第21話 長屋の落日1
現場の作業は急ピッチで進んでいた。
テントの屋根素材、強度の心配もあって鉄製の単管を地面に何本も刺して、ぐるりと囲み支えにして直接地面に置く形でプールが作られていった。
消火栓から長くホースが繋がれ水を入れてアレックスと謙の祈りが捧げられ天御中主神様の御力と儀式により水道水が聖水に変えられていく。
「父と子の精霊・・・」
榊原の斥候が長屋に着くと、やけに静かだった。
目隠しをしたままの、なみ彦こと城一郎から指示が出る。
「おい一軒一軒、人がいないか確認して居たら向こうの食堂プレハブに避難させるんだ」
「はい!」久々の出番で刀鍛冶衆の4人には気合が入っていた。
刀鍛冶衆4人の名は鍊彗、叩彗、八鬼彗、研彗という。
彼らは刀鍛冶ではあるものの、いずれも修練を積んだ4人で
榊村の武闘派と呼ばれる4人でもあった。
もちろん超能力で相手を倒す念動流の達人で柴切・数え斬りも取得していた。
現在、榊原一族の守護霊として活躍している赤鬼たち4人は、元は城一郎が祟の現場で出会った百年かけて祟神と化した人間の霊だった。
榊原一族は神道のみならず僧籍を持つものも多く世界各国の宗教に関しても独特の理解・解釈を持つ一族だった。
それには一族に伝わる秘伝の書「亜呍」に、すべての理由が書かれており門外不出の教典であったが書かれていることは人類の誕生に関わることと地球と太陽系について詳しく書かれており、この教典が存在すること自体、部外者に知られることすらなかった。
なぜなら、それは一族の者達さえ知っていれば良いことで
広く世間に知らせるなど無駄な事に思えるほど世界人類は腐っていた。
30年ほど前…
岐阜県、山中の国道工事現場で事故が頻発し始め、調査をしてみると山岸を削り出し道路を拡張する際に道沿いにあった謂れも解らない地蔵尊を邪魔にならない場所にずらしてから、
不注意で工事車両に轢かれる作業員が出たりブルトーザーが突然動かなくなったり、
ユンボのキャタピラが外れてしまったり高熱を出して寝込む作業員達も現れ、いよいよ何かおかしいとなった。
国土交通省保安部・特務課に連絡が入り榊原城一郎が現地を調べた結果、
戦国時代に落ち延びた侍二人が助けを求め村にやってきたが
寝込みを襲われ無残な死に方をしており、村で二人による祟が起こったため地蔵尊を祭り、祠を建て村で神として祀ったものであるらしい事が解った。
工事現場から離れたところに人工のものらしい、ため池があって、そこの隅にポツリと朽ち果てた祠があった。
大昔に大飢饉があり作物の豊穣を願い、そして干ばつにも耐え池が崩れぬように人柱として生贄になった10代の女の子が二人も居たようで結局この村では成仏できず彷徨う合計4人が暗闇の中で悶々としていた。
池の祠の下からは女性の遺骸が2体、地蔵尊が、あった場所には掘ってみると男性の遺骸が2体出てきた。
この時、大学を卒業したての保安部・新人として城一郎と供養祭の手配をしたのが現在の特務課本部長、菅原和茂その人だった。
榊原一族、城一郎には超能力があり霊魂と会話をすることなど造作もないことだった。
「おまえ達、聞く耳はあるか?無いなら消滅だ。
成仏とも言うが輪廻の道はないし懺悔も無い。
文字通りお前たち4人は消滅する、上を見てみろ神様の光が見えるだろう・・・」
上空には神様の証である光の玉が浮かんでいる。
「なぜだ?無関係の人間にまで祟る鬼だからだ。
お前達、鬼のままで良いのか?その怨み辛み苦しみを仏様に聞いてもらい、なぜ自分が存在するのか、その魂の意義を知ることもなく消滅して良いのか?
信用していた村人達への怨み憎しみは良く理解できる。
俺と一緒に来い、俺もできる限り寄り添って、その苦しみに向き合おうじゃないか俺は敵じゃない、お前たちが永い間、心待ちにしていた神の使いだ」
鬼と呼ばれた4人は成仏、輪廻転生を願い修行を積み「善鬼」に生まれ変わって榊原一族のアイドル守護霊となった。
赤鬼、青鬼、瀬津、艶。
榊原一族は穢れた土地、成仏できず冥界に行けない人間や動物の魂を冥界に導き浄霊する事が役目であり目的であったが、やがて悪魔たちが力を学び肉体・霊体の両方を操って地球上で好き勝手するようになってきた。
人間に取引を持ち掛け魂を奪ったり、愚かな人間に味方して犯罪に力を貸したりするものが現れた。
悪魔の目的は娯楽と人間の魂が持つエネルギーを奪い活動することだった。
それが地獄を行き来する悪魔たちが唯一可能な神への嫌がらせであった。
それが、いつまでも無くならないのは無知な人間の心に悪い心が溢れているからだった。
そして現在…
なみ彦こと城一郎が云う。
「あのな、相手は、あのアパート中心に人々の命を奪ってきた悪魔の下僕たちだ油断は出来ない、作戦はシンプルだ。
長屋の住人は悪魔に憑依されているようだ。
お前たち4人は体当たりを食らわし悪魔を住人の体から追い出して入れ替わりに住人にお前たちが憑依するんだ、
そして現場のプレハブまで走って逃げて、
ここの住人の肉体を置いたら、また戻って来い。
その間に私と鍊彗たちで憑依崩れした悪魔を柴切退治してくれる、わかったか?」
皆が頷き鍊彗が答えた。
「なるほど、わかりました・・・あれっ?城一郎様、あれは・・・・・」
刀鍛冶、鍊彗が指差す方を見てみると長屋の玄関から日本刀を片手に持った住人たちが、ぞろぞろと出てきた。
『ゆらりゆらり』と意識がなさげに歩き近づいてくる住人たち。
城一郎は思った
『ありゃ、これはゾンビのようになっている、もしこのまま柴切退治しようものなら生身の住人達も死ぬかもしれん、これだけの数だ、きっと大騒ぎになるな・・・なんとしたことか…もう仕方ないな人命第一、あー嫌だな、また怒られるぞ…はぁー』
出来るだけ自分たちで何とかしたかった榊原だったが…
悪魔の下僕は住民たちに憑依して夜になったら榊原一族を後ろから襲おうと企んでいたのだった。
城一郎が叫んだ。
「おい、みんな刀を置いて黙座しろっ!」
「えっ?」
「いいから座ってくれ」
「はい」
やる気のあった刀鍛冶衆とアイドル守護霊の4人は
左脇の地面に柴刀を置いて、正座した。
そこに離れたところに居る静華から城一郎にテレパシーが入った。
「父上、見たところ間に合いません。死人けが人が増えるだけ此方の負け、いっそのこと神様にゆだねた方が良いのではないでしょうか?」
静華からの警告だった。




