様子で言った。

「私たちも藤島の魔力について詳しくは知らない。そして、藤島が何か隠しているとしたら、それは問題だ。ライリー魔法工作員、藤島が何者なのか突き止めてください」

 碧がライリーの顔を真っ直ぐに見つめる。ライリーは深く頷いた。

「はい。CIAとして、絶対に藤島響華の正体を暴いてみせます」

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