待って!僕の出番は?!
侍従に先導されてとある一室へと案内される。扉はまだ開けていないが中から男女の怒鳴り声が聞こえてくる。
もうお察しだよね。こんな事になってあの人が大人しくしてる訳ないもの…。
扉を開けてもらうと口汚く罵り合う男女、すなわち僕達の生物学的父母が僕達の存在に気付かずに恥を晒している。
「この無能が!!あんたなんかと結婚しなきゃ良かった!!」
「こちらこそお前のような貞操観念の低い女などと結婚しなければならなかった私の地獄を察してもらいたいね!!」
「っ!このクソ野郎!閨で満足させられない男がいるから女が浮気するのよ!!」
「奔放すぎる女性の振る舞いにいつでも衝撃を隠しきれない男性がいる事を忘れないでいてもらいたいね!」
「だからあんたいつでも役立たずだったのね!このフニャ○○野郎が!!」
「っ!!君のような者を相手にしなければならないと思うと勃つものも勃たないがね!!」
……凄い…。未成年の僕達がここに居ていいの?
はっ!ギルの耳を塞がなければ!!
ギルの方を見ると呆れた顔をして聞いていた。
「ギ…ギル?ちょっとお外で待っててもらえないかな?」
「兄上、大丈夫ですよ。こんなのはよく聞いてましたし見てましたから。」
っっ!!なんて事だ!こんなに小さくて可愛くて懸命なギルがこんな醜いものを見せられていたなんて!!
ギルが平然と、僕が呆然と(していたのだが他の人から見たら平然としているように見えたらしい)していると、最初は慌てて僕達を退避させようとしていた陛下達も、まあいいか…、的な感じで落ち着いた。
「ッゴホン!」
陛下のわざとらしい大きな咳払いでやっと生物学的父母が僕達に気が付いたらしい。
生物学的父は苦虫を噛み潰したように、生物学的母は顔を赤らめてこちらを見る。
あぁ…、一応恥は持ち合わせているんだなぁ。
しかしこう見ると生物学的父はまだ貴族然としているが、生物学的母が貴族とは思えない振る舞いだ。
いや…、腐った貴族ってこんなもんか?享楽的な遊びに耽って堕落していくらしいからね。ポチッた本では凄かったからね。いやぁ~、あれも凄かった!影のなんちゃらが偵察していた家の女主人の奔放な事!早く影のなんちゃらが殺ってくれないかと手に汗握ってたよ!
まさかそれを目の前で見させられるとは思ってなかったけどね。
「陛下!とんだ所を見せてしまい申し訳ございませんわ。この人があまりにも私を侮辱するものだから我を忘れてしまったみたい。お恥ずかしい限りですわ。」
凄い!!さっきまで凄い形相だったのに今では恥ずかしそうに小首を傾げている!!何事もなかったかのように!自分が被害者のように!!
いやぁ~、凄いね!女性不信になりそうだよ!
「そして陛下、此度の事は一体どういう事ですの?いきなり屋敷に来た騎士達に何も聞かされず連れて来られたものですから私もう怖くて怖くて…、取り乱してしまいましたわ。
この人ったら、さっぱり埒があかない説明ばかりするんですもの!
私にも分かるように説明して下さいまし。」
生物学的母が上目遣いで媚びるように陛下に問い、生物学的父は諦めたように疲れた顔で外を見ている。
ふぅん…、こういうパワーバランスなんだ。
父が弱くて情けなくてこうなったのか、母と母の実家が強くてこうなったのか。
疲れそうな家だなぁ…。
この家で育てられたギルを思い胸が重くなる。
ついでに生物学的父にも若干同情を禁じ得ない。
若干ね!若干!ほんの少しだけ!!ほぼほぼ自業自得だと思ってるから!
本当の被害者はギルだから!!
陛下は口を開かず、宰相さんが陛下を守るように前へ出る。
「ストロイエ前侯爵が説明した通り、君達は国家陛下に対し虚偽の申請、犯罪行為を行った事により当主交代、王都追放、領地での生涯謹慎となった。」
「そんなっ!そんな恐ろしい事をこの人がやっていたなんて私全く気が付きませんでしたわ!」
生物学的母が生物学的父をキッと睨んで、
「私は何も知らされておりませんでした。調べて頂ければ分かる事。私は無関係でございます。」
「調べたから分かったのです。前侯爵婦人。貴方も無関係ではない。むしろ前リリカル公爵と共に好き放題していたではありませんか。」
「お兄様が!?お兄様はどうなったのですか?」
「前リリカル公爵は国家反逆罪、その他罪が重なり生涯幽閉となりました。貴方も敬愛するお兄様と共に一緒に生涯幽閉されますか?貴方はそれだけの事を前リリカル公爵と共にやったはずです。」
「そんな!私はそのような事覚えはございません!兄もまさかそのような事に手を染める訳がございませんわ!何かの間違いでは?!」
「いいえ、しっかり調べた上での事ですので覆る事はありません。」
生物学的母が生物学的父を睨見つけ、
「きっとこの男が兄を唆したのです!全てはこの男が悪いのですわ!!」
「いいえ、それもきちんと調べ上げております。犯罪の首謀者が前リリカル公爵であると。それに賛同し甘い蜜を吸っていた者たちも全て調べ上げております。もちろん、貴方の事もです。前ストロイエ侯爵婦人。」
「そんな!私は何もしておりません!何も知りませんわ。私が何かやっていたのだとしたら兄に騙されたか、そこの男に騙されたかですわ!」
わぁ…!凄い!物凄い手のひらを返してきた!前リリカル公爵も生物学的父の事も切り捨てた!!
「いいえ、全て調べたと言ったでしょう?貴方は決して騙されてはおりません。全て自分の意思で行っております。前ストロイエ侯爵も知らない事までやっていたじゃないですか。」
生物学的母の顔色が変わる。
「ねぇ、シアという方をご存知ですよね。アナスタシア。貴方が陥れた女性です。その他にも気に入らない人間を他国に奴隷として売ったり犯罪者として陥れたりしてましたよね。それも自分に靡かない男性だったり自分が狙っていた男性の興味を引いたという下らない理由で。他にもありましたね。宝石が欲しかったから、なんて理由もありました。全て心当たりがありますでしょう?」
生物学的母の顔色がどんどん悪くなる。その後ろで先程まで外を見ていた生物学的父が呆然とこちらを見ている。
「シアを…、シアに何をしたのだ?!」
わぉぅ!僕達、子供組にはさっぱり分からない話が進んでいく。
僕とギルはお互いの手をギュッと握った。




