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第6話 無口な辺境伯の朝摘み花

その翌朝も、私の机の端には花が置かれていた。


 今度は青みを帯びた小さな野薔薇と、針葉の若枝。誰が置いたのか聞くまでもない。辺境伯は朝の見回りを終えるたび、何気ない顔で季節の匂いを置いていく。


「哀れまれていると思うなら捨てろ」


 ちょうど温室前で会ったレオンハルトは、そう言った。


「そんなつもりでは」


「なら使えばいい」


 私は少しだけ笑ってしまった。


「命令口調なのに、妙に押しつけがましくないんですね」


「王都の貴族みたいに、恩を着せる趣味はない」


 彼と一緒に高地の花畑まで歩く。雪が解けたばかりの斜面には、まだ背の低い草花しかない。けれど香りは正直だった。冷たい土、若い樹皮、朝露、そして短く咲く花の、焦るみたいな甘さ。


「北辺の香りは、華やかではありません」


「必要なのは華やかさか」


 問われて、私は少し考えた。


「……いいえ。覚えていたくなるかどうかです」


 その日、私は朝摘みの野薔薇と薄荷で、蒸留所の作業場向けの香水ではなく、疲労を和らげる洗浄香液を試作した。工員たちが使うと、重かった空気が少し軽くなる。


「香りって、こんな使い方もできるんだね」


 若い工女が嬉しそうに笑った。


 王都では見向きもされなかった私の仕事が、ここではちゃんと役に立つ。


 夕方、マルタがぼそりと言った。


「あんた、案外うち向きかもしれないよ」


 私は初めて、この場所で深く息を吸えた気がした。



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