間章弐 ”彼”が居なくなった世界
試験に合格したので新しいものを追加します。お待たせして申しあけありませんでした。
日本 呉港にて
カモメが鳴いている。多くの船が出ては入ったりしている。いつもと変わらない平和な日常だ。俺らが毎回、海の国防に努めているのが馬鹿らしく思える程だった。だがその平和な日常で何かが欠けているような気がする。
彼は嘘だと思いながら、もう一度新聞紙から一面をくり抜いたものを取り出す。それを見て、再び嫌な気分になった。そこに書かれていたのは
『海上自衛隊所属輸送艦「くにさき」行方不明。事故による損失か!?』
そう書かれていた。よくもまぁ、マスコミはこういう状況だけは敏感になって、寄ってたかってくる。だが俺も彼らとある意味では同じだった。何せ、これを知ったのはつい最近なのだ。しかも内容はどれも要領を得ないものばかりだった。
『「くにさき」が突然、消えた』
『まるで光に呑みこまれるようだった』
『あれは幻なんかじゃなかった!』
警備員だけでは無く、「くにさき」を見ていた自衛官全員が同じ発言をしていた。内容は全て同じ。「くにさき」が光に呑みこまれて消えたと。
この情報はすぐに箝口令が敷かれたが呉の海上自衛官全員が知っていた。その中でマスコミが嗅ぎ付けないのも無理は無かった。隊員達は隣国などの新兵器だなどと話していたが自分はどうも信じられなかった。上はどうやら事故で行方不明になっていると伝えているが上も正直判断に困っているのだろう。
「ハックシュン!」
考え事をしていたらクシャミが出てしまった。どうやら風に当たり過ぎたらしい。彼は艦内に戻る事にした。彼の艦は「すずつき」。第四護衛隊群の第八護衛隊に所属し、普段は佐世保にいるが今回は呉に素に身を置いていた。
「こんな時間にどうした?」
上官に声をかけられた。敬礼をして何をしていたか話す。すると上官は同情するように顔を歪ませた。
「気持ちはわかるよ。親友だったんだろ?大丈夫だよ、きっと何かのトラブルだって」
彼は笑顔でしゃべるがその言葉に自身が無いのは一言聞いただけで分かった。彼もまた「くにさき」どうなったかは知らないのだ。だが部下の為に不安を見せまいとこうして振舞ってくれているのだ。彼は少しだけ罪悪感を感じた。
上官と別れた後に自分の部屋へと戻った。どうやら仲間たちは先に寝たらしい。無理もない、海上自衛官の仕事は多忙だ。休む時には休む。そうしないと海上自衛隊だけではなく、自衛隊では体が保たない。
「・・・・国東」
俺は部屋にある親友といっしょに映った写真を見ながら、その親友の名前を呟いた。
「うっ・・・・」
少し眩暈がした。やはり無理が祟ったみたいだ。少し寝ないと少しやばいかもしれない。
彼はベッドに入り、目を瞑った。寝つけないと思っていたが疲れが溜まっていたみたいですぐに眠気が彼を襲い、暗闇へと引き込んで行った。
日本領海内
海上保安庁の巡視艇である「くにがみ」は日夜、ソレと格闘していた。
「直ちに停船しなさい!繰り返す直ちに停戦しなさいっ!」
「くにがみ」艦長の吉田は必死に中国国籍の船と思われている船に停船の指示を出し続けている声を聞いていた。吉田は両方の感情を持っていた。このまま穏便に帰ってほしいという気持ちと無駄だ、どうせ聞く耳を持たんと諦めの感情だった。
既に数十分、続いているこのやり取りに後者の気持ちの方が強くなり始めていた。
「やはり停船しませんか」
吉田の隣で副長の川内が呟いた。その声にはどこかやりきれないという感情は無かった。吉田と同じく、彼もいつもの通りだと思っているのだろう。
「このままでは埒が開かんな。取り舵20、船の正面に出ろ」
「了解しました」
船がゆっくり体を不審船の正面に出る。正面に出られた不審船は慌てたようだがすぐに面舵を取って回避した。これにより双方の船体が接触することはなかったが不審船は大幅な速度低下に見舞われた。
「今のうちに包囲しろ」
よく漁船などがこの尖閣諸島に多く入ってきているが今度のは訳が違った。明らかに漁船と言う訳では無い、それは長年、この尖閣諸島での経験で分かっている。
問題は何の不審船かだ。これがもし、日本に上陸する前に阻止しなければならない。どちらも日本にとっては重要な事だからだ。
「ダメです。止まる気配がありません」
その報告に焦る気持ちが高まる。だが同時に気持ちを落ち着かせる。ここでヘマをしてしまえばあちらの思う壺になってしまう。
その時だ。新たに見張り員から連絡が入る。
「艦長!不審船で何らかの動きがあるようです」
「動きだと?」
警告射撃を指示しようとした矢先の事だったので吉田は若干、安心した。
「停船か?」
「まだ分かりませんので何とも言えません」
「分かった。そのまま不審船を包囲して、動きに注意しろ」
「了解!」
指示をした後に艦橋から再び、不審船を見る。確かに甲板上で何人かの人間が忙しなく動いている。中には転んでしまうヤツもいた。
「慌てているな」
だが何をそんなに慌てているのかが吉田には分からなかった。自分達が来ている事はとうの昔に知っているはず。当然、その目的が自分達であることなど百も承知のはずだ。何か見られてはいけないモノがあるのだろうか?
そんな考えが浮かんだ時に乗員の一人がこちらに向いている事に気付いた。
「?」
吉田はなぜか彼が気になった。なぜかは分からないがとても嫌な感覚が吉田を襲った。
「何をしようとしているだ?」
副長がそうつぶやいた時に吉田の悪い予感は的中した。
それはほんの一動作だ。彼は持っているものを上げるだけだった。
「「!?」」
乗員の一人が持っていたものを吉田はよく知っていた。最近では戦争映画などでもかなりの頻度で登場する
ロシアのアサルトライフルだ。その名は。
「AK47?」
そう呟いた時には既に艦橋に大量の銃弾が浴びせられていた。
ダダダダダダダダダ!!
辺りで銃声とガラスが砕け落ちる音、そして悲鳴が上がる。
「こちら「くにがみ」!攻撃を受けた。繰り返す攻撃を受けた!」
まだ無事な隊員が本部に連絡をしている。
「艦長、無事ですか!?」
川内が駆け寄ってくる。頭から血が出ているを見るとどうやらガラスか何かで額を切ったらしい。
「損害は?」
痛む傷を堪えながら、川内に尋ねた。
「ここだけで軽傷四、重症一です」
「艦を不審船から遠ざけろ。それと正当防衛射撃だ」
「了解!」
すぐに艦首から砲火が上る。攻撃を開始したのだろう、曳光弾の跡がこっちからでも見えた。そのまま曳光弾は敵の艦尾に命中した。艦尾で火の手が上がる。
「どうだ!?」
吉田は傷をハンカチで押さえながら、状況を見守った。だが艦尾の火災はすぐに乗員たちの手で消し止められてしまった。だが効果はあった、機関をやられたのか速力をグンと落とした。
「艦長、本部から通信です。『貴艦は直ちに現海域を離脱し、母港へ帰投せよ、後の事は他の艦に任せる』だそうです」
「もっともだな」
不審船は遠ざかり始めていた。分が悪いと感じたからかは分からないが今の吉田達にとってはそれがありがたかった。後方からは自艦と同じカラーリングをした艦が三隻向かって来ている。これが本部が言っていた増援だろう、用意がいいことだ。
「痛み分けだな」
こちらとあちらの被害は五分五分だろう。今の吉田達に出来ることは負傷者を早く港へ連れ帰り、病院まで運ぶことだった。
「これより本艦は港へ帰投する」
最後に吉田はもう一度、黒煙を上げている不審船を見た。
「何もないといいが・・・・」
吉田が見つめるがもうそこには不審船の姿は無かった。
この事件は重症 三名、軽傷 十名を出す事件となった。
これにより、日本は更なる苦境へ陥り、その対策として大幅な軍拡を余儀なくされた。
だがそれが
一隻の艦と人間のせいで起こったことをまだ誰も知らない。
次回からまた更新していきますが投稿ペースは少し落ちるかもしれませんが気長に待ってもらえると幸いです。




