25- 処刑まであと1日
翌朝。
セレナは再び大広間へ連れてこられた。
父とは今日も離れた場所に立たされる。
セレナは上座を見るより先に、レオンを探した。
いた。
目が合う。
レオンがほんの少し笑った。
セレナも小さく息を吐く。
「では、審問を再開します」
最高司法官の声が響いた。
上座にはアルベルトが座っている。
昨日と変わらない、穏やかな顔だった。
◇
「まず、昨日ヴァルディア帝国より提出された資料について報告します」
最高司法官が帳簿を開いた。
「押収記録、立会人の証言、署名を確認しました。翻訳についても照合を行い、提出された資料は真正なものと認めます」
広間がざわつく。
「さらに、本審問に提出されていた帳簿との照合を行った結果、改竄が確認されました」
「どの帳簿です?」
「アルヴェール公爵家から、毒の仲介人へ金銭が支払われたとするものです」
ざわめきが大きくなった。
父が顔を上げる。
「公爵家からの支払いは?」
「確認できませんでした」
今度こそ、広間が騒然となった。
最高司法官が手で制する。
「一方、ヴァルディア帝国で押収された帳簿には、同時期、同じ仲介人への支払いが記録されています」
「支払ったのは?」
「ヴォルターの管理下にあった商会だ」
レオンが答えた。
セレナはその名前に覚えがあった。
レオンがヴァルディアへ戻るきっかけになった人物だ。
「ヴォルターとは?」
「ヴァルディア帝国の貴族。現在、国家反逆の容疑で拘束している」
レオンが一通の書類を差し出した。
「供述も取った」
最高司法官が受け取り、目を通す。
「ヴォルターは灰穂病の拡大に手を加え、国外の小麦価格を操作していた。目的は、アルヴェール王国の穀物市場を混乱させること」
頁がめくられる。
「そして、その障害として名前が挙げられているのが――セレナ嬢です」
「……わたくし?」
「あなたは財務、物流、穀物取引、それぞれの情報に接することができた。過去にも不自然な取引を指摘していたため、計画の発覚につながる可能性が高いと判断されていたようです」
セレナには覚えがなかった。
おかしな数字があれば、確かめていただけだ。
「そこで利用されたのが、リリア男爵令嬢でした」
リリアの肩がわずかに揺れた。
「王太子殿下への思慕を利用し、毒を入手できるよう誘導した。さらに同じ毒をセレナ嬢の私室へ持ち込ませた」
最高司法官が書類を閉じた。
「セレナ嬢を犯人にするために」
◇
「リリア男爵令嬢。前へ」
リリアが証言台へ進んだ。
「改めて確認します。毒を飲んだのは、あなた自身の意思ですね」
「はい」
「セレナ嬢から命じられたことは?」
「ありません」
「アルヴェール公爵からは?」
「ありません」
「公爵本人、あるいは公爵家の者と、この件について接触したことはありますか?」
「一度もありません」
「では、毒はどのように入手しましたか」
リリアは指先を握った。
「その頃、知り合った人がいました」
一人の名を告げる。
審問官がすぐに資料を確認した。
「ヴァルディア側から提出された関係者名簿にあります」
リリアは俯いたまま続けた。
「最初は、アルベルト様のことを相談していただけでした。セレナ様が私を嫌っているように見えればいいと……そんな話をして」
一度、言葉を切る。
「その人から、少し具合が悪くなる程度の薬なら手に入ると聞きました」
「自作自演をするよう命じられたのですか?」
「いいえ」
リリアは顔を上げた。
「毒を飲むと決めたのは、私です」
「その人物から公爵の名を聞いたことは?」
「ありません」
「公爵の指示であなたに接触したと聞いたことは?」
「ありません」
「金銭を受け取っていたという話は?」
「一度も」
リリアはまっすぐ前を向いた。
「公爵様は関係ありません」
最高司法官はしばらく資料を確認していた。
やがて顔を上げる。
「以上をもって、リリア男爵令嬢毒殺未遂事件について、アルヴェール公爵を首謀者とした昨日の認定を撤回します」
広間がどよめいた。
「また、灰穂病および穀物市場への工作についても、ヴォルターならびにその関係者による関与が認められます」
「ただし」
その一言で、ざわめきが止まった。
「国王陛下殺害については、別途審理します」
「当然でしょう」
アルベルトが口を開いた。
皆の視線が上座へ向く。
「毒事件と父上の死は別です」
最高司法官が頷く。
「その通りです」
「父上が亡くなった部屋にいたのはセレナです。父上がセレナを召喚した記録もない」
アルベルトはレオンを見る。
「ヴァルディア皇太子殿下がお持ちになった証拠にも、父上の死に関するものはないのでしょう?」
「ないな」
レオンはあっさり認めた。
アルベルトの口元がわずかに緩む。
「でしたら、話は簡単です」
「いや」
レオンが言った。
アルベルトの目が止まる。
「簡単じゃなくなった」
レオンは一枚の紙を手に取った。
セレナに届いた、国王名義の召喚状。
「召喚状のことを調べた」
アルベルトの笑みが消えた。
「セレナ」
「はい」
「これを持ってきた男、覚えてる?」
「ええ」
「なら、よかった」
レオンは召喚状を審問官の前へ置いた。
「そいつを、見つけた」




