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処刑まであと7日。悪役令嬢はもう何もしません  作者: すなな


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17/30

17- 処刑まであと3日

朝食を終えた。


そして、何もすることがなくなった。


灰穂病は農務院へ。

毒事件の調査は父へ。

ヴァルディアにつながった記録は、レオンが持ち帰った。

セレナの手元には、本当に何も残っていない。


「……これこそ望んでいた時間ですわ」


誰に言うでもなく呟いた。

何もしない。

好きなものを食べて、読みたい本を読んで、眠くなったら眠る。

そう決めたではないか。

セレナは紅茶を一口飲んだ。

壁の時計を見る。

朝食を終えてから、まだ十五分しか経っていない。


「…………」


こんなに長かっただろうか。

一日というものは。



















「セレナ様」


侍女が新しい紅茶を運んできた。


「こちらでよろしいでしょうか」

「ええ。ありがとう。レオンは――」


そこで止まった。

侍女が顔を上げる。


「レオン様が何か?」

「……何でもありませんわ」


昨日、自分で見送ったではないか。

今頃はもうヴァルディアへ向かっている。

セレナはカップを取った。

一口飲む。

時計を見る。


「…………」


ほとんど進んでいない。

今度こそ時計から顔を背けた。



















本を読むことにした。


以前から読みたかった小説がある。

政務にも外交にも関係のない、ただの恋愛小説だ。


ソファへ座り、頁を開く。

一頁。

二頁。

三頁。

主人公の令嬢が、身分を隠した騎士と馬車に乗って湖へ向かっている。


「……この輸送日数ですと」


セレナは止まった。

もう一度、頁を見る。

馬車は走っている。

ただし、湖へ向かっているだけだ。

小麦は積んでいない。

交易業者も出てこない。


「…………」


本を閉じた。

紅茶にしよう。

カップへ手を伸ばす。


『休憩』


昨夜の声が蘇った。

勝手に目の前へ置かれたカップ。


『まだできますわ』

『知ってる』


そして。


『できるからって、やり続ける必要はないだろ』


セレナの手が止まった。


「……静かですわね」


庭から鳥の声が聞こえる。

廊下では使用人が行き来している。

食器の触れ合う音もする。

いつもと同じ朝だ。

それなのに。

妙に静かだった。
















気分を変えようと立ち上がる。

少し庭でも歩こう。

そう思ったところで、棚の上に置かれた箱が目に入った。


アルベルトが持ってきた手袋だ。

返そうとしたが、受け取らなかった。

だから箱に戻したまま、そこに置いてある。


セレナの視線はすぐに隣へ移った。

もう一組の手袋。

レオンから贈られたものだ。


こちらを手に取る。

片方だけはめてみた。

やわらかな生地が指に馴染む。


あの日も。

レオンが手を取って、こうして――。

そこから別の記憶までついてきた。


『少しだけ』


突然引き寄せられた身体。

背中へ回った腕。

耳を寄せた胸から聞こえた、思っていたより速い鼓動。


それから昨夜。

すぐ近くにあった顔。

唇に触れた親指。

ゆっくりと輪郭をなぞられて。

思わず――。


「……っ」


セレナは勢いよく手袋を外した。


「なぜそこまで思い出しますの」


当然、返事はない。

誰もいないのだから。

それが余計に恥ずかしい。


しばらく手袋を睨んでいたが。

結局、もう一度手に取った。

今度は両方ともはめる。


「……外へ出るのですから」


誰に対する言い訳なのかは、考えないことにした。















庭へ出た。


けれど、行き先がない。


いつもなら、次に何をするか考える必要すらなかった。


幼い頃から、王太子の婚約者として過ごしてきた。

歴史。

語学。

礼法。

外交。

領地経営。

王宮へ上がるようになってからは、そこへ実務も加わった。

何かあれば調べた。

頼まれれば片づけた。

時間が空けば、次に必要になることを先に済ませた。

そうしていれば、一日は勝手に終わった。


だから。


もう何もしなくていい。

そう思ったときは、嬉しかった。

全部放り出してしまいたかった。


なのに。


レオンと街へ出た。

店を覗いて。

菓子を選んで。

くだらない話をした。


何の役にも立たないことばかりだった。

それなのに、楽しかった。

昨夜だって。


資料を調べていたことより、妙なところばかり思い出す。

からかわれたこと。

腹が立ったこと。

名前を呼んだこと。

抱きしめられたこと。


「……」


セレナは足を止めた。

何もしない時間が欲しかった。

ずっと、そう思っていた。

なのに今は。


「……戻ってきたら」


声に出してから、少し考える。

今度はどこへ行こう。

あの菓子店でもいい。

まだ歩いていない通りもある。

今度はレオンに店を選んでもらって――。

そこまで考えて。

セレナは瞬いた。

戻ってきたら。

あまりにも自然に、その先を考えていた。

審問まで、あと三日。

少し前までなら、その先の予定など考えなかった。

考えれば、欲しくなるから。

なのに今、自分はレオンが戻ってくる日のことを考えている。


「……約束しましたものね」

『約束する』


戻ると、レオンは言った。

セレナは手袋をした指を、そっと握った。


「セレナ様」


背後から声がした。

振り返ると、侍女がこちらへ歩いてくる。


「お客様がお見えです」

「わたくしに?」


一瞬だけ。

胸が跳ねた。


――レオン?


いや。

早すぎる。

昨日出たばかりではないか。


それでも。


「どなた?」


答えを待つわずかな間。

期待している自分がいた。


「リリア男爵令嬢でございます」


セレナの表情が変わった。


「……リリア様が?」

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