28- 処刑まであと1日
視線が一斉にアルベルトへ向いた。
「……王太子府より」
衛兵の言葉が、大広間に残る。
アルベルトはしばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「公爵家に不穏な動きがあるという報告を受けていました」
最高司法官が眉を寄せる。
「不穏な動き?」
「ええ。父上に危害が及ぶ可能性も考え、警備を増やすよう命じました」
「では、あの場所に衛兵がいたのは――」
「父上を守るためです」
声に乱れはない。
「結果として間に合わなかったことは残念ですが、それを理由に僕が父上を殺したと疑われるのは心外ですね」
「でしたら、おかしいですわ」
セレナが言った。
アルベルトがこちらを見る。
「何が?」
「国王陛下のお命が狙われている可能性をご存じだったのでしょう?」
「そうだよ」
「ではなぜ、衛兵を陛下のおそばに置かなかったのです?」
アルベルトが黙った。
セレナは警備記録へ目を落とす。
「衛兵が待機していたのはこちらです。陛下のお部屋から離れた廊下」
指で場所を示す。
「ここからでは、何かあってもすぐには駆けつけられません」
最高司法官も記録を覗き込む。
「ですが、わたくしが陛下のお部屋から出ようとすれば、この場所を通ります」
アルベルトの表情から、わずかに余裕が消えた。
「国王陛下を守るには不自然ですわ」
セレナは顔を上げる。
「わたくしを捕らえるのでしたら、とても都合のよい場所ですけれど」
しん、と静まり返った。
「それは警備責任者が――」
「その警備責任者なら、さっき証言を取った」
レオンだった。
アルベルトが振り返る。
「配置場所まで王太子府から指定されたって」
「……」
「自分の判断で変えた場所はないそうだ」
アルベルトの目が細くなる。
「外国の皇太子が、我が国の警備責任者から勝手に事情を聞いたのですか?」
「正式に許可は取ってある」
最高司法官が頷いた。
「私から許可しました」
アルベルトは黙った。
◇
「もう一度尋ねます」
最高司法官が、先ほどから証言台に立つ侍従へ向き直った。
「この召喚状は、誰が用意したものですか」
侍従は俯いていた。
「国王付きの文官から受け取ったというあなたの証言は、すでに否定されています」
返事はない。
「あなたは、何を命じられたのです」
侍従の手が震えた。
長い沈黙のあと。
「……私です」
小さな声だった。
「何がです?」
「召喚状を用意したのは、私です」
広間の空気が張りつめた。
「国王陛下の命ではない?」
「違います」
「では、なぜ?」
侍従は唇を噛んだ。
「公爵が、国家への反逆を企てていると聞きました」
公爵が顔を上げる。
「国王陛下が殺害されたあと、殿下から……公爵が動く前に捕らえなければならないと」
「それで、セレナ嬢を?」
「公爵を追い詰めるために必要だと言われました」
侍従の声がかすれる。
「セレナ様を国王陛下のお部屋へ呼び出すようにと」
「使者へ召喚状を渡したのも?」
「私です」
「衛兵への連絡は?」
「それも……」
侍従が頷く。
「セレナ様が部屋へ入ったあと、逃がさないようにと」
セレナは何も言わず聞いていた。
侍従は最初から、国王殺害に加担していたわけではない。
公爵が国王を殺した。
そう信じていた。
だから命令に従った。
けれど、今日の審問でその前提が崩れた。
侍従は顔を上げた。
「私は……公爵が陛下を殺害したのだと思っていました」
最高司法官が尋ねる。
「誰から、そう聞いたのです?」
また沈黙した。
侍従の視線が上座へ向かう。
アルベルトは動かない。
「答えなさい」
侍従が目を伏せた。
「……アルベルト殿下です」
誰も声を上げなかった。
「召喚状の作成も?」
「はい」
「使者へ渡すよう命じたのも?」
「はい」
「衛兵を配置させたのも?」
「……はい」
アルベルトは、しばらく侍従を見ていた。
責めもしない。
怒りもしない。
「お前、他人に興味ないんだろ」
アルベルトがレオンを見る。
「……何?」
「だから何でも人任せなんだよ。相手が何を考えてるかも、自分のために何をしてるかも見ようとしない」
レオンはアルベルトを見る。
「だから、こうなる」
最高司法官がアルベルトを見る。
「殿下。ご説明を」
「説明?」
アルベルトは首を傾げた。
「今、彼が話した通りですよ」
セレナが眉を寄せる。
「お認めになるのですか?」
「召喚状のことならね」
あまりにもあっさりしていた。
「父上が殺されたと知って、公爵の仕業だと思った」
アルベルトは公爵を見る。
「だから捕らえようとした。それだけだよ」
「そのためにセレナ嬢を犯人に見せかけたのですか」
最高司法官の声が厳しくなる。
「公爵を動けなくする必要があった」
「国王陛下の名を騙ってまで?」
「緊急事態だったからね」
「セレナ嬢には、国王殺害の罪が着せられるところだったのですよ」
「でも」
アルベルトは不思議そうに瞬いた。
「父上を殺したのは僕じゃない」
言葉が止まった。
「僕がしたのは、父上が死んだあとだ」
アルベルトは机上の侍医の記録を見る。
「さっき確認したばかりでしょう?」
国王の死亡時刻。
召喚状が作られたのは、そのあと。
「召喚状を作らせた。衛兵も配置した。それは認めるよ」
そして公爵へ目を向ける。
「でも、父上を殺したのは公爵だ」
「根拠は?」
「逆に聞きたいな」
アルベルトは最高司法官を見た。
「僕が父上を殺した証拠は?」
誰も答えなかった。
アルベルトが、わずかに笑った。
「ないでしょう?」
あと2話で完結です。
本日中(8/19)に投稿予定です。
29話 12:10
最終話 20:10
どうぞよろしくおねがいいたします。




