第1部 第5章
(第5章の概要)
物語は引き続き、職場の空気が崩壊しつつある様子を描く。ハジはマニュアル作成を淡々と続けており、突発休みを繰り返しながらも出勤時は遅くまで作業している。だが、そのマニュアルは誰にも読まれず、内容も理解不能なほど複雑化していた。職場は冷え切った空気に包まれている。
そんな中、事態が急変する。ある日、タカスギがムラシマ、桐原を従えて語り手(係長)を囲み、ハジのマニュアルを突き出して糾弾する。タカスギは、誰も読まないマニュアルをなぜ作らせているのかと語り手に詰め寄り、その声には怒りと悔しさがにじんでいる。桐原とムラシマも怒りを煽り立て、語り手の管理責任を非難する。桐原は「皆困っているんです」と語り手を脅し、ムラシマは「係長が問題職員を庇っている」「部長に言ってもいい」と圧を強める。2人は、プロジェクトの失敗を取り戻すかのように声を上げるが、語り手はそのなかでタカスギの感情の深さに打たれる。ハジの存在は、タカスギが自身の生活や息子を犠牲にしても果たせなかった成果と対比され、彼女の怒りの源泉となっていた。語り手はついに「課長と相談してみるよ」と応じる。自身の逃げの姿勢を感じつつも、他にどうしようもない無力感に包まれながら、まるで「チェックメイト」のような敗北を悟る。
物語は、語り手が出口の見えない状況に追い詰められていることを暗示しながら章を終える。
(5章)
ハジはマニュアル作成をそのまま継続している。
黙って俺を見下ろすようにマニュアルを黙々と差し出しては自席に戻るスタイルを貫いた。
奴は突発休みを平然と繰り返し、たまに出勤すると夜遅くまで作成に時間を費やす。
亀裂のみえる職場の殺伐とした空気にも無関心に変わらず振舞った。マニュアルは膨大な情報量でもはや何が書いてあるのか理解できない代物だった。誰も手に取らずにただただ累積していった。
ハジ、マニュアル、亀裂のみえるひび割れた空気、その頃の俺にはミズキの姿がどこかに霞んでみえていた。
破綻の兆しは突然だった。
「係長ちょっといいですか」タカスギを先頭にムラシマと桐原がぐるりと俺の周りを囲んだ。
タカスギはハジが作成した意味不明のマニュアル全てを手に立っていた。
俺の眼の前にどさっと置いた。
「係長知ってるんですか、このマニュアル」ああ知ってるよ俺は答える。
周りを怒気に囲まれ俺は呼吸すら困難だった。
ふとみるとナベサワがその様子を我関せずと超然と課長席にふんぞり返っている。
「誰も読んでないのに何であえて作らせるんですか」タカスギの語気は怒りで震えていた。
怒りには憎しみや悔しさを滲ませ紅潮した顔色は燃え上がるばかりだった。
桐原が言葉を拾った「皆困ってるんです」ムラシマも煽る「係長がしっかりしないからです、しっかりしてください」ムラシマは語気を不必要に荒げる
「自分、部長に言ってもいいんですよ、係長が問題職員を庇っているって」桐原もムラシマもプロジェクトの失敗挽回に余念がない。
タカスギは2人に煽られるように怒りを込めた言葉を続ける
「ハジさんを何とかしてください、マニュアルじゃない方法もきっとあるはずなんです」
それはタカスギ自身が息子や時間を蔑ろにしてまでチラシ作成に忙殺した自分に込めた重い言葉に聞こえた。
そのタカスギの言葉を皮切りに、皆、大変困っていますと桐原とムラシマは囃し立てた。
ただ2人が囃し立てるポーズについては俺はどうでもよかった。
俺はその時、何よりもタカスギの血走った眼つきの健気さに押され、わかった課長と相談してみるよというだけが、俺のその時の精一杯のポーズ。
チェックメイト、王手飛車取り。
ゲームオーバーOK?
出口なんてどこにもない。
本作品はフィクションです。登場する人物、組織、職業、制度及び出来事は物語上の設定として構成したものであり、実在するいかなる個人、団体、職種、組織とも関係ありません。本作品は特定の職業や組織を描写・評価することを目的とするものではありません。




