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タクシーで、僕と詩織は子どもを抱いて病院から我が家へ帰った。夕方だった。湿った空気の中、アパートはいつもよりもくたびれて見えた。
「ほら見て」
詩織が赤ん坊をのぞき込みながら言った。
「ここがタッちゃんが暮らすおうちですよ。ボロいアパートでちゅねえ」
冗談めかしているのに、その声にはどこか本気が混じっていた。
「今に達也がでかい家を買ってくれるよ、絶対に」
そう言って、僕は詩織の肩に腕を回そうとした。詩織は僕の腕をぱしりとはたいた。
「バカじゃないの。あんたが買うんでしょう」
え、どうやって?
喉まで出かかったが、さすがに飲み込んだ。
赤ん坊は、何も知らない顔で眠っていた。
僕は何も言えず、先に立って階段を上った。鉄の手すりが、ひどく冷たかった。
ドアを開けて部屋に入ると、詩織は小さく息を吐いた。抱いていた達也を抱き直す手つきも、ほんの少しだけゆるんだ。
これからどうすればいいのかと途方に暮れる様子もなく、ただ部屋を見回すその目には、迷いよりも覚悟に近いものが感じられた。
僕は詩織の肩に手をかけ、そっと抱き寄せた。背中に触れた指先が、ゆっくりと腰をなぞり、そのまま尻の丸みに沿って止まる。詩織の体温が指先に伝わってきた。
詩織は達也をベビーベッドに寝かせながら、「パパにも困ったもんでちゅね」と口では言っていたけど、まんざらでもないようだった。
詩織が何かを言おうと思って瞳を向け、口を開いたのだが、声になる前に僕の唇でふさがれた。
久しぶりの情熱的なキスに、詩織の顔には困り果てたような表情が浮かんでいた。けれど、いくらか眉根を寄せながらも、やがて僕に全身をあずけてきた。
そのアンバランスがまた男心を刺激するのだった。




