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第14話 『本物の令嬢』の残り香
王都行きの準備をしていた夜、私は見本瓶箱の底布が少し浮いていることに気づいた。
そっと剥がすと、薄い紙束と小さな硝子片が出てくる。紙は母の手紙だった。
『香りは容姿より先に、その人の生き方を残す。だから記録は、きれいな嘘よりも強い』
同封されていたのは、香房の後継者指定書。次代の見本瓶管理者として、私の名が書かれていた。
そして硝子片には、ミレーユの手紙と同じ濃いジャスミンの残り香がついていた。白百合の見本瓶が抜かれたとき、同じ香りの手袋が触れたのだろう。
私はようやく理解する。
ミレーユが奪ったのは、婚約や春薫祭の席だけではない。母が私に遺した役目そのものだ。
継母はよく言っていた。
「やはりミレーユの方が本物の令嬢らしいわ」
笑って、柔らかく、目立つ娘が本物。帳面と匂いばかり見ている私は、その陰。
けれど母は違う基準を遺していた。
誰かに預けられたものを、最後まで守る者こそふさわしいのだと。
私は紙束を抱きしめる。
今度王都へ戻る私は、もう比較される側ではない。
私自身の証拠を持って帰る。




