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第16話 夜会を満たす北辺の香
王宮の大夜会は、春薫祭よりさらに眩しかった。
磨き上げられた床、金の燭台、色を競うドレス。そして人々の間を漂う、作られた華やかさ。私は北辺から持ち込んだ香台を整えながら、一つずつ呼吸を整えた。
「お義姉様、お久しぶりですわ」
振り返ると、ミレーユがいた。淡金のドレスに真珠を散らし、完璧な笑みを浮かべている。セドリックもその隣で、いかにもすべてが順調だと言いたげな顔をしていた。
「北辺で土臭い仕事にも慣れました?」
「ええ。人の役に立つ匂いが、どれほど気持ちのいいものか覚えました」
ミレーユの眉がわずかに動く。
やがて開宴の鐘が鳴り、私は北辺の新作を香炉へ落とした。『暁雪の白百合』が静かに広がる。ざわついていた会場の空気が、ほんの少し柔らかく変わった。
「何だ、この香りは」
「王都の白百合より澄んでいる」
「後に冷たさが残るわ」
貴婦人たちの声が重なる。
セドリックが慌てて前へ出ようとしたが、その前にレオンハルトが私の隣へ立った。何も言わなくても、私が一人で矢面に立たなくていいように。
ミレーユは笑みを崩さず、香台の前へ進んだ。
「皆さま、わたくしがご用意した王宮の香りもぜひ」
私は静かに答える。
「もちろん。比べれば、よくわかりますから」
瓶はもう、嘘より雄弁だった。




