297. パレード
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アガット騎士団領の首都、タルクワープの都市の北門から中央部へ向かう街路の沿道には、沢山の人達が詰めかけていた。
その群衆に賑わう街路を、ユリとアルトリウス、そしてジュレミー総長の3名の国主を乗せた馬車が、ゆっくりと移動していく。
いまユリ達が乗っている豪奢な馬車には屋根が無く、まるでオープンカーを思わせる作りになっている。だから乗っているユリ達の姿も、沿道に溢れる人達から丸見えになっていた。
おそらくこの馬車は、国賓の姿を衆目に晒すためのパレード用の車なのだろう。
沿道からぶんぶんと力強く手を振ってくる、アガット騎士団領の民達に応えるように、ユリもまた小さく手を振り返した。
(芸能人にでもなった気分ね……)
衆目を浴びながら、ユリは内心でそんなことを思う。
作り笑顔を浮かべながら市民に向けて手を振り続けていると、徐々に自分の心が磨り減っていくのが、感覚として判るような気がした。
20分程の時間を掛けてゆっくりと進んだ馬車が、ようやく首都の城に到着した頃には。ユリはもう、精神的にへとへとだった。
『放送』を介して多数の人に見られるのには慣れているけれど、直接衆目に晒される機会というのは意外と無いものだから。この手のストレスへの耐性を、あまりユリは持ち合わせていないのだ。
「―――ありがとうございました、ユリ陛下、アルトリウス教皇。お2人のお陰で3国間の関係が良好であることが、市民によく伝わったことでしょう」
精神的に疲労困憊のユリとは裏腹に、ジュレミー総督はほくほく顔だ。
彼からすれば、ここで『ヴォルミシア帝国以外にも懇意にする国がある』ことを市民にアピールしておけば、国家の安寧への寄与が期待できるからだろう。
アガット騎士団領では国土に出現した泥土狼に対処するために、およそ1年前から国内の各都市を封鎖し、周辺国との国交を断っていた。
そのため周辺国の情報が入ってこない状態にあり、そのせいで『ヴォルミシア帝国に遣わしたつもりの使者が百合帝国の国主に面会する』という、おかしな状況が発生したわけだけれど―――。
泥土狼の討伐を成し遂げたことで都市封鎖の必要が無くなったので、今後は再び周辺国の情報が、商人や旅客によって国内の各都市に持ち込まれることになる。
そうなれば―――当然『ヴォルミシア帝国が既に滅亡している』という情報も、すぐに国民の知るところになる筈だ。
アガット騎士団領にとってヴォルミシア帝国は、定期的に『戦争』を行う建前から同盟こそ結んでいなかったものの。最も仲が良い国家なのは周知の事実であり、また交易の相手としても非常に重要性が高かった。
その最大の友好国を失った事実が広まれば、当然この国に住まう民達の中には、国家の先行きに不安を覚える者も出てくるだろう。
だから、今みたいに―――ヴォルミシア帝国を失っても、代わりに頼みに出来る別の国家があることを民に周知しておくことは、その不安を緩和する効果がある。
それに、失われたヴォルミシア帝国に成り代わって、彼の全土を支配しているのは百合帝国なのだから。百合帝国と懇意の関係が築けるなら、結局は今までと何も変わらないと、そう判断する民も少なくないだろう。
「貴国と良い関係が築けるなら、仕方がないことだと割り切りましょう……」
はあ、と重い溜息をひとつ吐きながら、ユリはそう告げる。
事実上、ジュレミー総長から体良く利用されたわけなので、どうにも釈然としないものはあるけれど。ともかく―――これでアガット騎士団領には、百合帝国との関係を強化する以外の選択肢は無くなったことになる。
それは百合帝国の利益となり、ひいてはユリの望みにも叶うことだ。
嘗てのヴォルミシア帝国の時のように、意図しない形で戦争を行う羽目になり、望んでもいない国土の拡大を強いられるのは、本当にもう勘弁して欲しいのだ。
パレードの晒し者になるだけで手を取り合えるなら、悪いことではない―――。
精神的疲労に悄然と項垂れながらも、ユリはそう自分を納得させることにした。
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