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処刑まであと7日。悪役令嬢はもう何もしません  作者: すなな


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20/34

20- 処刑まであと2日

国王が殺害された翌日。


王宮の大広間には、朝から多くの貴族が集められていた。

扉が開く。


セレナは衛兵に挟まれ、広間へ入った。

少し遅れて、父も連れてこられる。


「お父様……」


父がこちらを見る。

それだけだった。

昨日、王宮で拘束されてから一度も話せていない。

上座にはアルベルトがいた。


黒一色の喪服に身を包み、静かに審問の開始を待っている。


「このようなときでも、王太子として……」

「ご立派だ」


周囲からそんな声まで聞こえてきた。


セレナには気味が悪かった。

昨夜、牢であんなことを口にした男と同じ人物には見えない。


アルベルトがこちらを見た。

ほんのわずかに、目元が緩んだ。

セレナはすぐに視線を外した。



◇



「まず、先の毒殺未遂事件について確認する」


審問官の声が響いた。


「リリア男爵令嬢。前へ」


リリアが進み出る。

顔色は悪かったが、しっかりと前を向いていた。


「あなたは以前、セレナ・アルヴェール公爵令嬢に毒を盛られたと証言しましたね」

「……はい」

「その証言に相違があったと?」


リリアが唇を噛む。


「毒を飲んだのは、私です」


広間がざわついた。


「自ら?」

「はい」

「では、セレナ公爵令嬢は?」


リリアはセレナを見た。


「何もしていません」


ざわめきが大きくなる。


「私は……アルベルト様に心配してほしくて、自分で毒を飲みました」

「セレナ公爵令嬢があなたを殺害しようとしたという証言は?」

「嘘です」


リリアは俯かなかった。


「セレナ様は何もしていません」


セレナに下された極刑の根拠は、これで崩れたはずだった。

しかし審問官は、次の資料を手に取った。


「では、毒を入手した経路について確認します」


リリアの顔に戸惑いが浮かぶ。


「王都の露店で、商人から受け取った」

「……はい」

「その商人から、自作自演を勧められたのですね?」


リリアは一瞬黙った。


「話は……しました」

「どのような?」

「私が、アルベルト様に選んでいただきたいと」


言いにくそうに言葉を継ぐ。


「そうしたら、少し心配させればいいと。薬を飲んで、セレナ様にされたと言えばいいと……」

「つまり、あなた一人で考えたことではない」

「でも!」


リリアが顔を上げた。


「あの人に命じられたわけではありません。最後に決めたのは私です」

「分かっています」


審問官は淡々と答えた。


「問題は、その商人です」


一枚の書類が取り出される。


「調査の結果、その男へ金が渡っていたことが判明しました」

「お金……?」

「はい」

「誰からですか?」


審問官は書類を掲げた。


「資金の出所を追ったところ、アルヴェール公爵家へ行き着きました」


広間がどよめいた。


「馬鹿な」


父が低い声を上げる。


「そのような金を出した覚えはない」

「こちらが送金記録です」

「捏造だ」

「公爵家の管理下にある口座を経由しております」

「ならば調べ直せ。私はその男など知らん」

「私もです!」


リリアが声を上げた。


「公爵様なんて関係ありません! あの人から公爵様の名前なんて一度も聞いていません!」

「あなたが知らなかったとしても不思議ではありません」

「え?」

「あなた自身も、利用されていた可能性があります」


リリアの顔が強張る。


「……利用?」

「あなたが王太子殿下を慕っていることを知り、その感情を利用した者がいたとすれば?」

「違います」

「なぜ断言できます?」

「だって……」


そこでリリアは言葉に詰まった。

商人の名前すら知らない。

どこから来たのかも、今どこにいるのかも。


「違います……」


それでも首を振る。


「セレナ様も、公爵様も関係ありません」

「あなた自身も被害者なのです、リリア男爵令嬢」


リリアの顔から血の気が引いた。



◇



「では、アルヴェール公爵の目的について説明します」


審問官が別の資料を開いた。


「まず、娘であるセレナ公爵令嬢に毒殺未遂の嫌疑をかける」

「何を……」

「王家に極刑を決定させたのち、リリア男爵令嬢の自作自演を明らかにする」


広間が静まり返る。


「そうなれば王家は、無実の公爵令嬢を処刑しようとしたことになる」


セレナは息を呑んだ。


「その失態を理由に、アルヴェール公爵家は王家への債務保証を停止。王家を財政的に追い詰める」

「待て」


父が口を開いた。


「保証を停止したのは、娘との婚約を一方的に破棄されたからだ」

「そう主張なさるでしょう」

「主張ではない。事実だ」

「では、婚約破棄後すぐに王宮内部を調査し始めた理由は?」

「娘の冤罪を調べるためだ」

「財務局の人間と接触したのも?」

「王宮内部の金の流れを確認する必要があった」

「穀物商会と接触したのも?」

「灰穂病と小麦の問題があったからだ」

「国外の取引価格まで調べていたのも?」


父が黙った。

どれも事実だった。

ただ、その意味だけがまるで違う。


「公爵は以前から、王家の財政状況を把握していた」


審問官が続ける。


「娘の婚約破棄を契機に債務保証を停止。さらに王宮内部の情報を集め、国内の物流と食糧事情まで調査していた」

「違います!」


リリアの声が響いた。

皆の視線が集まる。


「セレナ様は何もしていません!」

「セレナ公爵令嬢については、我々もそう考えております」

「……え?」


セレナも顔を上げた。

「毒殺未遂について、セレナ公爵令嬢は無実だった」

再びざわめきが起こる。


「ただし」


審問官の視線が父へ向いた。


「公爵令嬢自身も、父親の計画を知らなかったとすれば?」

「何を仰っているのです」

「リリア男爵令嬢と同じです」


セレナの表情が強張る。


「二人とも、公爵に利用された」

「違いますわ!」

「セレナ」


父の声だった。


「黙っていなさい」

「ですが、お父様」

「いい」


父はそれ以上言わなかった。

セレナにも、その意図は分かった。

父は自分を切り離そうとしている。




◇




「そして昨日」


審問官が続けた。


「国王陛下が殺害された」


空気が変わった。


「現場で発見されたのは、セレナ公爵令嬢」


視線が一斉に集まる。


「凶器に手をかけていたところを、王宮侍女が目撃しております」

「わたくしが部屋へ入ったときには、すでに陛下は倒れていらっしゃいました」

「なぜ、その部屋へ?」

「陛下から召喚を受けたからです」

「召喚?」

「はい」


審問官が手元の記録を見る。


「そのような記録はありません」

「……何ですって?」

「昨日、国王陛下がセレナ公爵令嬢を召喚した記録は、王宮には残されておりません」

「ですが、使者が公爵邸へ参りました」

「国王陛下は、そのような使者を出しておられません」


セレナは上座を見た。

アルベルトは動かない。


「では」


審問官が問う。


「誰に呼ばれたのです?」


答えは分かっている。

だが、証明するものがない。


「……国王陛下のお名前を騙った者ですわ」

「その人物に心当たりは?」

「ございます」


広間がざわついた。


「セレナ」


父が低く呼ぶ。

それでもセレナは上座から目を逸らさなかった。


「アルベルト殿下です」


静寂が落ちた。

アルベルトがゆっくり立ち上がる。


「僕が?」

「はい」

「どうして僕が父上を殺すの?」

「それは、あなたが一番よくご存じでしょう」

「分からないな」


アルベルトは悲しそうに眉を下げた。


「セレナ。僕は昨日、父を亡くしたんだよ」


周囲から戸惑うような声が漏れる。


「その僕が、父を殺したと言うの?」

「あなたは――」

「もういい」


父の声が遮った。


「セレナ、やめなさい」

「お父様」

「それ以上は何も言うな」

「ですが――」

「セレナ」


強い声だった。

セレナは口を閉じた。

父は審問官へ向き直る。


「娘は昨日から拘束されている。これ以上の質問は私に」

「お父様!」

「いいと言っている」


父は一度もセレナを見なかった。



◇



「以上を踏まえ」


審問官が最後の資料を手に取る。


「本件は単なる国王殺害事件ではなく、アルヴェール公爵家による一連の王家転覆計画であった可能性を視野に入れます」

「異議がある」


父が言った。


「認めます」

「すべて推測だ」

「資金記録があります」

「捏造されたものだ」

「王家への債務保証を停止したことは?」

「事実だ」

「王宮内部を調査したことは?」

「事実だ」

「財務関係者との接触は?」

「事実だ」

「穀物商会との接触は?」

「事実だ」

「国外の穀物価格を調査したことは?」

「事実だ」

「そして昨日、公爵令嬢が国王陛下の遺体の傍らで発見された」


父は答えなかった。


「これも事実です」


審問官は資料を置いた。


「偶然にしては、少々重なりすぎているのではありませんか」


静まり返った広間で、セレナは上座を見た。


アルベルトは喪服姿のまま、静かに座っている。


目が合った。


ほんの少し。

アルベルトの口元が上がった。


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