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現代ダンジョンで吸血鬼と共に  作者: kurobusi
闇の中で生きる者

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一蓮托生 その3

改めてスマートフォンの画面を注視する。物々しいこの建造物の周辺、山々を削り取るように打ち立てられた黒い道路を中心としたその景色には覚えがある。


「……これ、高速道路か?確か“天日(てんび)市”に直で繋がる方の」


「そう。アクセス悪ぃから行こうと思ったらまぁ大抵此処通るんだよな。少なくとも車なら」


天日(てんび)市。確か、平和だった頃は自然豊かな山林に囲まれた、十字架をシンボルとする小中高一貫の巨大なミッションスクールを中心として栄える場所だった。

成り立ちは戦国の時代から異国の地より布教しにきた宣教師達が身寄りの無い子供を引き取って作った村が始まりだとかなんとか……聞いた覚えがある気がする。


しかし、それはかつての姿。

社会が基盤からひっくり返された今、天日(てんび)市がどうなったのかは分からない──というより、俺は吐叶市以外のことをあまり知らない。精々知識は断片的なものだ。


他所ではどうなのか知らないが、此処では情報を得る手段も乏しい。ネット環境が無い訳ではないが優先的にそういったものを使えるのは高Levelの探索者や牛尾組に近しい人間に限られる。俺のような人間に使用が許されていたのは探索者組合本部に設置された台数の限られる共用のPC位。需要に対して設置数が極端に少なく、使用時間も限られる代物で、金品で他者の順番をまとめて買わないとまともに使えなかった。なんなら買い取ってもらうのを目当てに整理券を取得している者もいた。

私物のPCなりスマートフォンなりを持っていたらまた少し話は違ってくるがそういった類の物は持ち合わせることが無かった。巡り合わせで手に持つ機会があってもすぐに生活の糧に消えた。


……まぁそういう事情もあったが、確かに、最大の要因は俺が他者との交流を避けていた所為なんだろう。指摘された通り。

今でも、社会が崩壊した以上一番信じられるのは己だけだと、そう判断を下したのは間違いでは無いと思うが、最低限の繋がりは持っておくべきだったな……交流が深い人物がいなかったからサラリと姿を眩ませてセラさんの所に転がり込めたのだから悪いことばかりでも無いのだが。


「まぁそんなら一から話そうか。事の起こりは吐叶市に現れたダンジョン。その対応に警察がマゴついてる内に起こった魔物の異常繁殖(スタンピード)。まぁ流石にこれは知ってるよな」


「……まぁな」


警察官だった父さんを失うキッカケになった騒動だ。忘れる訳がない。

吐叶市に最初に現れたのは洞窟型の小規模ダンジョン。吹き出物のように現れるそれに、警官だった父さんは市民の安全を守る為対応し続けた。

だが、その努力を嘲笑うかのように、今までのものとは比較にならない程大きなダンジョンが現れた。それも一度に三つも。


「パニックホラーさながらダンジョンから溢れ出る魔物に市内の警察だの消防だのは必死に対応した。だが健闘も虚しく、“魔力”とかいう未知の力を持つ大量の化け物に生存圏を押し込まれ、このまま吐叶市は滅ぶかに見えた──だが、そこに颯爽現れたのがオレ達“牛尾組”だった」


それも覚えている。

霧深い森の木々の間を縫って駆けてきた群れ為す黒狼やそれをけしかける人型の狼、地下遺跡から這い上がってきた肉を焦がし溶かすスライムに火を吹く蝙蝠。突如として出現した不気味な洋館から放たれた巨大な鼠に不気味に歩み寄ってくる泥人形(クレイゴーレム)


市内の警察や消防団のみで対応し切れる筈もない脅威。

当然父さん達は応援を要請していた。そういう情報が流れていた──却下されるどころか返答すら無かったようだったが。

後から分かった話だが、当時は吐叶市のみならず各地で似た事例が頻発していたらしく何処も手一杯で回線はパンク。どうしようもなかったのだ。


しかし、そんなことなぞ知りようもない当時の市民は恐怖と絶望に駆られた。

『自分達は見捨てられたのだ』と。


そんな状況の中現れたのがコイツら牛尾組の面々。

当時の自分も存在自体は一応知っていた。何処ぞの二次団体だか三次団体だかの、人員も資源も限られた小さい組織。その内時代の波に流され消えてゆく存在。

その程度であった筈。


だから相当驚かされた。そんな輩達が手の平から弾ける火球を、迸る雷撃を放ち魔物を殲滅していく様を見た時は。


「ちょいとまぁ事情があってよ、ダンジョンと一緒に流れ込んできた謎だらけのエネルギー……“魔力”の扱いをオレ達はいち早く掴めてたのさ。だから対応できたのさ。ヘッヘッ」


「事情というのはなんだい?」


「気になるでしょうがまぁそれは一旦置いとかせてくださいや。話が逸れちゃうんで」


「俺からも尋ねたい。当時から気になっていた」


「おいおいだからよぉ──」


「その“事情”とやらについての話じゃない」


それも興味は惹かれるが、それよりも機会を得れたらずっと確かめてみたかったことがある。


「俺は吐叶(はくとう)市出身だ。此処で生まれて此処で育った。牛尾組のことも知っていた。平和だった時から時々お前達の姿は目にしていた」


「そりゃまた。親御さんからあんなフーになるんじゃありませんよって躾けられただろ」


「……ダンジョンから魔物が溢れかえり吐叶(はくとう)市が混沌に飲み込まれたあの日。俺は母さんを連れて方々を逃げ回りどうにか避難した──だが、そうして逃げ回っている時も、決死の思いで辿り着いた避難先でも、お前達のガラの悪い顔を俺は見なかった」


「……サジ君?」


「騒動が起きてから改めて姿を見たのは、今思うとお前達が魔物を退治し始めてから……聞かせろ。牛尾組はそれまで何処にいた?」


「記憶違いじゃねぇかな?そん時は牛尾組だってそんなに構成員が多かったワケでもねぇし単純に見なかっただけじゃ──」


「魔力や魔術の習熟にどれだけの期間を要したのかは知らん。だが、お前達は“機会”を伺ってたんじゃないのか」


「サジ君?」


我が吸血鬼の主人の不安そうな声が隣りから聞こえてくる。本題と関係ないところで時間を取らせて申し訳ない。

ただ、確かめておきたい。


「吐叶市を牛耳る為に、魔物が警察のような邪魔な第三者共を弱らせてくれるだけの十分な時間を稼いでから、自分達が英雄(ヒーロー)になれる絶好のタイミングで飛び出してきたんじゃないのか?」


横目に映る僅かな視界の中でセラさんの紅い眼が見開かれたのが分かる。


「ははは。想像力豊かだなぁ鬼月君は。まぁ魔物の異常増殖(スタンピード)が起きてから対応に手間取ったのは事実だな」


「否定しないのか?」


「しなかったら?オレをどうにかするのか?」


「……そうか」


長く胸の奥に燻っていた疑問は今の態度で消え去った。


「それならいい。直接手を出した訳でないならどうでも。話の腰を折って悪かったな。続けてくれ」


「…………え?」


「……ん?鬼月?終わりか?」


先程までふてぶしかった顔に、重いと思い込んでいた荷物が存外軽かったような、肩透かしの表情が浮かぶ。


「……お前の親父、警察だったんだろ?」


「そうだな」


「そんならもっとこう、なんかないの?」


「……勘違いしてるみたいだが、俺は警察という組織そのものは嫌いだぞ」


「えマジで?」


まぁ、さっきの尋ね方と生い立ちを考えれば勘違いもやむないか。


「市民の平和の為に殉じた父さんは尊敬してるけど、正義を報酬にしてその父さんを使い潰した警察は嫌いだ」


それに、異常増殖(スタンピード)はあくまで父さんを失ったキッカケに過ぎない。

……父さんは魔物に殺された訳じゃないんだから。


「ややこしめの闇抱えてんな……まぁなんだ。話戻すぞ。そうやって牛尾組は吐叶市を立て直した訳だが、元々が反社だからな。同じように魔物被害を撥ね退けて、しばらくして復活した他の自治体からの覚えが非常にめでたくないワケなのよね」


黒田は咳払いを一つして、話題を路線へ乗せ直す。


「じゃあこの……ハクトウ市というのは結構孤立しているのかい?今も?」


「そうすね。門を完全に閉じてるワケじゃないすけど、大っぴらに縁を結ぼうって他の自治体から表立って話を持ち掛けられたことはないっすよ。まぁ天日(てんび)市とあれだけやらかせばそりゃそうなんだけども」


「何やらかしたんだ一体」


「ある日、そんなヤクザもんの集まりに天日(てんび)市からのお使いがやって来たんだよ。向こうの実力者だっていう探索者の徒党だったな」


黒田は当時のことを明瞭に思い出そうとしているのか目線を宙にやり腕を組み、椅子へ深く腰掛け直す。


「内容はアレだ。社交辞令とおためごかしを取っ払って纏めると『お前ら反社がまともに一個の自治体運営できるわけねぇだろ反乱でも起きねぇ内にこっちに統治権寄こせや』だな」


……実際は多分もっと婉曲表現を多用したのだろうけども、正論ではある。


「で、交渉は決裂したのか。なんて言って帰した?」


「……帰せなかったんだよなぁ。組長(オヤジ)がその場で全員の首飛ばして数珠繋ぎにしちまったから」


「おま……」


「で、組長(オヤジ)はその足で車かき集めさせて天日(てんび)市にぶっこんでったんよ。イカれたジジイだろ?向こうもお使いが帰ってこないから怪しんだのか色々準備してたみたいでな。お互いの通り道だった高速道路でドンパチやらかしたのさ」


「鎌倉武士でももうちょっと手順踏むぞ……!?」



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― 新着の感想 ―
ほんとにイカれたジジイだったw ^^;
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