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処刑まであと7日。悪役令嬢はもう何もしません  作者: すなな


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3- 処刑まであと7日

王宮へ向かう馬車の中で、セレナは窓の外を眺めていた。

幼い頃から、数えきれないほど通った道だ。

王太子妃教育に茶会や夜会。それに、いつからかアルベルトの仕事を手伝うためにも通うようになった。

王宮へ向かうことは、いつしか日常になっていた。


けれど今日は違う。

これから何を言われるのか、もう知っている。






「セレナ・アルヴェール様がお見えになりました」


「どうぞ」


案内されたのは、王太子の執務室だった。

アルベルトは窓際に立っていた。


「お呼びでしょうか、殿下」

「ああ。座って」


いつもと同じ席に腰を下ろす。

何度ここで向かい合っただろう。

机の上には数枚の書類が置かれていた。

一番上の紙を見て、セレナは視線を逸らした。


知っている。

前の人生で、何度も読み返した書類だ。


「まず伝えておくよ。リリアの容体は安定した。もう命に別状はないそうだよ」

「それは、よろしゅうございました」


アルベルトがこちらを見る。


「本当にそう思ってる?」

「もちろんです」

「……そう」


それきり、しばらく沈黙が続いた。

先に口を開いたのはアルベルトだった。


「セレナ。もう一度だけ聞く」

「はい」

「リリアの杯に毒を入れた?」

「いいえ」

「誰かに命じたことは?」

「ございません」

「君の控室から見つかった毒は?」

「私のものではありません」

「侍女の証言も嘘だと?」

「少なくとも、私は命じておりません」


アルベルトは黙り込んだ。


「リリアは死にかけたんだ」

「存じています」

「……それでも、やっていないと?」

「はい」


前の人生でも、同じようなやり取りをした。

あのときのセレナは必死だった。

信じてほしくて、何度も説明した。

けれど、何を言ってもアルベルトの顔は変わらなかった。


「君がリリアを快く思っていなかったのは事実だよね」

「ええ。何度か注意はいたしました」

「リリアは、君に嫌われていると思っていた」

「そうでしょうね」


セレナにとっては、王宮で守るべきことを伝えただけだった。

それをリリアがどう受け取ったかまでは分からない。


「君が婚約者だからという理由だけで、証拠を無視して庇うことはできない」

「そうですか」

「分かってくれるね」


セレナは彼の顔を見た。

前の人生では、その言葉に納得しようとした。

王太子なのだから仕方がない。

私情で婚約者を庇うような人ではいけない。

そう自分に言い聞かせた。


「婚約者だからと、私を庇うことはできないと?」

「そうだよ」

「……リリア様には、随分お優しいのに」


アルベルトの表情が変わった。


「何が言いたいの」

「いいえ。ただ、少し不思議に思っただけです」

「リリアは関係ない」

「そうでしょうか」

「彼女は被害者だ」

「ええ。この件については」


アルベルトが眉を寄せる。

セレナはそれ以上続けなかった。


リリアと出会ってから、アルベルトは変わった。

夜会では彼女を探し、何かあれば真っ先に庇った。

それでもセレナは口を挟まなかった。

自分は未来の王太子妃なのだから、その程度のことで嫉妬するべきではないと思っていた。

自分はアルベルトが立派な王になるために、ずっと隣で支えてきた。

それを彼も望んでいるのだと、勝手に思っていた。


アルベルトが机の上の書類を取った。


「この件については、引き続き調査を進める」

「はい」

「それから」


アルベルトの指が、紙の端で止まった。

そして微笑みながら言った。



「君との婚約を破棄する」


その言葉を、セレナは前にも聞いた。

あのときは息ができなくなった。

何を言われているのか理解できず、ただアルベルトの顔を見ていた。


「承知いたしました」


今度は、声も震えなかった。


「婚約破棄、謹んでお受けいたします」


「それだけ?」

「はい」


「本当に、それでいいの?」


セレナは一瞬、返事に迷った。

いいのかと聞かれれば、きっと違う。

十年以上、この人の隣に立つ未来しか考えてこなかった。


それが今日、なくなる。


「殿下がお決めになったことでしょう?」

「それは、そうだけど」

「でしたら、私から申し上げることはございません」


アルベルトは何も言わなかった。

差し出された婚約解消の書類に目を通す。

署名欄に自分の名前を書いた。


セレナ・アルヴェール。


ペンを置いた指が、ほんの少し震えていた。

セレナはそっと手を膝の上へ下ろした。


「それでは、失礼いたします」


立ち上がる。


「セレナ」


呼び止められ、振り返った。


「審問で無実が証明されれば、謹慎は解かれる」

「そうでしょうね」

「だから……」


アルベルトはそこで言葉を止めた。

何を言おうとしたのか、セレナには分からない。


「リリア様の一日も早いご回復を、お祈りしております」


一礼して、部屋を出た。







王宮の廊下を歩く。

前の人生では、ここで涙が止まらなくなった。

侍女に支えられなければ、馬車まで辿り着けなかった。

今日は一人で歩いている。

泣いてはいない。

けれど馬車へ乗り込み、膝の上に手を置くと、指先はまだ少し震えていた。

十年以上、この人の隣に立つ未来だけを考えてきた。


それが今日、なくなった。


「お嬢様」


向かいに座った侍女が、不安そうにこちらを見ている。


「お話は……?」

「婚約を破棄されました」


侍女の顔が強張った。


「それから、今日より公爵邸で謹慎です」

「そんな……」


侍女は絶句した。

しばらくして、小さな声で呟く。


「旦那様がお知りになったら……」


セレナも同じことを考えていた。

前の人生で婚約破棄を知った父は、珍しく怒りを露わにした。

王家への支援も見直すと言い出し、それを止めたのはセレナだった。

きっと誤解は解ける。

そうすれば、また元に戻れる。

あのときは本気でそう信じていた。


「お嬢様?」

「何でもないわ」


窓の外へ目を向ける。

王宮が少しずつ遠ざかっていく。

やがて大きな尖塔も、街並みの向こうへ隠れた。

父はきっと怒るだろう。

セレナは背もたれに身体を預けた。

馬車はそのまま、アルヴェール公爵邸へ向かった。


処刑まで、あと七日。


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