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処刑まであと7日。悪役令嬢はもう何もしません  作者: すなな


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19/34

19- 処刑まであと3日

※本話には、ヤンデレ要素および相手の意思を尊重しないハードな描写があります。苦手な方はご注意ください。

『セレナ様は、あなたに嫉妬なんてしていません』


朝から、その言葉が頭に残っていた。


セレナは何もしていなかった。


リリアを殺そうともしていない。


自分を取り戻そうともしていない。


つまり。

セレナは無実なのだ。


調べれば、いずれ分かってしまう。

そうなれば謹慎も解かれる。

処刑される理由もなくなる。


そして。


レオンが戻ってくる。


ヴァルディア帝国の皇太子。

セレナを妻にできる男。

この国から連れ出すことのできる男。

それは駄目だった。

どうにかしなければならない。





「三日後の審問は見送る」


父王の言葉に、アルベルトは顔を上げた。


「なぜです?」

「証拠が足りん」


国王は机の上の書類を閉じた。


「毒の入手経路が分かっていない。公爵からも、調査中につき時間が欲しいと申し入れがあった」

「セレナの部屋から毒が見つかっています」

「だからこそ調べる必要がある」

「リリアも、セレナにされたと証言しています」

「証言と毒が見つかった。それだけで公爵令嬢を処刑するつもりか?」


アルベルトは黙った。


「審問を急ぐ必要はない。調べてからでも遅くはないだろう」


遅い。


セレナは何もしていない。


それをアルベルトは、もう知っている。


調べれば分かってしまう。

セレナは無実になる。

自由になる。

そして、レオンが戻ってくる。

あの男なら、本当に連れていける。

この国から。

自分の手が届かないところまで。


「予定通り審問を行うべきです」

「必要ない」

「あります」

「何をそこまで急いでいる」


答えなかった。

急がなければならない。


セレナが無実になってしまう前に。

レオンが戻ってくる前に。

どこにも行けないようにしなければ。


「アルベルト」


国王の声が低くなる。


「お前はこの件から外れろ」

「なぜです?」

「最近のお前は、セレナ嬢のことになると判断がおかしい」

「おかしくありません」

「婚約を破棄した相手を監視させ、公爵邸にまで押しかけたそうだな」

「必要だったからです」

「何のために」

「セレナのことを知るためです」


国王が黙った。


「どこへ行ったのか。誰と会ったのか。何をしていたのか。それを知りたかっただけです」

「……それをおかしいと言っている」


アルベルトには分からなかった。

知りたいから調べた。

会いたいから会いに行った。

ほかの男といるから、誰なのか確かめた。

それの何がおかしいのだろう。


「しばらく公務からも離れろ」

「父上」

「命令だ」

「ですが、審問が」

「延期する。お前は関わるな」


まただ。

アルベルトは父を見た。

邪魔だな。

そう思った。

腹が立ったわけでもない。

憎いわけでもない。

ただ。

父がいると、セレナの審問を進められない。

なら。

いなくなればいい。

それだけだった。


もともと、レオンがいないうちに刑を確定させるつもりだった。

父が死ねば、自分が国政を動かせる。


国王が殺害されたとなれば、審問を早めても不自然ではない。


そして。

その国王を殺したのがセレナなら。


毒の件が覆っても、無罪にはならない。


公爵家まで反逆罪に問える。


財産を接収すれば、国庫の問題も片づく。


アルベルトは少し考えた。


――なんだ。

全部、うまくいくじゃないか。







「失礼いたします、陛下」


扉を開けた。


返事はなかった。

セレナは一歩、部屋へ入る。


「……陛下?」


静かだった。

机の上には、書類が広げられたままになっている。

椅子が倒れていた。

その向こうに。

人が倒れている。


「陛下?」


足が速くなる。

そして。

息を呑んだ。

国王だった。

胸元にナイフが刺さっている。


「陛下!」


セレナは駆け寄り、膝をついた。


「陛下、しっかりなさってください!」


返事はない。

顔色を見れば、尋常ではないことくらい分かる。

それでも手を伸ばす。


「誰か……」


医師を呼ばなければ。

そのとき、胸元に刺さったナイフが目に入った。

思わず柄に手をかける。


「きゃああああっ!」


悲鳴が響いた。

セレナの手が止まる。

振り返る。

扉の前に、侍女が立っていた。

顔を真っ青にして。

国王の傍らに膝をつき、ナイフに手をかけているセレナを見ている。


「違います!」


侍女が後ずさる。


「誰か! 誰か来て!」


「お待ちになって! わたくしが来たときには、すでに――」


足音が響いた。

早い。

あまりにも。

衛兵たちが次々と部屋へ入ってくる。


「動くな!」

「違います! 陛下が倒れていらしたので――」


腕を取られた。


「お放しなさい!」

「国王陛下殺害の容疑で拘束する!」

「わたくしではありません!」


両腕を押さえられる。

頭が追いつかなかった。

なぜ。

誰が。

自分は陛下に呼ばれて――。

そこで。

セレナの思考が止まった。

国王名義の召喚状。

一人で来るようにとの指示。

返事のない部屋。

そして。

呼んでもいない衛兵が、あまりにも早く現れた。


「……まさか」


開いた扉の向こうに、人影が見えた。


アルベルトだった。


「父上……?」


目を見開く。


駆け寄ってくる。


「何があった!?」


「殿下! セレナ嬢が陛下の御前で――」

「わたくしではありません!」


アルベルトを見る。

目が合った。


「……セレナ」


驚いている。

父を失った息子の顔をしている。

なのに。

妙に熱をもった目だった。


「どうして、こんなことを」


その言葉を聞いた瞬間。

セレナの背筋が冷えた。







すべて、予定通りだった。


アルベルトはセレナが消えた廊下を眺める。


父はいなくなった。

セレナは捕らえられた。

あとは。


「殿下」


側近が声をかける。


「今後のご指示を」

「セレナの審問を明日にする」

「明日、でございますか?」

「国王が殺されたんだよ」


アルベルトは父の部屋へ視線を向けた。


「三日も待つ必要はないだろう?」


レオンが戻る前に。

終わらせる。







夜。


石造りの廊下に、足音が響いた。


セレナは顔を上げる。

足音は牢の前で止まった。


「開けて」


聞き慣れた声。


「殿下、しかし――」

「僕がいる」


鍵が回る。

アルベルトが入ってきた。


「衛兵も下がって」

「ですが」

「二度言わせないで」


衛兵が一礼する。

やがて足音が聞こえなくなった。

アルベルトが笑う。


「やっと二人になれたね」


セレナは立ち上がった。


「……何をしにいらしたのです」


アルベルトが近づいてくる。


手が伸びた。

頬に触れられる寸前。

セレナは顔を背けた。


「触らないでくださいませ」


手が止まる。

アルベルトは何も言わず、その手を下ろした。


「リリアから聞いたよ」


セレナが顔を上げる。


「毒のこと」


「……」

「君は何もしてなかったんだね」

「ええ」

「してもいいのに」

「……何を仰っているのです?」

「殺そうとするくらい、僕を好きになってよ」


セレナは絶句した。

アルベルトは笑う。


「まあ、いいよ。これから好きになればいい」

「……」

「あいつは帰ったよ」


セレナの表情が変わった。


「君を置いて」

「レオンは戻ります」


即答だった。

アルベルトの笑みが止まる。


「どうして?」

「約束しましたもの」

「……約束?」

「必ず戻ると」


アルベルトは黙った。

たった数日の男との約束を。

迷いもせずに信じている。

胸の奥がざわつく。


「戻ってきても会えないよ」

「……」

「君はここにいるんだから」


一歩、近づく。


「もう誰にも邪魔されない」


セレナはアルベルトを見つめた。


「陛下を殺害したのは、あなたですの?」


アルベルトは答えなかった。


「わたくしを呼び出したのも?」


答えない。

ただ、微笑んでいる。


「……そういうことですのね」

「明日、審問だよ」


セレナが顔を上げる。


「明日?」

「うん」

「三日後のはずでは」

「早めたんだ」


何でもないことのように言う。


「朝のうちに終わらせてしまおうね」

「……」

「でも、心配しなくていいよ」


声が柔らかい。


「僕が何とかしてあげるから」


「必要ございません」

「遠慮しなくていいよ」

「遠慮ではありません」


セレナはまっすぐに見返した。


「わたくしは、あなたを愛しておりません」


アルベルトが止まった。


「愛?」


きょとんと首を傾げる。


「そんなのいらないよ」

「……え?」

「ただ、いてくれればいい」


あまりにも簡単に言った。

セレナは眉を寄せる。


「……わたくしの意思は?」

「意思?」


また首を傾げる。

少し考えてから。


「人の気持ちなんて、すぐ変わるだろう?」


アルベルトは笑った。


「獣だって、餌をくれる人間には懐くんだから」


セレナの顔が強張る。


「毎日僕だけを見て、僕と話して、僕から食事をもらって」


楽しそうに続ける。


「そのうち、僕がいないと生きていけなくなるよ」

「……」

「それに、君は情が深いから」


アルベルトはセレナを見つめた。


「ずっと一緒にいれば、きっと僕を放っておけなくなる」

「そのようなことには――」

「ならなくてもいいよ」


遮った。


「今みたいに僕に楯突く君も」


少し笑う。


「いつか僕に縋る君も」


声が甘くなる。


「どっちも魅力的だから」


そして。


「僕だけに全部見せてね」


セレナは何も言わなかった。


「……明日の審問で、わたくしが極刑になれば?」

「明日のことは僕に任せて」

「答えになっておりませんわ」

「そう?」


アルベルトは笑った。


「セレナは何も心配しなくていいよ」


それ以上は言わなかった。

生きているセレナと二人で暮らす。

最初は怒るかもしれない。

口もきいてくれないかもしれない。

それでも毎日一緒にいればいい。

自分しかいない生活に慣れて。

いつか名前を呼んで。

自分を探して。

縋るようになるかもしれない。

きっと可愛い。


けれど。

極刑になっても。

それはそれでよかった。

レオンには渡らない。

誰の妻にもならない。

誰にも触れられない。

誰の隣でも笑わない。

それなら、それでいい。

どちらにしても。

セレナが自分から遠くへ行くことはない。


「おやすみ、セレナ」


アルベルトは牢を出た。

扉が閉まる。

鍵が回った。


「また明日」


まるで明日も。

その次の日も。

ずっと会えることが決まっているような声だった。

足音が遠ざかっていく。

アルベルトは笑っていた。

明日が、楽しみだった。


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