第10話 結界の儀式1
それは関係者待機用のテント小屋に西条先生が座っていると
テント裏の脇道通行止めを担当していた警察官が困惑気味にやってきた。
「あの副署長、近隣の住民の方が、あの木の下には恐ろしいものが眠っているので伐採して大丈夫なのかと…
事情のわかる方と話がしたいと申しておりますが、どうしたものでしょうか」
思わず西条先生と茂木は顔を見合った。
「私たちが伺いましょう、その方を、こちらへ案内してください」
その近隣住民というのがKさんという30代かと思われる女性の方だった。
先程から作業を心配そうに遠くで見学しながら手をあわせていた人たちの一人だ。
話の内容ではKさんの、ご先祖様の言い伝えで
『金魂様』と呼ばれていた神様がいて
掛け軸を床の間に飾り眠ると、夢に金魂さまが現れて取引を持ちかけると言う事だった。
その金魂様のチカラで得た財産を私利私欲に使い契約が成立すると、
ある日突然、命を奪われたり病気で亡くなったりと不幸が訪れるので
Kさんの、ご先祖が掛け軸を封印して木の根元に埋めて
言い伝えだけが残っていたのだ。
『絶対に触ってはいけない』
和華は、いつの間にか黒い手袋を履いていました。
白いワンピースにコートを羽織り座席で目を閉じていました。
「和華さん、そういう事らしいのですが、聞こえていますか」
式が声をかけると彼女は静かに語りだした。
「ハイ西条先生このお話は、もう結構です、わかりました。
ご忠告、真摯に受け止めさせていただきます。
それは魂と引換に願いを叶える悪魔です。
管狐と呼ぶものもありますが、どうも今の状況を見ますと悪魔です。
鬼と呼ぶ場合もありますし・・・その昔、そのような悪魔を流布して歩いていた薬売りの一族がありました。
その一族にしても魅入られてしまい奴隷のようになっていたのかもしれません。
西条先生・・・」
「ハイ」
「私のような子供が生意気言いますが、どうか背負い込まないでください悔しい思いをされてきた先生の、お気持ち受け止めました。
今日、枝払いだけでもさせて頂いたのは同じ理由です。
あの木をアンテナのように利用し死霊・悪魔が好きに暴れだしたようです。
私たち一族は、つい最近まで離散し活動していなかったのですが
考えなおした政治家の方々と、さる方達の尽力で再び祭師として活動を始めたばかりなのです。
先生、来るのが遅くなって申し訳ない、あとは経過を見届けてください、これ以上背負い込んだり深入りは禁物です」
ふと見やると、いつもニコニコしている西条先生はすべてを見抜かれたらしく、今にも泣きそうな、お顔をされていた。
考えてみれば西条先生は随分と悔しさと理不尽さに怒りを感じながら過ごされて来たのかもしれなかった。
和華の方を見ると、ずっと目をつむったままだった。
ワンピースの襟には
『菊の御紋』のピンバッチが、きらりと光っている。
和華が言った。
「この日本国は元来、母のように優しくも厳しくもある国です。
山・海・森・川、人々の住む大地すべてに八百万もの、あらゆる神様がいらっしゃいます。
私たちは神様の力におすがりして悪しきものを祓います」
和華が、あまりにも大人びているので引くほどでしたが、ずっと目をつむっているのが、
ちょっと不自然に感じてきた。
『あれぇ・・・ひょっとして話してるの、ほかの人じゃないのか?おじいさま憑依したかな?』
式は尾形の肩を少し指で小突き耳打ちをしました。
「今の多分、城一郎さんか和華さんのじいさんだ」
尾形は一瞬『えっ!』という顔をしてコチラを見た。
そして式は『うん』と大きく頷いた。
その後、和華さんはガクリと頭が後ろに倒れると
「んガァー」と大きなイビキをかいた。
完全に眠っていた。
茂木と西条先生は眠っている和華を見て
少し驚きの表情になっていた。
「ブルーシート・足場の設置、終わりました」
作業員の一人が車に報告に来た。
いよいよ始まります。
みんな車から降りて後部座席で眠っている和華に声をかけた。
「目隠しの設置終わりました、和華さん」
「ん、わかったあー」
和華は無理やり起きた。




