偉かった、小さい頃のギル。
「ギル?何を言っているの?母親に向かって穢らわしいだなんて!」
生物学的母がギルからの拒絶に金切り声を上げ、僕を睨みつける。
「そう…、そこの奴のせいね?そこの生きているだけで人を苦しめる悪魔みたいな奴に何を吹き込まれたの?穢らわしいのは私じゃなくてそいつよ。
あぁ…、私の視界に入るだけで私が穢れるわ。退室して頂戴。私の視界に入らないで。」
僕は何を言われても今更って感じだけどね…、僕のお隣のギルとか後ろの後見人さん達とかジルとかの殺気が高まってるのこの人感じてないのかなぁ…?
「そいつって誰の事ですか?僕の尊敬する兄上の事ですか?違いますよね?兄上は僕の尊敬する大好きな方ですから。」
ギルがキレた笑顔で僕を大好きと言ってくれる。
照れるぅ〜!嬉しいよ!僕もギル大好きだよ!!
「っ!?どういう事!?ギル、貴方そいつと会った事があるの?」
生物学的父を睨み、
「どういう事?ステファン!会わせたなんて聞いてないわ!」
生物学的父も困惑して、
「ギルバート、どういう事だ?アルフォンスとは会った事があるのかい?」
「えぇ。僕は兄上に何度も会いに行ってますし、色々教えて頂いております。僕の尊敬する大好きな兄上です。」
「ありがとう、ギル。僕もギルが大好きだよ。」
ねぇ~ってお互いに顔を合わせて笑う。
「止めなさい、ギル。そいつは貴方の兄じゃないわ!貴方は由緒正しいストロイエ侯爵当主になるんですからそんな穢らわしい男を兄と言うのはお止めなさい!その男は私を散々苦しめた悪魔よ!私はその男のせいで散々謂れもない好奇の目に晒されてきたのよ!」
「何が謂れもないですか…。謂れがあったから散々言われてきたのでしょう?
兄上を穢らわしいとか言ってますが、貴方、自分の事を客観的に見れてますか?全て自業自得じゃないですか。
屋敷の部屋からは愛人達との睦まじい声が散々漏れ聞こえてますよ。僕が初めて聞いたのはうんと小さい頃でしたけど、それ以来貴方を見ると嫌悪で鳥肌が立って仕方ありませんでした。
今も貴方を見て、声を聞いているとぶち殺したくて仕方ない衝動に駆られるんですが?」
お…おぉぅ…!僕よりもギルの方が被害にあってるっぽい。繋いでいる手に込められた力がギルの長年の怒りや恨みや悲しみを表している。
嫌悪の対象の母、役に立たない父、使用人からは憐れみや侮蔑を向けられて、小さいギルはどれだけ心細かっただろう。悲しかっただろう。
僕は理由も分からずや遠ざけられたけど、僕を守り、愛してくれた家族とも言える人達がいた。
ギルにはそれが居なかったんだ。
心が痛い。泣いちゃいそう。
あの時、ギルが僕を訪ねてきてくれて良かった。ギルを追い返さないで良かった。ギルを1人にせずにすんで良かった。ギルと仲良くなれて良かった。
ダメだ…。目から汗が溢れてきた…。
小さいギルを想うともうダメだった。僕はギルの手を引っ張りギルを抱きしめた。
「兄上?」
小さい時のギルも今のギルもその間のギルも逃さず抱きしめられるようにギュウギュウに抱きしめた。
「ギル、ギルバート。辛かったね。側にいてあげられなくてごめんね。よく頑張ったね。偉いよ。ギルは偉い。」
「兄上、泣いてるの?なんで兄上が泣くの?僕は大丈夫なんですよ?」
ギルの声が困惑している。
「ギルは偉い。よく頑張った。よく僕の所に来てくれたね。ありがとう、ギル。」
僕が気にせずギルを抱きしめていると、ギルの声がだんだん湿ってきた。
「あ…兄上がいたから頑張れたんです…。悲しい時、こんな時兄上がいたらって思ってたら本当に兄上がいたんですもん。僕こそ兄上がいてくれて良かった。ありがとうございます。」
ギルの顔が当たっている肩あたりの服がじわじわ濡れてきた。
2人でお互いを励まし合って讃え合って感謝を口に出してギュウギュウと力を込めていると、ズッと鼻を啜る音が聞こえた。音の方を見てみると、僕達の後見人さんやらお城の騎士さんやら侍従さんやらメイドさんやらが泣いている。ジルも目を赤くしている。
あれ…?なんか恥ずかしいかも……。ギルもそれに気がついてすんとした顔になった。
だよね…、大人が僕達より泣いてると冷静になっちゃうよね…。
「な…、何よ!ギル!貴方は私のことが好きよね?貴方の母よ!母を嫌う子供なんているはずがないわ!!」
ギルは涙を拭い、鼻をすすって向き合う。
「大っきらいです。好きだなんて冗談じゃない。話していると殺したくなるくらいには大嫌いです。」
生物学的母はショックを受けたようによろめき、僕を睨んだ。
「やっぱりそいつのせいね?お前がギルに吹き込んだんだだろう!この悪魔!!お前なんてさっさと死ねば良かったのに!なんでまだ生きてる!さっさと死ね!」
生物学的父が青褪めた顔で止めようとするも、
「うるさい!そいつをさっさと殺せ!そいつが死なないなら私が死んでやる!」
「なら死んで下さい。」




