第17話 偽りの涙は香らない
比較は、一瞬で終わった。
ミレーユが用意した王宮香は立ち上がりこそ華やかだったが、すぐに安溶媒の熱い尾香が漏れた。北辺の白百合を知ったあとの会場では、その差は誰の鼻にも明らかだった。
「僭越ながら、説明を求めます」
私は王宮香房長と宮内長官の前に、裏伝票、ラーゲ商会の供述書、母の後継指定書、偽封蝋の比較表を並べた。
「正規出荷が減らされた分、南区の偽物が混入していました。管理番号の流出と見本瓶の盗難も確認済みです」
セドリックが顔色を変える。
「証拠にならない。匂いなど主観だ」
「では、こちらを」
私は北辺の純白百合を染み込ませた試香紙を、ミレーユの手袋のそばへかざした。瞬間、彼女の手元から強い金属臭が立ち上がる。安溶媒に含まれる固定剤は、純白百合の冷たい成分とぶつかると刺す匂いに変わるのだ。
会場がざわめいた。
「そんな……」
ミレーユがとっさにハンカチで目元を押さえた。だがそのハンカチからも、同じジャスミン混じりの偽物臭が広がる。
宮内長官の命で控室が改められ、ほどなくして報告が届いた。ミレーユの鏡箱から、母の見本瓶と同じ切り欠きの白百合瓶が見つかったのだ。
セドリックは何か言い訳しかけたが、裏伝票の署名と彼の特別調達印がすべて潰した。
私は静かに言う。
「本物の令嬢とは、やわらかく笑える人のことではありません。預かったものを勝手にすり替えない人のことです」
ミレーユの瞳から涙が落ちる。けれどその涙は、何の香りも持っていなかった。
嘘は最後まで、空っぽだった。




