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父の『スライダー』はここで終わっていた。このあとは何を書こうとしていたのかはわからない。
わからないんだけど、僕の頭に、久しく忘れていた情景が蘇ってきた。
互いに見つめ合ってキャッチボールをしていると、グローブとバットを持った近所の子たちがやってきた。
父はその子たちに打つように言って、僕に投げてこいと言った。で、僕が投げて打たれると、どう思い立ったのか父が他の子にキャッチャーをやらせて、こっちに来た。
そして「こうやってカーブを投げるみたいに投げろ」と僕に言った。
背後から父の声が言った。「よし、投げろ」
僕は悩むことなく投げた。
バッターの手前でゴムボールが左に曲がったのがわかった。
その瞬間、心臓が激しく打つのを感じて、僕はちらっと父を振り返ってから、また向き直り、返ってきたボールをキャッチして、もう一度身体を父の方に向けた。
すると、父が「スライダー」と言った。
僕は父をまじまじと見つめ、聞いた。
「スライダー?」
「ああ」と父はいかにも嬉しそうに僕に言った。「スライダーG7」
父から目をそらし、ぼんやりとボールを見てから、もう一度同じように投げると、またバッターの手前でゴムボールが左に曲がったのがわかった。
そして投げていくうちに要領を覚え、そよ風が強風に変わるように、ボールがもの凄く曲がっていく手ごたえを感じていた。




