メリアは過去を語る 後篇
その騒動の後に私はおとなしく彼女に連いていくことにしたわ。
「ようやく素直になってくれたね」
その時は私も正直驚いていた。あんなに嫌がっていた相手になぜ連いていくのか。たぶん嬉しかったんだと思うわ。当時はそんな事は恥ずかしくて言えなかったけど。心の中では嬉しかった。
「とりあえずいい場所があるんだ。そこなら魔物もいないし、安全だよ」
落ち着いた声で彼女は言う。心配させたくないような声で。だけど眼だけは。眼だけは私とは違う場所、周りの草木などを見ていた。
「あなたは誰なの?」
「さっきであってようやくまともな言葉を聞けれたよ。うーん、そうだね。冒険者かな」
私は首を振った。聞きたい言葉はそれではない。彼女が困惑しているのを見て、分かっていないことに気付いた。
「あなたに名前が知りたいの」
「自分の名前が知りたい?そうだな。まずは君の名前を教えてくれたら答えようかな」
挑発的な声で言ってくるのでまた殴ってやろうかという衝動に駆られたがそれを心の中でぐっと抑えこんだ。
彼女が言っていることは貴族の礼儀の中では当然のことだ。さっきの出来事で頭が回らなくなっていたせいで忘れていたことを彼女に指摘されて顔を赤くしながら答えた。
「私はメリアよ」
「メリアか。いい名前だね」
「私は桂木 守だよ。よろしくねお嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんじゃない」
「えっ?あ、ごめん、メリアだったかな。その・・・メリア、もう着いたよ」
彼女の言葉と同時に光が木の間から漏れてきた。何かと思いながら木々の間を抜けるとそこは・・・・
「うわぁ・・・!」
「なっ?すごいだろ」
辺り一面が絶景だった。それに私は言葉が出ない程の感動を覚え、それを見た桂木は満足そうに頷いていた。
グゥ~~
どこからか音が鳴り響いたわ。最初は私も彼女も何の音かが分かっていなかったけど再び鳴り響いた音ですぐに正体が分かった。
「あっ、どうやら自分の・・・・」
「私の・・・・」
「「お腹がなったみたい」」
見事にシンクロした二人は再び、顔を向け合って笑いあった。
「そうだね。お昼にしようか」
そう言うと彼女は大きなバッグを背中から降ろして中を探ってようやく目当ての物を見つけたようだ。それはかなりの大きさの箱だった。
「いただきます」
私が配られたお弁当を食べようとすると彼女は食べる前に何かの言葉を発し、両手を合わせてから食べ始めた。私はそれがどうしても気になったので食事をしながら桂木に聞いてみた。
「ねぇ、桂木」
「うん?どうしたの」
「さっきのアレだけど何かの儀式なの?」
「えっ?」
最初は目を何回も瞬きさせたけど何かに思い立ったらしく笑いながら「あぁ、それか」と言いながら教えてくれたわ。
「これはね。自分がいた遠い国で行われている食事の時にする行動なんだ。ほら、食べ物って野菜や動物の肉からできたものでしょ。更にはそれらを取ったり、作ったりする。様々な命やその人たちの苦労によって自分の口へと運ばれているのだからそれに感謝するためにああしているのさ」
「へぇ・・・・」
そう適当にいいながら、頭の中では考えていた。人や命をくれた動物たちに感謝するというのは今まで考えたことも無かった。それを当たり前にしている彼女もまた気になってしまった。
「ねぇ、あなたって」
「さっ、食った、食った」
惜しい事をしたと今でも思っているわ。私が質問する前に彼女は食べ終わってしまった。自分も急いで弁当の食べ物を腹の中に詰め込んだ。そして彼女の真似をして「いただきます」というと彼女は笑った。
「ははは、メリアちゃん、食べ終わった時は「ごちそう様だよ」」
「ご、ごちそう様でした」
どうやら食べ始める前と食べ終わった後で言葉は変わるらしい。う~んややこしい。
「さっ、もうそろそろ時間だし、君のお父さんとお母さんを探そうか」
そういえばふと思い出した。既に日は暮れかかっている。急いでいかないと日が暮れるだろう。
だが何だろう。短い間なのになぜか胸にぽっかりと空いたような感覚がする。
「・・・・・」
移動中もその感覚は消えなかった。彼女と話しているときは気が紛れるのだが話終わると再び、その感覚が戻ってくる。
だからこそソレに気付かなかった。
ドン!
「え?」
いきなり強い衝撃に襲われた。私は自分が思考の渦に入っていたことに今更、気付いた。そして尻餅をつくと痛む尻を抑えながら状況を把握した。
「桂木?」
目の前にはさっきいたはずの桂木がいなかった。目の前には桂木が持っていた棒のような物体しか落ちていなかった。
「どこ?どこに行ったの桂木!?」
私の言葉に答えるかのようにそれは聞こえてきたわ。
パァン!パァン!パァン!
あの時に聞いた音と同じだった。目の前に落ちているものとは音の数が違うが間違いなく桂木が持っていたものの音だろう。
「どこなの!?返事してよ」
私は鉄の棒を拾って桂木を探しに走った。鉄の棒は重かったがそれよりも桂木の方が心配だった。
「メリア!!」
聞こえた。間違いなく桂木の声だった。
「桂木!」
声は下から聞こえた。その場所を見ると桂木がさっきの鉄の棒とはまた違う鉄の棒を持って辺りを警戒していた。
「やられたよ。ダイヤウルフより上位種が出てきたんだ。奴は俺が引きつける。だから君は帰るんだ!!」
「イヤよ!おいては行けない」
「聞くんだ。俺は奴を倒すためにここに来たんだ。その為の装備だ」
「でもこれは!?」
私は鉄の棒を見せた。そうしたら考えが改まってくれるかもしれないという浅はかな希望だった。当然、彼女は首を横に振った。
「いいんだ。君が持っといてくれ。必ず取りに行く。だから君は・・・・帰ってくれ」
「ま、、待って!」
それだけ言うと彼女は暗闇に消えて行った。聞こえるのは激しい音と獣が唸る声だけだ。
私は彼女を信じて森を出た。その後はかなり父と母に心配されたけど私にとっては彼女のことだけが気になっていた。
それから私は一生懸命損傷した鉄の棒を直した。その過程で鉄の棒が銃と呼ばれるものだと知った。
それから半年が経ったが彼女は来なかった。それでも私は修理を続けた。
そして一年後、あなたと出会った。
これが私と彼女の短かい短かい付き合いの話。




