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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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296. お出迎え

 


     [6]



 アガット騎士団領の首都タルクワープ、その北門の傍に着陸したユリ達一行は、暫しの間、同行してくれた皆と他愛もない話をしながら時間を潰す。

 帰国する使者達に持たせる形で、事前に訪問する旨を伝えていたとはいえ。具体的な訪問の日取りや着陸地点についてまで、親書の中で触れていたわけでは無い。

 なので、この国の国主であるジュレミー総長からの指示を受け、首都に駐留する騎士達がユリ達の元へ出迎えに来てくれるまでには、今少し時間が掛かるだろう。


「ああ―――そうだ。皆、今のうちに『人化(レガ)』を行っておいて頂戴ね」


 同行してくれた竜の一団に、ユリはそう呼びかける。

 百合帝国に滞在している竜の部族は、既にその全員が『人化(レガ)』の能力を修得するに至っている。なのでユリの要請に応じて、その場に居る26体の竜の内の20体が、すぐに人族の姿へと変身してくれる。

 またユリの護衛役として同行した6名の『白百合』の子達も、騎獣の戦竜(ウォードラゴン)達を順次送還していく。これにより残る6体の竜の姿も消滅し、ユリ達の一行は人族の姿をした27名だけとなった。


「そういえば―――ラースもディオラもボルトスも、いずれの部族も『迷宮地(ダンジョン)』の中では大活躍しているそうね? きっと人の姿だと戦いにくい部分もあると思うのに、それでも充分な戦果を出しているのは流石ね」


 3名の竜の名前を呼びながら、ユリはそう賞賛の言葉を贈る。

 ちなみにラースは火竜、ディオラは水竜、ボルトスは雷竜の部族を纏める長役の名前だ。長を務めるだけはあり、3名のそれぞれの部族で最も高い実力を持つ。

 ―――もちろん、ラドラグルフやリンドヴルムとは較べるまでも無いけれど。


「ご存じ頂けておりますとは、光栄です。正直を申し上げて、人の身での近接戦闘にはまだ不慣れな部分がありますので、魔法を主体に戦っております」


 ユリの言葉に、水竜の長であるディオラが笑顔でそう答えた。

 ディオラは雌の個体なので『人化(レガ)』を行うと人族の女性へと変身する。

 清流をそのまま形にしたような、綺麗な蒼に透ける髪が魅力的な女性だ。彼女の持つ魅力は、人魚の長であるアトラに似たものがある。


「なるほど。あなた達は己の属性の魔法であれば、高度なものでも意の儘に操れる力があるものね。『迷宮地』で充分な戦果が出せているのも、頷けるわ」

「むしろ、魔法の力をフル活用していて尚、未だに『上級者向けⅠ』を攻略できていないことを思いますと。ユリ様からは賞賛の言葉より、叱責のお言葉を頂戴する方が適切なのかもしれません……」


 肩を落としながら、ディオラが悲しそうな声でそう零す。

 『人化(レガ)』を行えば、竜の巨体を活かした物理攻撃が出来なくなるので、戦闘能力は当然低下するが。別に魔法の行使能力まで落ちるわけではない。

 どうやらディオラは、ユリから賞賛されても尚、現在出せている戦果に納得できないものがあるようだ。


 ディオラがまだ攻略できていない『上級者向けⅠ』は、ユリシスの都市に存在する6つの迷宮地の中で、上から2番目の難易度になる。

 推奨レベルが『66~80』と高いので、そこに挑めている時点で、探索者として充分な実力があることは、証明されているようなものだが。

 とはいえ―――竜の部族はそれぞれ『下位竜(レッサー・ドラゴン)』に区分される竜達の集まりなので、元々のレベルが100~130ぐらいはあるのだ。

 『人化(レガ)』を行っただけで、本来の実力の6~7割程度しか発揮できていないことを思うと。彼女からすれば、忸怩たるものがあるのだろう。


「ブレスを吐けないのが辛い、というのもありますな」

「然り。人の身でも吐けるようなら、魔物の群れなど一焼きにしてみせるものを」

「とはいえ実際に人の身体になってみると、武器を扱う技倆がいかに大事かというのがよく判りますな。思う儘に振り回せるようになってくると、楽しいものです」

「それもまた然り。狙い澄ました魔物の弱点を、槍の穂先で上手く穿てた時などは感動すら覚えるものがある」

「あと己の『職業(クラス)』を成長させるのも、楽しくて仕方有りませんな」

「然り然り。雷以外の魔法も操れることが、これほど嬉しいとは」


 ボルトスとラースの2人が、どこか楽しげにそう語らっていた。

 それぞれの竜の部族は『人化(レガ)』が自由に行えるようになり次第、誰も彼もが率先して楽しげに『迷宮地』へ通い詰めていると、そうソフィアから聞いている。

 その背景には、彼らが口にしている通り、魔物でありながら『職業(クラス)』を成長させることができる楽しみがある、というのが大きいのだろう。


 竜は生まれながらにして強大なレベルを有しているが、それだけに自身を成長させる機会というものに乏しいところがある。

 何しろ同族を除けば、周囲に自分と同格、あるいはそれに次ぐレベルの存在が、全くと言って良いほど存在しないからだ。

 自分よりレベルが遙かに格下の相手を狩り回ったところで、得られる経験値など高が知れている。生まれながらにして100以上のレベルを持つ個体だからこそ、そこから更に1レベルでも成長するというのは本当に大変なことなのだ。


 けれど―――先日、癒神リュディナが起こした『小変革』により、彼らは自らが望む『職業(クラス)』を1つだけ、得ることが可能になった。

 新しく得た職業は当然『レベル1』からスタートになるので、竜達はその才能を思う儘に育てられることが、楽しくて仕方がないようだ。

 だから竜達は、魔物でも職業を得られるようにしてくれたリュディナと、才能を育むのに便利な『迷宮地』の場を用意したユリに、とても感謝してくれている。

 深い感謝は、信仰という形で返ってくる。ユリに集まる信仰はリュディナが自由に使うことができるので、二重の意味で信仰の集積が加速したことに、彼女はとても喜んでいるようだ。


 主に『迷宮地(ダンジョン)』や『職業(クラス)』に関する話題を、竜達と歓談していると。

 やがてタルクワープの北門から登場した馬に騎乗した騎士の一団が、ユリ達の居る方向へと徐々に近寄ってきた。


 彼らはユリ達の手前まで到達すると、馬を下りてその場で深々と頭を下げる。

 ちゃんと下馬した上で挨拶をしてくれる時点で、いつぞやのヴォルミシア帝国とは違い、賓客として歓迎しようという相手の意志が目に見えて判るだけに。ユリはそれだけで、とても嬉しい気持ちになれた。


「ユリ陛下、及び百合帝国の皆様。お迎えが遅くなりまして、申し訳ありません」

「とんでもありません。充分に早くて、そして丁寧な応対をして頂けますことに、女帝として感謝を申し上げます。―――宜しければ名前を伺っても良いかしら?」

「これは、重ね重ね失礼を致しました。私は第一騎士団の総長を務めております、ジュレミー・ノーバンと申します」


 顔を上げた騎士は、立派な髭を蓄えた男性だった。

 ジュレミーという名前は、もちろんユリも把握しているものだ。身に付けている胸甲には、林檎を抱えた鷲の姿を、紫で縁取った意匠があしらわれている。

 ―――アガット騎士団領の紋章だ。紫は最も高い位階にあることを示している。


「……これは、驚きました。まさか国主自らが出迎えて下さいますとは」

「ははは、ユリ陛下のそのお顔が見られただけでも、部下に任せず出向いた甲斐があるというものです。それに―――驚かされたのは我等も同じ。親書に『近日中に竜に乗って訪問する』と書かれてはおりましたが、まさか本当に竜の一群に乗っていらっしゃるとは、夢にも思いませんでしたよ」

「ふふ、それは失礼を致しました」


 ジュレミー総長が返した言葉に、ユリはくすりと微笑む。

 こうして実際に話してみると判るが、ジュレミー総長は礼節自体は尊重しながらも、なかなかに気安く多弁な人物であるようだ。

 そういう相手の方が、ユリとしても話しやすくて有難くはある。


「ジュレミー総長、ご無沙汰をしております」

「おお、これはアルトリウス教皇ではありませんか。まさか本当にいらっしゃっておられるとは……。あなたが認めておられるということは、ユリ陛下は正に?」

「ええ。恐れ多くも『八神』に連なる方に間違いありません」

「なんと……。いえ、以前にもリュディナ様の神託がありましたので、百合帝国の女帝であるユリ陛下が、主神の1柱であられることは存じておりましたが。

 ―――改めまして、こうして愛の女神であらせられますユリ陛下に、直接お会いできる機会に恵まれましたこと。光栄の限りに存じます」


 乗ってきた馬がすぐ傍に居るから危ないにも拘わらず。ジュレミー総長は、即座にその場で跪き、ユリに対する敬意を示してみせた。

 どうやら彼が敬虔な『八神教』の信徒だと告げていたソフィアの言葉は、間違いなく正しいものであるらしい。


 アルトリウス聖王を同伴して訪問すれば、友好を築くなど造作も無い―――。

 そう告げていたソフィアの言葉が、いかに正鵠を射たものであったか。目の前に確たる証拠を提示された気がして、思わず戦慄に似た感覚を覚える。

 ……ソフィアが味方で良かったと。そう改めてユリは思い知らされた気がした。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 共通の知人って大事よね
[一言] まーた人が見てない所で人化させてる
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