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現代ダンジョンで吸血鬼と共に  作者: kurobusi
闇の中で生きる者

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一蓮托生 その2

「だから、アンタらはオレに手を貸すべきなんだよ」


「……お前が“クーデター”を成功させれば、お前以外の誰かがセラさんのダンジョンに手を突っ込んでくることはないと、そう言いたいんだろう」


その通り。と言わんばかりに牛尾組の金庫番は、かつて一世を風靡した芸人の如く両手の人差し指をビシリと俺に向ける。


「そういうこと。ただ“クーデター”だと色気がねぇやな。もっとカッコ良く“下剋上”って言ってくれよ」


「武将気取りか戦国時代じゃないんだぞ」


思わずそんな言葉をついた俺に、黒田はチッチッと舌を鳴らしながら人差し指を揺らす。

キザったらしい動きに少しイラッとする。やかましいのは口だけにして欲しい。


「分かってないんだな。いつまでも現代社会を引きずってちゃいかんぜ。今は力が物を言うマジもんの戦国時代よ」


「……センゴク?時代ってなんだいサジ君?」


隣りで椅子に腰かけるセラさんのキョトンとした顔が此方に向く。

いかん。置いてきぼりにしてしまった。


「今セラさんと俺達がいるこの国なんですが、かつて分裂国家だった時代がありまして。その時期はそうして分たれた土地同士で争いが絶えなかったので戦国時代と呼ばれています」


「へぇ……成程……」


かなりざっくりした説明だし、多少の語弊はあるかもしれないが俺は歴史の専門家でもなんでもない。とりあえずニュアンスはセラさんに伝わったようだしそれでいい。


「……で、マジの戦国時代っていうのはどういうことだ」


「どういうもこういうも言葉通りよ鬼月くん。今お前が言った通りこの国はガッツリ分離しちゃってるのさ」


そういうと、軽薄な雰囲気を漂わせる茶髪の男は黒いスーツの懐からぼんやりと光る板、手の平程の大きさのそれを取り出す。スマートフォンだ。


「……此処にWi-Fiは飛んで無いぞ」


「分かっとらい。キャンプ場じゃねぇんだから」


「わいふぁい?」


革製らしき黒手袋はスマートフォンに対応しているようで、黒田は着けたまま親指で画面をなぞる。


「うわ電波よえぇ読み込みおっそ……マジ?」


「何期待してんだ洞窟の中だぞ」


「さっきから何をしているんだい?その光る板は?」


こりゃWi-Fiの設置手続きもいるかなぁでも費用がなぁ、そんな呟きを漏らす黒田を尻目に俺はセラさんの方へ向き直る。


「ああ、これは通信端末でして……条件を満たす環境でなら、この道具を仲介してお互いの声や文字……あとは写真等も送り合えるんです」


「へぇぇ!?誰でも!?写真も!?」


真っ赤な瞳を愛らしくぱちくりさせながら出てきた素っ頓狂な声にちょっぴりたじろぐ。


「あ、はい。そうですね。操作さえ覚えれば誰でも」


……今更だが、国家が転覆した現代社会でもスマートフォンは使えるんだよな。電話関連の企業は元気にしているということなんだろう。詳しくは知らないが。

俺も昔、ダンジョンで拾い上げた画面がひび割れだらけのスマートフォンを生活費の足しにする前に探索者組合本部の弱々しいWi-Fiに繋げて使ったことがある。


ちょっとした情報収集ついでに見た“ダンジョン配信”なる動画がやたらと印象に残っている。

ダンジョンにカメラを持ち込み、自身の魔物が命をかけて戦う様をエンターテイメントとして届けようとする人間がいることに非常に驚かされた。皆形は違えど日銭を稼ぐのに苦労を重ねているのだなと感じたものだ。


「便利だなぁ……私の世界にも書いた文字を送れる一対の巻物(スクロール)なんかはあったけど、基本的に魔力を持つ者にしか使えなかった。私自身も魔術師の端くれではあるから誰にでも使えるように改良を試みたこともあるんだけど色々あって日の目は見れなかったな。残念なことに」


……吸血鬼が日の目を見れなかったことを残念がっている。


「あーやっと読み込み終わった。ほら。見て見ろ」


ズイズイとこちらに歩み寄り、どすん、とテーブルの上に置くように差し出された手には目を刺すブルーライトを放つスマートフォン。その画面には……


「……壁?」


映し出されたそれは、白線が描かれた黒いアスファルトの上にそそり立つ練りあがったコンクリートから成る建造物。

だが、住居や公営の施設といった趣は全くない。


ひび割れと焦げ跡、スプレーを用いて描きつけられた落書きだらけの高い壁。よく見ると鉄筋が飛び出た大小のコンクリートが石垣のように積み上げられて出来たものなのが分かる。その頂上には丸められた有刺鉄線が束になって連なっている。

この建造物の意図を来訪者に示す看板の類は画面の範囲内には見当たらない。だが伝わってくる。激しい拒絶の意志が。あまりに物々しいその雰囲気が。まるでこれは──


「私には、城壁に見えるね……それも戦争真っ只中の」


「オッ姐さん鋭いね。城壁って例えもナイス」


ビシリ、と黒田の人差し指がセラさんに向く。

バシリ、とその人差し指をはたく。


「アッッッダッッ!!」


「指差すな。失礼だろうが」


「いやイッタ……え?これ大丈夫?指に正面からドッジボールがぶち当たった時と同じ違和感があるんだけど」


「そんな強く叩いてない。早く続き話せ」


大袈裟な奴だ。コバエを払う程度にしか力を入れてないのに。


指を擦りながら、一呼吸おいて黒田は再び口を開く。


「はぁ……まぁこれなんだけどよ。大体姐さんの言った通りだな。こりゃ牛尾組の侵攻を防ぐ為に拵えられた防波堤なのさ」


「ちょ侵攻って……君達は他所に戦争を仕掛けたのかい!?」


ガタン、と隣の椅子が揺れる。地面越しに激しい動揺が伝わってくる。


……画面に映し出されているのは静止画ではない。カクついて分かりにくいが、遠くに見える山々の木々が揺らめいている。動画だ。

しかも、録画ではない。


「……これ、監視カメラの映像だろ。リアルタイムで送られてる」


「そのとーり」


「……つまり、今も決着がついてない。激しいぶつかり合いの無い膠着状態にあるのか?」


「そのとーり。デカめの交戦が起きてからずっとにらみ合ってんのさ」


茶髪のチャラついた男が鼻を鳴らす。手は腕を組んだまま動かさない。

指差しには懲りたらしい。


「……いつからだ?俺は初めて聞いたぞ」


「もうずーいぶん前からだぜ。割と物知らねぇな。探索者やってた頃に情報共有する仲間とかいなかったの?」


「………………」


「べ、別にいいじゃないか。サジ君にはサジ君の歩調があるんだ」


友達がいない子供を励ますお母さんみたいな台詞で慰められる。頗る情けない。


「まぁ、勘違いしないでくれよな。吹っ掛けてきたのは向こうさんなんだぜ」


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