表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑まであと7日。悪役令嬢はもう何もしません  作者: すなな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

21- 処刑まであと2日

「続いて、セレナ・アルヴェール公爵令嬢について確認します」


審問官の声が響いた。

セレナは顔を上げる。


「先ほど申し上げた通り、毒殺未遂について、あなたがリリア男爵令嬢を害した事実は認められませんでした」


広間がざわめく。


「また、一連の計画についても、あなた自身が立案したことを示す証拠はありません」

「でしたら――」

「ですが」


言葉を遮られた。


「あなたが何も知らなかったとは限らない」


セレナの眉が寄る。


「どういう意味ですの?」

「知らされる必要がなかった、と申し上げています」

「……」


審問官は一枚の資料を手に取った。


「セレナ嬢。あなたが王太子妃教育を始めたのは、何歳の頃ですか?」


予想していなかった質問だった。


「……六歳ですわ」

「六歳」


審問官が繰り返す。


「それ以降、礼法、歴史、外国語、外交、財務について学び、成長してからは王宮政務にも関わっていた」

「はい」

「公爵家の仕事も?」

「お手伝いしておりました」

「どの程度です?」

「領地から届く報告書の確認や、収支について意見を求められることもございました」

また紙がめくられる。

「王宮では財務局の資料にも目を通していた」

「王太子妃となる以上、必要なことです」

「国外の交易についても?」

「当然ですわ」

「穀物価格の推移も把握していた」

「はい」

「まだ十代の令嬢が?」

セレナの顔が強張った。

「何がおっしゃりたいのです」


審問官は資料を置いた。


「セレナ嬢は幼少期より、公爵の意向に従うことを求められていたのではありませんか」

「違いますわ」


すぐに否定した。


「わたくし自身が必要だと考え、学んできたことです」

「六歳の子供が?」

「……」

「財務も、外交も、王宮政務も。すべて自ら望んだと?」

「王太子妃になることは決まっておりました。ならば、その責務を果たせるだけのものを身につけるのは当然でしょう」

「それを誰に教えられました?」

セレナが止まった。

「……何ですって?」

「王太子妃として責務を果たさなければならない。その考えは、どなたから?」

「それは……」


父から教わったこともある。

教師からも。

王宮からも。

けれど最後に、それを自分の役目として引き受けたのはセレナ自身だ。


「わたくしが、そうあるべきだと――」

「父親を庇う必要はありません」

「庇ってなどおりません!」


思わず声が強くなった。


「わたくしが学んだのも、仕事をしたのも、すべて自分で必要だと判断したからです」

「では、お尋ねします」


審問官がセレナを見る。


「あなたは一度でも、公爵の意向に逆らったことがありますか?」


口を開いた。

けれど。

すぐには言葉が出なかった。

父と意見が違ったことならある。

議論したことも。

けれど、明確に父の意向に背き、何かをしたことは。

思い出せない。


「それは――」

「娘の努力を、私の功績にしないでいただきたい」


父の声が響いた。

セレナが振り返る。

公爵は審問官を見ていた。


「娘が六歳から学んできたことは事実です。私が教師を選び、環境を整えたことも否定しません」

「お父様……」

「ですが、学んだのはセレナだ」


静かな声だった。


「眠る時間を削って本を読んだのも。教師が帰ったあとまで机に向かったのも。私の知らぬところで外国の資料を取り寄せたのも、すべて娘自身です」


審問官は黙って聞いている。


「王宮の仕事もそうだ。私が命じたからではない。必要だと思えば勝手に手を出す。止めてもやる」


セレナが瞬いた。


「お父様」

「私が何度、もう休めと言ったと思っている」


こんな場所で言われるとは思わなかった。

父は構わず続ける。


「セレナが身につけたものは、すべて本人が積み上げたものです。それを私が娘を操るために与えたもののように言うのは、おやめいただきたい」


しばらく沈黙があった。


「それを判断するのは、あなたではありません」


審問官はそれだけ返した。

公爵の目が鋭くなる。


「では、誰が判断すると?」


答えはなかった。





「昨日の国王陛下殺害について、改めて確認します」


話が戻った。


「セレナ公爵令嬢。あなたは国王陛下名義の召喚状を受け、王宮へ来た」

「はい」

「指定された部屋へ入り、国王陛下を発見した」

「すでに倒れていらっしゃいました」

「その直後、王宮侍女があなたを発見した」

「はい」

「しかし先ほど確認した通り、国王陛下があなたを召喚した記録はありません」


審問官が一枚の紙を掲げる。

見覚えがあった。

昨日、公爵邸へ届けられたものだ。


「こちらが、その召喚状です」


セレナは黙って見つめた。


「王家の印章が使われていますが、陛下の命令によって発行されたものではありません」

「偽造されたものですわ」

「その通りです」

「でしたら、それを作った者を調べれば――」

「すでに調べています」


審問官は別の資料を手に取った。


「印章の複製に関与したと見られる人物へ、金が渡っていました」


嫌な予感がした。


「その金も」


父が先に口を開く。


「私が出したことになっているのか」

「アルヴェール公爵家に関係する口座から支払われています」


広間がまたざわつく。

父は鼻で笑った。


「随分と便利な口座だな」

「お父様」

「私の知らぬところで、よく働いてくれている」


審問官は表情を変えなかった。


「公爵は偽の召喚状を用意し、娘を王宮へ送り込んだ」

「違いますわ」

「セレナ嬢自身は、それが偽物だと知らなかったのかもしれません」

「……何を」

「父親から国王陛下に呼ばれたと聞かされれば、あなたは疑わず王宮へ向かう」

「お父様から聞いたのではありません。王宮から使者が参りました」

「その使者を用意したのが公爵だとすれば?」


何を言っても。

次の答えが用意されている。

セレナは審問官を睨んだ。


「では、わたくしは何のために陛下のお部屋へ送られたと?」

「国王陛下を殺害するためです」

「わたくしは殺しておりません」

「命じられた記憶は?」

「ございません!」

「ならば、あなたが知らないところで計画されていたのでしょう」

「先ほどから、そればかりですわね」


広間が静まった。

セレナは一歩前へ出ようとして、衛兵に止められた。


「わたくしが知っていれば共犯。知らなければ利用された。否定すれば父を庇っている。何を申し上げても、結論は同じではありませんか」


審問官が黙る。


「初めから、お父様が黒幕だという答えしか用意していないのでしょう」

「セレナ」


父が低く呼んだ。


「ですが――」

「いい」


公爵は審問官を見た。


「続けろ」

「お父様!」

「どこまで私を悪人にできるのか、聞いてみたい」


広間のあちこちで息を呑む音がした。





審問官は資料を置いた。


「では、整理いたします」


王家への影響力を持つアルヴェール公爵家。

娘は幼い頃から王太子妃として育てられ、王宮内部の政務にも深く関わっていた。

婚約破棄。

その直後、公爵家は王家への債務保証を停止。

同時に王宮内部の調査を始め、財務局や穀物商会へ接触した。

さらに、リリアの毒事件。

リリアを自作自演へ誘導した商人には、公爵家から金が渡っている。

その結果、王家は無実の公爵令嬢へ極刑を言い渡した。

そして、その冤罪が明らかになろうとしていた矢先。

国王が殺害された。


「公爵は娘の婚約破棄を契機に、王家を財政的に追い詰めた」


審問官の声だけが広間に響く。


「リリア男爵令嬢を利用し、王家に失態を犯させた」


父は何も言わない。


「その間、王宮内部の情報を集め、国内の物流にも干渉した」


セレナは拳を握った。


「そして最後に」


審問官がセレナを見る。


「幼い頃から自らの意向に従わせてきた娘を利用し、国王陛下を殺害した」

「違います」


セレナは言った。


「すべて違いますわ」

「では、なぜこれほどの事実が一人の人物へつながるのでしょう」

「つなげているのは、あなた方でしょう!」


声が広間に響いた。

今度は父も止めなかった。


「お父様がわたくしに王太子妃教育を受けさせたことと、陛下の死に何の関係がありますの?」

「……」

「わたくしが財務を学んだことが、反逆の証拠ですの?」


答えはない。


「王家のために働いたことまで、王家を滅ぼす準備だったと?」


セレナは上座を見る。

アルベルトは黙っていた。


「随分と都合のよいお話ですこと」


そのとき。


「セレナ」


アルベルトが初めて口を開いた。

広間の視線が上座へ集まる。

アルベルトはゆっくり立ち上がった。


「もう、お父上を庇わなくていいんだよ」


セレナは何も言わなかった。


「君は悪くない」


優しい声だった。


「小さい頃から言われた通りにしてきただけなんだろう?」

「違います」

「怖かったよね」

「違うと申し上げています」

「もう大丈夫だよ」


アルベルトは微笑んだ。


「僕が君を助けるから」


ぞっとした。

昨夜と同じ声だった。

牢の中で。

自分の意思など必要ないと言ったときと。

まったく同じ声。


「……アルベルト殿下」

「何?」

「わたくしの人生を、勝手に作り替えないでくださいませ」


笑みが、わずかに止まった。


「わたくしが学んだことも、働いたことも、選んできたことも」


セレナはアルベルトを見据える。


「すべて、わたくしの人生です」

「……」

「あなたの都合のいい物語にしないで」


アルベルトはしばらくセレナを見ていた。

それから。

また笑った。

アルベルトは審問官へ向き直る。


「続けて」


まるで。

セレナが何を言おうと、最初から何も変わらないと決まっているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ