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小学生の頃、僕はよくマンションの下で、友だちと手打ち野球をして遊んでいた。
その日も、小雨が降る中で手打ち野球を続けていた。ピッチャーが下投げで投げたボールをバッターが手で打つ。軟ゴムのボールが転がり、僕はそれを追いかけて拾い上げると、そのままバックホームした。
すると、僕の手を離れたボールが、ホームベースがわりにしていた小さなマンホールの手前で、ぶん、という音を立て、直角に近い軌道を描いて大きく曲がった。
その場にいた全員が、口をぽかんと開けたまま立ち尽くしていた。
チビで痩せっぽっちの僕が、まるで『巨人の星』に出てくる大リーグボールのような球を投げたのだから、無理もなかったのだと思う。気がつくと、みんなが僕の周りに集まっていた。
一つ上の先輩が、「どういう握り方で投げたんだ?」と聞いてきた。
僕は少し困ったような顔をして、ボールの握り方を見せてやった。
けれど、そのあとのことは、どうしても思い出せない。もう一度投げてみろと言われたのかもしれないし、そのまま何事もなかったように手打ち野球を続けたのかもしれない。
ただ一つ確かなのは、あのとき僕が投げたボールが、直角に近い軌道を描いて曲がったということだ。その光景だけは、今でもはっきりと心に焼きついている。
chapter 1 を読み終えたとき、僕の頬には涙がにじんでいた。しばらくそこにとどまっていた涙は、やがて静かに頬を伝って落ちていった。
「お父さん、見てたかもしれないね」
母にそう言われ、僕は何も答えず、ただじっと、あのときの光景のことを考えていた。




