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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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295. 編隊飛行

 


     [5]



 ユリの護衛として同行する6名の『白百合(エスティア)』。彼女達が乗っている騎獣の戦竜(ウォードラゴン)は、地上を駆ける分には優れた機動力を発揮するのだけれど、一方で空を飛ぶ速度はやや遅めの部類に入る。

 だからユリ達の一団は6体の戦竜を中心に据えた編隊を組み、全体がその速度に合わせて飛行する。ユリとアルトリウスが騎乗する、ラドラグルフとリンドヴルムが戦竜の前方に陣取り、火竜と水龍が側面に、雷竜が後方に追従する形だ。


「ラドラグルフ。ほんの少しだけ、針路を左にずらして頂戴」

『心得た。……この程度で良いか?』

「ええ、ピッタリよ。ありがとう」


 目的地であるアガット騎士団領の首都タルクワープには、既に『撫子』の子達を数名送り込んでおり、現地での情報収集を行わせている。

 また首都がある位置をマーキングして貰っているので、タルクワープがある方向がユリの視界には常に表示されている。

 一団の先頭を飛行するユリは、騎乗しているラドラグルフに指示を出し、針路を微調整する。方向さえしっかり合わせておけば、最短時間で到着できる筈だ。


 戦竜(ウォードラゴン)の飛行速度は竜の中では遅めの部類に入るけれど―――とはいえ、それでも時速250km程度であれば優に出すことができる。

 空を駆ける竜の一団に、障害物などあろう筈も無い。またかなりの高さを飛んでいる為なのか、それとも多数の竜が群れている所に喧嘩を吹っ掛ける愚かな魔物が居ない為なのかは判らないが、ユリ達が襲撃を受けることは無かった。


 道中に支障が全く生じなければ、到着までそれほど時間は掛からない。

 空高くを飛んでいると、景色がゆっくりとしか動かないので、あまり実感が伴わないけれど。時速250kmというのは、ちょっとした新幹線並みの速度だ。

 ラドラグルフやリンドヴルム、アルトリウスとの歓談を楽しんでいるだけで。ほどなく一団は国境を越え、アガット騎士団領の空へと突入した。


『ユリよ。もう目的地が見えておるぞ』

「私の目にはまだ見えないわね……」


 天気は良好なのだけれど、生憎とユリの目からは何も見えそうにない。

 リンドヴルムと同じように、ラドラグルフもまた視力が非常に良いようだ。


「……ああ、やっと微かに見えてきたわね。ラドラグルフ、速度を落として頂戴。それと先方の都市に魔法を行使するから、少し頭も下げて貰えると嬉しいわ」

『承知した』


 正確に魔法を行使するためには、目標が視認できていることが望ましい。

 ラドラグルフに頭を下げて貰うことで、前方俯角の視界を確保してから。ユリはアガット騎士団領の首都、タルクワープの都市がすっぽり収まるように効果範囲を拡大した上で、魔法の詠唱を開始する。


「―――全てを我が前に曝け出せ、【空間把握】!」


 必要な文節を繰り返しながら、10分強の時間を掛けて詠唱句を諳んじた後に、ユリは魔術語(ネシエント)によって詠唱を結んだ。

 【空間把握】が正しく発動したことで、首都タルクワープのあらゆる都市情報がユリの頭の中に一気に流れ込んでくる。


 人口は全部で3万1188人。

 ユリが今までに見た他国の都市で、最も規模が大きかったのはヴォルミシア帝国の首都だったドリスダールになるけれど。いまユリが見下ろしているアガット騎士団領の首都タルクワープの都市は、その規模を上回るものだ。

 上空から眺めた感じだと、幅が広い目抜き通りが殆ど見られず、けれどその割に建物の数が多いせいなのか、やや手狭で雑多な印象の都市に見える。


 つい先日まで泥土狼が都市周辺に出現していた割には、いつか見たヴォルミシア帝国の首都とは違い、住人に『飢餓』や『空腹』に喘ぐ者は全く居ないようだ。

 日頃から充分な食料備蓄を行っていた証左だろう。国民の命がしっかり護られている事実を【空間把握】の効果で確認し、ユリはアガット騎士団領の国主や官僚に対して敬意を抱いた。

 都市上空500mぐらいの位置にまで接近すると、空を見上げながらとても狼狽している住人達が多く居る様子が、肉眼でも見えてくる。

 ユリは速やかに『絆(リンク)』を確立し、タルクワープの都市内に居る全ての住民達に向けて、音声だけの念話を発信した。


「―――ごきげんよう、アガット騎士団領の首都タルクワープにお住まいの皆様。私は百合帝国という国の女帝をしております、ユリと申します。

 26体もの竜を同行したことで、首都にお住まいの皆様を怯えさせてしまったようでしたら、大変申し訳ありません。現在首都の上空におります竜達は全て、私の臣下の者ですので、タルクワープにお住まいの皆様に危害を加えることは絶対にありません。そのことは百合帝国の女帝として、私が確約致します」


 まずは住民の恐怖を和らげるために、穏和な声でユリはそう呼びかける。

 都市に無用の混乱を与えるのは、ユリとしても本意では無い。竜の一群に攻撃の意志が無いことを理解すれば、冷静さを取り戻してくれる人も居るだろう。


「本日の訪問については、使者の方に持ち帰って頂いた親書により、既に伝わっていることと思います。我々は今から、タルクワープの北門の外に着陸させて頂こうと思いますので、そちらに案内して下さる方を派遣頂けますと嬉しいです。

 また本日は私と臣下だけでなく、日頃から懇意にしておりますニムン聖国のアルトリウス聖王とも一緒に参りましたので、どうぞ宜しくお願い致します」


 念話でそう告げてから、ユリ達の一団は更に高度を落とし、首都タルクワープの北門から200メートルほど離れた位置に着陸する。

 あとは先方が案内を遣わしてくれるまで、ゆっくり待っていれば良いだろう。



 

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