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現代ダンジョンで吸血鬼と共に  作者: kurobusi
闇の中で生きる者

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夜闇に紛れて その5

玄関口を潜り抜け“元”牛緒組事務所に足を踏み入れる。その瞬間、鼻腔に自分の生活に関わりの無い建物が放つ、特有の匂いが満ちる。意外にも黴臭い感じはしない。

いい加減暗闇に慣れてきた眼で周囲を見渡すが、靴箱の様な影は無い。

“上がり込む前に履物を脱いで揃えろ”と主張する段差も同様だ。事前に聞いていた通りずっと土足で利用していたらしい。


助かる。例の異常繁殖(スタンピード)の一件からまともに手入れしていないという話も聞き及んでいる。中は砂利と泥で構築された足跡だらけというのも。確かに掃除が行き届いている気配は感じない。これなら多少痕跡が残っても気に留められないだろう。

だが、一応念の為だ。


「セラさん。進む前に靴の泥を払っておきましょう」


「ああ、そうだね──いや、自分でやるから!ちょっと、なんだか、恥ず、汚いから!」


……跪いて靴に触ろうと手を伸ばしたらしたら引っ込められてしまった。余計な気遣いだったろうか。


申し訳なさを感じながら自分のブーツを擦る──しかし、暗い。僅かな月明かりさえ届かないせいで一層。だが、照明は付けられない。

電灯を灯すスイッチの配置も受け取った間取り図に記されているが、これが記載されている意図は“活用しろ”ではなく“誤って触れないようにしろ”だ。

この丑三つ時、この暗闇の中で明かりが付いている建物はとんでもなく目立つ。中に誰かがいるのが丸分かり。この状況での電灯スイッチは最早、侵入者の存在を知らせる音の無い鳴子。気を付けないと。


改めて頭に叩き込みつつ、自分が間取り図の中の何処にいるのか分かりやすくする為壁に手を沿わせつつ、奥へ踏み込む──



◇



「おーしおしおし……中入ったな」


【経理部長室】と、明朝体で簡素に綴られた、錆が目立つ蝶番に対して真新しいテープが貼られた扉、その向こう。


中には前任者が“残して”いった──正確には“遺して”いった天板の分厚いデスク。それにあまり似つかわしく無い、座面に張られた人工革が破れてスポンジがはみ出たキャスター付きの椅子。

この部屋の主人はそれに腰掛け、明かりも付けずに書類や電子機器で散らかったデスクの上でも一番目立つPCモニターを凝視する。


「頼むゼェーこのためにクッソ頑張って時間作ったんだから。マジでよ」


黒田羽久斗はこの日、この夜の為に備えてきた。

盆休みの前に仕事を詰めるサラリーマンの如く前倒しが可能な仕事は全て潰し、当日しかこなせない業務──持ち帰った迷宮(ダンジョン)資源の即時換金を求める探索者への対応等──は日中にこなしきる為に部下へ不満と猜疑心を抱かせない程度に割り振りつつどうにかし、今こうしてやっと業務時間外まで辿り着いた。

そんな貴重な時間を邪魔されない為に、以前から組に属するゴロツキと牛緒組が覇権を取ってから与してきた外様の人間が入り混じる部下達には『オレはもう帰るから』と、暗に連絡を寄越さないように黒田羽久斗は言い含めていた。本来なら有給でも活用するべき事態であったが、そんな気の利いたものは今の吐叶市に存在しない──


ブブブ、と昆虫の羽音にも似た音が天板を通じて牛緒組金庫番の手に伝わる。


「オッ連絡来た……うんうん“潜入成功”な。ヨシヨシ」


見ていたから分かっている。だが、密に連絡は取り合う、例え明らかなことでも確認し合うと両者の間で事前に取り決めていた。この確認作業に関して彼に不満は無い。


「オーケーオーケー……カメラに他のヤツも写ってねぇ。ヨシヨシ」


黒田羽久斗は確かに可能性を感じている。この作戦を上手く運べれば、自分が望む未来を手に入れられる。

確かに当初の予定からはかなり外れた。戦力となる人員に秘密裏に製作していたゴーレム等の拡充。それに中々の遅れが出てしまった。

そして、黒田が一番重要だと捉えている下剋上に不可欠の根回しにも。


“下剋上に成功したけど誰もついてきませんでしたじゃ話にならねぇ”

黒田羽久斗が謀叛を企てた際、真っ先に頭をよぎったで思考である。故に、探索者を管理する立場をフルに活用した。現代社会から生まれた才覚者も、異世界から流れ着いた益荒男にも、これぞと見込んだ探索者に出自を問わず、密に連絡を取り、交流を図り、信頼関係を築いてきた。その為には経理部長の権限を利用し秘密裏に出納帳を弄り回し“交際費”を捻出したことなど一度や二度ではない。

だが、全く予想外のハプニング。人類の大敵とされ、大規模な専門組織【正浄化(せいじょうか)協会】を発足させた吸血鬼に属する存在に、その協力者との邂逅。そして敵対。そして同盟。秘密の共有。とんでもなく謀反計画に遅れが出た。


だが、代わりに自分は“ジョーカー”を得た。痩せ我慢ではなく本心でそう考えている。

鬼月佐治。元は牛緒組が管理する探索者組合に所属していた探索者。目立った活躍は報告されておらず、組合への貢献・迷宮の探索貢献度・魔力傾向適正検査(M・A・T)の結果・魔物の討伐歴等から算出されるLevelは初期のままだった。だが、今換算し直すことができたなら十分話は変わってくる。黒田にはそう確信があった。特に魔力傾向適正検査(M・A・T)では機器の故障を疑う異常な数値が出るだろうと。


(……経緯は聞いたけど、ワケ分かんねンだよな。死にかけて生き返ったらパワーアップとか戦闘民族か?)


自然治癒能力や剛力も勿論、魔術を碌に扱ったこともない人間がいきなり“透明化”を扱えていることも異常。

そして、黒田羽久斗が腑に落ちていないのは、自分が行使した“生体感知(リビングサーチ)”の魔術に鬼月が反応しなかった点だ。


(あん時、確かにオレは感知の魔術を使ってた。吸血鬼(アンデット)が引っ掛からなかったのは分かる)


しかし、セラ・テンキーンの迷宮で行使した生体感知は、鬼月佐治を生者として見なさなかった。その所為で黒田が率いていた徒党(パーティ)はまんまと不意打ちを許した。


(……でもあいつの血はちゃんと吸血鬼のメシになってる。アンデットじゃそうはいかねぇ)


兎に角、鬼月佐治は生物として非常に歪な状態にある、というのが黒田の中にある結論だった。だが、この疑問を黒田は二人に伝えていない。

混乱を招いて計画に支障が出ても困るし、将来的にはその歪みが二人に大きな影響をもたらす可能性は十分にあったが、伝えるメリットはない。そう判断していた。

今現在、黒田が願っているのは協力者達の安寧ではなく、鬼月佐治にその怪物性を十全に発揮してもらうことであった。


(計画の大詰めで組長とガッツリやり合うってなっても、あの体質ならそこそこ時間を稼いでくれそうなんだよな。ま、そうなったら生きてはかえ──)


「くろ、ださぁぁぁン!!」


「ウォーーッ!!?」


突然の荒々しい叫び。鍵を掛けていたのにサスペンスドラマの刑事が放つレベルの体当たりを受けてブチ破られる扉。吹き飛ぶ蝶番。


「なんっだお前!?何!?オレもう帰ったっつったろ!」


「え!?でもここにいるじゃないですか!?」


老朽化していた扉に止めを刺した直属の部下との哲学的に聞こえなくもない会話が部屋を満たす。


「なんだか知らねぇケド別の奴に引き継げ!オレは無理!」


「引継ぎとかそんな話じゃなくて──」


「うるせぇ!さっさと出てけよ!もうッ!」


「く、黒田さぁん……マジやばいんすよ……」


部下の狐の様に細い眼から水分が滲む。半泣きだ。


「……んもー!そこで話してェ!?オレはここから離れられんからな!オイ!」



◇




スマートフォンのバックライトを頼りに──しかし、その光を決して窓の外へは漏らさないように──見取り図に書き込まれた、爆弾を送り込めば効率的に建物を崩せる地点を探し出す。当然ながら大半は柱を打ち壊す為、その傍だ。

ただ、自分は“転移陣”なんてとても書けない。できるのはセラさんが分かりやすいように印を軽くつけておく位だ。後は、転移陣が活躍するその時がくるまで上手くカモフラージュしておく程度の手伝い。最も、この事務所の主人は家具の配置や管理にはかなり無頓着なようでその辺りの工作は容易だった。

埃が降り積もりまるで白黴が生えているのかと錯覚させる机の群れ。その配置は小学生の給食の時間の様に向い合せ、隣り合わせに九つ程並べられ、その天板の上にはまた埃の積もった家庭用の電話機が置いてある。なんとFAX機能付きのものまである。設備の更新が驚くほどなされていない。


「よし。今日の目標数は終わった。サジ君が手伝ってくれているから助かるよ」


どうにも情けない。一朝一夕で習得できる技術ではないと分かってはいる。だがどうにも歯痒い。

多少齧るようになって分かってきたが、魔術陣というものは単に行使する魔術より数段上の技術。よく代表的な魔術の例として挙げられる“火球(ファイアボール)”や“雷撃(ライトニング)”はプロセスを完璧に把握していなくとも、方法さえ学べば行使できるという側面がある。外傷への対処に使う──あくまで表面的かつ簡素な段階で行使されるものに限るが──“治癒(ヒール)”もそうだろう。だから広く一般に知れ渡り継承されるに至っている。


簡素で誰にでも扱えるから技術として広まって定着化するというのは何も魔術に限った話ではない。

技を分かりやすく、誰にでも扱えるように簡略化を行う。第三者に脳から絞り出した知恵と知識の結晶を提供することを目的とする、何かしらの開発者なら頭を捻りながら取り組んでいることだろう。何なら開発している時より苦労しているかもしれない。


「いやこんなことしかできなくて……こっちこそ苦労掛けっぱなしです」


だが、魔術陣はそうはいかない。それを書きつけようとする者は行使する魔術の原理を完璧に理解し、更にそれを文字や紋様に起こす形で書きつけて、更に更に書きつける場所や素材に気を配って筆や彫刻刀に顔料の類を選抜し、更に更に更に用途によって陣のサイズも調整しそれに伴って呪文の調整も行って……


「……セラさんって、やっぱり凄いですよね。尊敬します」


「え?えっ?あ、ありがとう?」


兎に角、才能のある者が経験を積んだ上でやっとこぎつけられる技術だということを最近になって漸く理解した。なにせお手本を転写するだけでも苦労するし、何ならそうやってどうにかこうにか写し終えて見ても上手く動かない。今日に向けて練習してみたがどうにもならなかった。


「とりあえず、転移陣は目標以上に設置できています。後は──」


「地下室だね」


自分達は見取り図を見て手当たり次第に仕事をしていた訳ではない。

内部はそこまで気を遣う程広くはないし気休め程度に時間が節約できるだけだが、効率よく回る為の導線は考えていた。

今、俺とセラさんが立っている……薄っぺらい絨毯が敷かれた部屋は、かつて事務所の主が占拠していた場所。所謂、一般的な社会構造に当てはめていうなら社長室に該当する場所だ。

そういうものが最上階ではなく一階にある点に関しては、牛緒源一郎が地下室の存在を恐らく誰にも明かしたくなかったことを知らなければ違和感を覚えていただろう。

“入り口”は此処の周辺の筈。


「……魔術陣を書いていた時から眼に入ってたんだけど、あるね。絨毯が捲れっぱなしになっているところ……此処だね。黒塗りの机と壁の間。木製の床の……板が組み合わさって出来た溝に見せかけた取っ手がある。隠し部屋だよ」


「おお……早いですね。見つけるの」


「はは、これでも迷宮(ダンジョン)の主だからね。隠し部屋を作りたがる人の心理は何となく分かるよ」


成程。そう言えばこの吸血鬼のダンジョンマスターはいくつも隠し部屋を手掛けていた。経験値が違うという訳だ。


ギ、ギッギッと吸血鬼の手によって分厚い扉が開く。いや、持ち上がる。


「──ん?あの光、は……成程。魔術陣が……ちょっと行ってくるよ」


暗闇の中で辛うじて見えていたセラさんの影が、外套(マント)をたなびかせてひらりと穴へと降りて──というよりほぼ落下して消える。


「ちょ!セラさん!」


光?穴の先に光なんて見えたか?

兎に角追いかけないと。


スマートフォンを取り出し確認する。通知は無い。

最も、何か来たら振動で気付く筈だから当たり前なのだが。

そのまま画面に指を走らせつつ、液晶の背面をたった今開かれた四角い穴に向け──間違っても穴の先以外に光が漏れないように──搭載された機能の一つ、カメラのフラッシュを利用した懐中電灯を起動する。


一瞬視界がチカりと揺らめき──照らされた先には、ほぼ梯子といっても差し支えない急な角度の階段。急いで自分も駆け降りる。というよりほぼ落ちていく。


そして突然、履き慣れた鉄板入りのブーツが踏み固められた地面を踏みしめる。


手に収まっている人工的な光で周辺を照らす。

……それなりの広さがある。少なくとも自分が目一杯手足を広げても支障が無い程度にはスペースに余裕がある。地面はあまり舗装されていないが、天井や壁に相当する部分は十字で合わさった黒ずんだ木組みに、ざらついた石材に見えるもので整えられている。


だが、肝心の恩人の姿が──


「……これはまた……頑張って複雑に作ったねぇ」


あった!一番奥、突き当りでしゃがみこんでいる!


「セラさん!急に動き出さないでほしいです──」


自分がそう伝えようとした瞬間、突き当りの壁が一瞬淡く光る。


「!」


異変を感じ、セラさんの肩に手を掛ける。


「いや、問題ないよ。解除しただけだ」


「え?」


改めて異変が起こっている突き当りの壁を注視する──いや、壁ではない。扉だ。写真で見たものと同一の。


「元通りに施錠できることも確認してから開けたから痕跡の問題も無いよ。最も扉を閉め直したら勝手に再起動する仕組みになっているけれども」


酷く不器用な……素人目から見ても線がガタついた歪な魔術陣。それが書きつけられた鉄製の扉。


「写真で見た時から思ってたけど、やっぱり出来はあまりよくないね。多分術式もよく理解しないまま、何度も失敗しながら件の魔導書からどうにかこうにか転写したのかな。書いたのは絶対例の魔術陣を施した森白人(エルフ)じゃあない。消去法でウシオ・ゲンイチロウかな」


緩やかな風に吹かれたカーテンのように、扉がふわりと壁から少し浮く。


「術式自体の誤りも多いし、接続も上手くいってなくて機能してない文言だらけだ。それを補おうと更に呪文と術式をつけ足して非常にごちゃごちゃになっている。“施錠の魔術陣”は仕組み自体が単純でそう難しくは無い筈なんだけども本当に不慣れみたいで……うう、書き直したいなぁ」


「なんで?やめてくださいね?」


なんか超ド級の痕跡を残そうとしている。


「いや……なんだかムズムズしてしまって……入ろう。うん」


むず痒さをかき消すように、浮いた扉の溝に細い指をサッと指し入れ、軽く開くとするりと中へセラさんが潜り込む。


「ちょ……」


俺が先に入らないといけないのに。罠の類だとか、何かしらの危険がないとは限らないのに……急いで扉を大きく開け、後に続く。


ライトは先程と同じように、黒い外套(マント)を羽織りキョロキョロと周囲を興味深そうに見渡すセラさんの姿を照らす。

思わず安堵の息が漏れ出る──ふと、気付いた。我が吸血鬼の主人の明るく絹糸の様に滑らかな金髪が、スマートフォンから放たれる人工的な光を跳ね返して輝いている。要するにフードが外れている。


「セラさん。フードが外れてます。髪の毛が落ちてしまいますよ」


そう告げてから、セラさんの髪にうっかり触れない様にそっと両手で摘まむようにフードを持ち上げ、被せる。


「あっ。す、すまないね」


セラさんの長く明るい金髪は非常に目立つ。それは床に落ちた抜け毛とて同じこと……帰りにも落ちてないか確認しておかないと。


「……ふーむ」


黒田羽久斗が内部を把握できなかった、そして所謂“隠し財産”を貯め込んでいると推定した地下室。今そこに潜入した。潜入前の取り決め通り短文でささっとメッセージを送る。


……しかし……


「……思ったより簡素だな」


別に金の延べ棒と旧紙幣が纏まって出来た札束が積まれた、下品な煌びやかさを放つ隠し部屋を想像していた訳ではない。

しかし、昭和から殺し屋として活躍し続けた男の隠し金置き場としては……非常に地味だ。いや、目立つ構造になってはいけないのだろうが。


見渡した印象を纏めると、部屋というより独房に近い。広さもその位だ。いや、ベッドと鉄格子の窓すら無いから独房より環境は悪い。中に在る家具は、引き出し付きの学習机に似た作りをした古ぼけた木製の机。その近くにある少しは値が張りそうな椅子。空きが目立つ本棚。


以上だ。それで終わり。


簡素だ。ミニマリストでももう少し欲張る。ただ、家具類に埃は積もっていない。一応清潔に保とうとしている意志を感じられる。なんにせよ、黒田が言っていた宝石だの札束だのは此処には無さそうだ。何処か別の場所にあるか、そんなものは初めから無いか。そのどちらかだろう。落胆しそうだな。


まぁ、そもそも金銭の類は別にいい。こっちが興味あるのは牛緒源一郎が持っている筈の異世界由来の品々。もっと言うなら件のエルフが手を加えたのだろうと推測される魔導書。

そこには、現代社会とセラさんの世界が繋がったきっかけ、その手掛かりがあるかもしれない。


「あ、本棚に入ってるのが例の魔導書でしょうか?」


背表紙しか見えないが、それらしいような気がする。


「……セラさん?」


暗闇を見通す吸血鬼の眼は──此方側からは顔は見えないが恐らく──何となく調査を促した本棚ではなく、寂しささえ感じる机の方を見据えている。


「いや……机の上。何か小箱があるんだ」


「箱?ですか」


そう言って、テクリ、テクリと一人で歩を進める。


セラさんへ直接当てないよう、スマートフォンが放つ光を部屋の最奥に在る壁に当てる。

反射した光が机の上を照らす。そこには、確かに小さな箱らしきものがあった。


「これだけ妙に異質というか……部屋の雰囲気にそぐわないんだ」


「そう、なんですか」


少し離れた位置から見ているから分かりにくいが、確かに古ぼけた他の家具類には見合わない高級さ……というよりは作りの精巧さから醸し出される価値を感じる気はする。もしかして宝石でも詰めているんだろうか。


細く白い指が、机に置かれた小箱の蓋をそっと持ち上げる。

中身は──中身は……あれは何だ?


「それは……何でしょう?金色の、糸の束に見え──」


パチン、と何かを軽く弾く音。同時に辺りが光に満ちる。


「お宝でも見つけたかァ?小盗人(コソドロ)の糞餓鬼(しょんべんたれ)」


しわがれた、だが、怒りと力強さに満ちた低い声が鼓膜を貫いた。



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