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スタジアム全体が灼熱の熱気に包まれ、強い日差しが容赦なく身体に照りつける中、陽炎が立ち昇り、頬を伝う汗をユニフォームの袖で拭い、落ち着かない気持ちになり始めたとき、キャッチャーの林がタイムを取り、内野陣がマウンドにやってきた。
打席に入った4番の近藤は漫画に出てくるような奴で、僕の投げた最初の高めのストレートをファールにして、2球目と3球目のフォークには手を出さず、4球目の内角のストレートを見極めて、そのあとスライダーを2球続けて、あわやホームランというあたりでファールにしたーー。ツーストライク、スリーボール。
気高さも備わっていて、近藤がなんだかそら恐ろしい得体のしれない者のように思えた。
キャッチャーマスクを頭上に載せた林がミットで口もとを隠して言った。「近藤の野郎、あいつ、冷静でいやらしい野郎だぜ」
僕は、自分も冷静になれと言い聞かせた。
「達也」と三塁手の光浦が僕の肩に手を置いて言った。「一人で背負わなくてもいいんだ、なにがあっても俺たちがついてる」
みんなが頷く。
とられた2点はすべて近藤のホームランだ。
絶え間ない観客のざわめきで、だれもが八方塞がりのような重たい気持ちを抱えていたにちがいなかった。つぎの球を確認して「自分の力をボールにのせてど真ん中にストレートをなげこんでこい」と、林がミットで僕のお尻を叩いて言い、それぞれが戻って行く。
打たれるといった不安。それに押し出しのフォアボールになる気がどうしても消えてくれないまま僕はホームプレートの周辺をならし、林がキャッチャーマスクを下ろしながらホームベースの後ろに腰をおろして、主審の声とともにミットを構えた。僕はボールに願いを込めて縫い目に目をやった。けれども、どこか幻で、いつもの感じとはまったく違い、頭の中は現実味がわかなかった。防衛本能が働いてなのか感覚が麻痺した状態に陥っていた。
このままではいけない。帽子を脱いで、汗をぬぐい、被りなおしたその時だった。突然右腕にぽつんときた。球場には相変わらず強い日差しが照りつけていた。
観客席の何人かが上空を見上げた。
帽子のつばにあたり、指にもーー浮遊感を感じていたマウンドで、それは強烈に五感を呼び覚ました。全ての感覚がするどくなり、鼻腔と瞳孔に変化が生じボールの手触りを繊細に感じとることができ、ボールが手になじむのがわかった。空白だった頭に意識が蘇り、いつのまにか緊張が消えている自分に気がついた。とくに考え出そうとしたわけでもないのに、父の声が背後から聞こえた気がした。よし! 投げろ! と。
僕は投球モーションに入った。




