第1部 第7章
(第7章の概要)
組織とは、課長が「マネジメント」と称して部長からの無理な指示を係員に押しつける構造が常態化している。それによって課長は成果と評価を独占できる。やがて部長となる。この構造は、課長に集中された人事権(査定)マネジメントを効率化し、人事部によって支えられており、人事権に対する異分子の排除
を可能にし管理体制を保っている。副首長の席は人事部のトップである総務部長に保証され、これが組織の循環構造を象徴している。
ある日、人事部の主査・マザキが予告なしに訪れ、ナベサワ課長は卑屈な態度で対応するが、マザキは俺(タカシ係長)に関心を向ける。マザキはハジの不在に言及し、意味深な反応を示す。その後、マザキは俺にハジの連絡状況を求め、ナベサワに対応履歴の作成させることで、ハジの行動記録を共有し始める。ナベサワは、ハジの欠勤を「病欠」「私事欠勤」「無届け」の3択に分類しようとし、再度本人に話すしかないとこぼすが、ナベサワ自身も不安定な様子を見せ始める。タカスギを意識するなど、周囲の目を気にする仕草が目立つ。物語の語り手である俺には、マザキから再三の干渉がある。そうした人事部が行う処分の論理が単純な記号化によって表層的兄成立していることに違和感を抱く。
踏みつけられながらも根を張る草のように、人間的な抵抗の意志を覚える。
(7章)
課長はマネジメントと称して課を運営し、部長の無理難題なオーダーを係員におしつける。
それは部長からの実績や評価をひとり占めにできることを意味する。評価を累積させた課長はやがて部長になると、ふたたび課長に対して無理難題を繰り返す。課長は人事権とされる査定の成績評価により係員の首根っこをおさえつける。査定はマネジメントを実質的に効率化するよう作用する。
人事部は人事権を課長にのみ集中して課を実質的に掌握させる。課のマネジメントにそぐわない異物ならば、ただ処分として排斥する。
自然淘汰、組織上の具現化はそうやって成立していた。
人事部はそうして組織のマネジメントをささえ続ける。人事部のトップである総務部長は、組織の事実上の象徴である副首長の席がつねに約束されていた。
組織はそうなっていた。
それを当たり前のように繰り返していた。
人事部の主査である若い白髪頭のマザキは予告もなしに悠然と姿をみせると、でむかえるナベサワを見下ろすよう会釈する。
ナベサワは課長席で小さくなりながら積極的に卑屈な笑顔で話しかけ歓談モードがしばらく続いた。
遠巻きに俺の姿をみつけたマザキはナベサワをうっちゃって小走りにかけよってくる「タカシ係長」俺は立ち上がって迎える。
実際、マザキは主査格なので副係長ポストになる。
組織の序列的には俺の方が上役だが人事部の優越的な立ち位置からマザキを課長より格上の存在へと擬似昇格視させる。マザキの背中を心配そうにナベサワの視線が追いかける。
「今日、ハジさんは?」俺は首を振る、マザキは鼻をフンとならしそうですよね、やっぱりだと意味ありげにつぶやいた。
俺の姿を上から下にじっくり眺めおろし「少し、私、時間がないので後で連絡させてもらっていいですか」とだけ言い残し、軽く一礼して素早く立ち去った。
人事部の姿が消えたことで、それまで課全体の係員の背中につきたてられた、定規めいた何かが取り払われ安堵感が、じわりじわり空気を和ませる。
そんななか、ただナベサワの不安そうな視線と俺だけが取り残される。
起ってしまっていることはただ眺め続けることしかできない。
草は踏みつけられ続けても大空を目指して伸び続ける。
「ハジさんどうしたの?」ナベサワは俺に、例によって突発休みの連絡すら寄こさないハジの様子を珍しく気にしてくる。
「またですよ、課長。いつものやつです」ナベサワは険しい表情をみせた。
その固いまなざしにいつもの軽妙な感じをみせない。
「課長、マザキさんに何か言われました?」ナベサワはその俺の言葉にふと目を上げ、すぐ目を逸らした、再びみてはすぐに目を伏せる。
俺に対する値踏みをしている。
どこまで話すべきか計算に必死なヨース。
ナベサワはようやく口を開いた「ハジさんの状況は、マザキさんから言わせると3択しかない」
「ひとつは病欠、でもこれは正式な診断書が絶対条件」
ナベサワは次の言葉を少し躊躇した「あとの2つは私事欠勤か無届け、これで3択」ナベサワは指を3本たてる。
本人が事情を申し出る私事欠勤と、職場で判断する無届休暇、当然、ペナルティの意味合いが異なってくる。
以前、ナベサワはその話をハジに持ち掛けていたが本人の拒否からうやむやになっていた。
ナベサワは心配そうに呟いた「もう一度本人に話すしかない」
人事部がみるのは排斥する異物かどうか、処分に当たるか当たらないか。
その目に見えない基準はフィルターとして明白なゆえにゼロかイチで選別できる極めてシンプルなものである。
マザキの言葉はシンプルに機能する。
それは言葉ではなく変容した記号だった。ただ適用されているだけのものになる。
でも俺には違和感がどこかで手応えとしてあった。
記号は表層的なものにすぎない。
踏みつけられて、草は大地にその根をはって大きく育ち続けるのをじっと待っている。
マザキから連絡がくる「ハジさんとは連絡つけられないんですか」俺の回答は予想していたようで、マザキは、何度、俺がハジに連絡したのか時間も含めて教えてほしいと指示をだしてくる。
その頃、ナベサワはハジの様子を記載した履歴を日々自ら作成しその校正を俺にさせながら、マザキと共有しはじめた。
履歴には課長作成と大きくタイトル書がされていた。
「課長こんなんいつまで続けるんですか」ナベサワに尋ねても、うやむやな反応しか返そうとしない。
ナベサワは妙に必死だった、ただ自分のことだけをみつめている小さな眼は始終きょろきょろ周りを彷徨いながら、タカスギの席の方向に不自然に視線が流れている。
「部長にもちゃんと話をしなきゃ」弱々しい呟きが口癖になった。
居場所を失いかけた弱い野生動物は俺だけではなかった。
本作品はフィクションです。登場する人物、組織、職業、制度及び出来事は物語上の設定として構成したものであり、実在するいかなる個人、団体、職種、組織とも関係ありません。本作品は特定の職業や組織を描写・評価することを目的とするものではありません。




