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ステファン・ストロイエという男 ①


 私はアーサー・ストロイエというストロイエ侯爵家でも当代随一と名高い男の息子として生を受けた。父は私の憧れだった。その姿は強く父の元で学びたいと王国内外から当家に人が集まった。父は私の父でもあり、皆の師匠であり皆の憧れだった。

 小さい頃に母が病気で儚くなっていた私にとって父が私だけの父ではない事に寂しさはあるものの私は父が大好きだった。

父はよく魔の森へと魔獣討伐へ行っていた。その間私は一人だった。周りには使用人がいたが家族ではない。雷が怖い時、風が強く窓がガタガタと揺れて眠れない時、怖い夢を見た時、私には頼る人がいなくベッドの上で布団に包まりやり過ごししかなかった。

そんな時でも、父は森で大変だっただろう。しかし周りには父を慕う者達がおり、森から帰ってくるとあれが怖かった、あれがおかしかった等大変賑やかだった。

父の右腕であるジルが私に気づいて私を輪に入れてくれるが自分が邪魔者の様に感じて次第に遠慮する様になった。

父が私だけの父になってくれる瞬間はとても短くとても貴重だった。


それでも私は父が大好きだった。



ある日父から婚約者が決まったと伝えられた。

リリカル公爵家の長女のマリアだった。父がリリカル公爵と親友でその縁で決まったようだ。

父が決めた事ならばと私はそれを受け入れた。しかし、学園に入る年になり学園で会った彼女は幻滅に値するものだった。ふしだらと言っても良いくらい異性との距離が近く、また度々際どい遊びを目撃した。

何故父が彼女を私の婚約者にしたのかと不思議でならなかった。

(もしかして父は彼女の事を知らないのでは?)

そう思い婚約を考え直してもらうよう何度か進言したが聞き入れて貰えなかった。

私の為になるからと、彼女の教育は父が責任もって行うからとそのまま婚約が続行された。

(何故父は私の言葉を聞いて下さらないのか…。)

少しずつ父への不信感が募っていく。



学園を卒業後私はそのまま彼女と結婚する事になった。結局彼女のふしだらな遊びは改善されなかった。

(こんな女性と一生添い遂げるのか…。)

結婚後暫くしてリリカル公爵が亡くなり、マリアの兄が公爵となった。

それと時期を同じくして父を病魔が襲った。

父が健在だった時には落ち着いていた彼女の悪い遊びがこの頃から激しくなっていった。我が邸宅にも悪びれず愛人を連れ込む始末。私は彼女と閨を共にするのが苦痛で仕方なかった。それでも跡取りが必要だと自分にいい聞かせなんとか彼女が懐妊した。



本当の地獄はここから始まった。



産まれた子供は私の色を持っていなかった。

黒目黒髪。彼女のお気に入りの愛人の色だった。

私はもちろん彼女を責めた。彼女を実家に帰そうとも思った。しかし彼女から意に沿わない行為で無理矢理だったと言われた。正直信じていなかったし、あれだけの距離感であれだけ遊んでいたのだから自業自得だとも思った。ならば相手の男を罪に問う事も考えたがマリアが反対した。曰く、周りに知られたくないと。確かに貴族女性にとっては致命的な噂となるだろう。彼女の兄であるリリカル公爵からも圧力をかけられ彼を罪に問う事は諦めた。

私の心の内は怒りと屈辱でどうにもならなかった。



 ある日闘病中の父から呼び出された。あの子からストロイエ侯爵家の魔力を感じるから、と魔力鑑定を勧められた。

ストロイエ家には黒目黒髪の者もいたのだと。


結果としてストロイエ侯爵家の血筋であった。しかし私にはもうあの子を可愛いとは思えなかった。

私にとってあの子は父が親友を助ける為に私を蔑ろにした証しであり、妻が私を裏切った証しであり、妻の兄に私が屈伏させられた証しであり、妻の愛人が私を馬鹿にした証しであったからだ。

いつまでも名前をつけない私を見かねて父がアルフォンスと名前をつけ、父があの子供を別宅で専用の使用人をつけて育てる算段をつけた。


それで良いと思った。とても愛せないと…。


でもジルをつけたのは許せなかった。父の右腕であるジル。私を気にかけてくれたジル。次期当主として私を支えてくれると期待していたジル。


あの子供に奪われたのだ。


あの子供が早く死んでくれればジルは私の側に来てくれるだろうか…。



あの子供をジルと共に必要最低限の使用人をつけて別邸へと追いやってすぐ、父が亡くなった。


父が亡くなりマリアは大いに喜んだ。これからは自由だと。

父が亡くなった事は私にとって悲しいのか解放されたのか分からなかった。そんな私の側にいてくれたのが幼い頃から側近候補として一緒に遊んでいた分家の者達だった。彼らは悲しみ、私の説明出来ない虚しさに寄り添ってくれた。



これからは私が侯爵家当主として表に立たなくてはいけない。寄り添ってくれるはずの妻はなく、助けて欲しいジルはあの子供の所だ。



……私に出来るのだろうか……。




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