第5話 偽物の白百合精油
原料庫の一番奥に、未開封と記された白百合精油の木箱が三つ残っていた。
私はマルタ立ち会いのもとで封を切り、一本だけ試香紙に落とす。立ち上がった香りに、すぐ顔をしかめた。
「これも偽物です」
白百合の静かな甘さは最初だけで、すぐに舌を刺すような溶媒臭が追ってくる。王都の香卓で嗅いだ匂いと同じだった。
「本物なら、最後に雪みたいな冷たさが残るんです。でもこれは熱っぽく終わる」
レオンハルトが試香紙を受け取る。
「俺には詳しくわからん」
「わからなくていいです。違うものだと信じてください」
彼は一拍置いてから答えた。
「信じる。だから証拠を揃えろ」
その言葉は、不思議なほど心強かった。
木箱の底板を外すと、薄い伝票が一枚滑り出た。納入元は北辺蒸留所ではなく、王都南区のラーゲ商会。だが表面だけ北辺の帳票に写し替えてある。
「すり替えは現地だけじゃない」
私は伝票を光に透かした。写し替えの下に、元の印字がかすかに残っている。
「王都で偽物を買い、北辺の正規品として回している」
「誰が」
「まだ名前は言えません。でも、王宮の帳簿と必ずつながります」
マルタが小さく舌打ちした。
「うちは切り捨てられたわけじゃなかったのか。最初から食い物にされてたんだね」
私はうなずく。
左遷先に選ばれたのは、ここで何も見つけられないと思われていたからだ。
だったら、なおさら見つけてやる。




