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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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286/370

284. 囲い込みと量産の確立(後)

頂戴しております誤字指摘の反映が遅れております。申し訳ないです。

 



「実は『変若水(おちみず)』は、作るだけならそう難しいものではないのよ」

「……そうなのですか?」

「ええ。〈巫女〉系統の職業を取得した人がレベル70ぐらいあれば作れるから、百合帝国や同盟国の中にも、既に作れる人がそれなりに居るでしょうね」


 なぜ、そんなに生産の難易度が低いのかというと。これは『変若水』が『アトロス・オンライン』のゲーム内に於いて、単に『老化』という状態異常を回復させるアイテム、という価値しか持っていなかったからだ。




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 □変若水(おちみず)/品質[120]


   【神水】

   服用者の年齢を1歳だけ若返らせる。

   または『老化』の状態異常を取り除く。


  * 年始すぐに汲んだ若水に宿る、神威を最大限に増幅させたもの。

  * 『百合帝国』の〈神霊依姫〉ハツネによって作成された。


----




 変若水は、説明の2行目にある『老化』の状態異常の治療効果がメインであり、1行目の年齢を若返らせる効果は、ちょっとしたおまけ要素のようなものだ。

 『老化』はゲーム内でなかなか厄介なものとして知られていた。この状態異常に陥ると、筋力・強靱・敏捷といった身体能力値が一気に半減してしまうため、特に近接職は速やかに治療しないと大変なことになるからだ。

 なので即座に『老化』を回復できる変若水には、一定の価値が認められた。


 一方で―――『アトロス・オンライン』のゲーム内に於ける『年齢』は、特に意味のないフレーバー的な要素の扱いだった。

 別に年齢が高くても低くても、能力値や外見に影響が出ないからだ。『老化』の状態異常とは異なり、例えばキャラクターの年齢を1000歳近い高齢に設定したとしても、その年齢によって身体能力値が低下するようなことは一切無い。


 そんなフレーバー的要素しかない『年齢』を減少させる薬などに、特別な価値が認められよう筈も無かった。

 『若返りの薬』と言うと一見凄そうに見えるけれど―――。所詮は限られた状態異常を回復するアイテムとしてしか価値が無いものなので、レベル70程度の者に簡単に作れてしまう難易度しか設定されていないわけだ。


「レベル70……。確かにその程度であれば、さほど高い生産難易度というわけではありませんね。私にも遠からず、手が届きそうな範囲でもありますし……」


 得心したように、ユベルがそう言葉を零した。

 事実、ユベルのレベルは既に『62』にまで達している。


 クローネの話では『レベル70に達している探索者は全体の1%も居ない』とのことだったけれど。言い換えれば、それは『1%弱ぐらいは存在する』という意味にも取れる。

 探索者に登録している人は国内のみに限らず、同盟国にも沢山居るわけなので、その1%弱となればかなりの人数だ。特定の職業を取得している者に限定しても、数人から十数人程度は存在が見込めるだろう。


「ちなみに『変若水(おちみず)』を作る材料は、若水(わかみず)・御神酒(おみき)・白蛇石(はくじゃせき)・和紙の4つね。

 若水というのは、年始の早朝に汲んだ河川や井戸の水のことなので、これは誰でも簡単に入手できるわ。御神酒は〈巫女〉が作るお酒のことで、これも入手は難しくない。和紙に至っては『蓬莱』の雑貨店でなら普通に購入できるわ」

「とすると、入手が難しいのは『白蛇石』という素材ですか?」

「ええ」


 ユベルの問いかけた言葉に、ユリは頷く。


 白蛇石(はくじゃせき)は字面の通り『白蛇』系の魔物が落とす素材だ。

 この素材はユリシスの『迷宮地』に配置している、レベル63の『白使大蛇』という魔物がドロップするのだけれど。この素材は『探索者ギルド』側で全回収するように指示しているため、絶対に探索者の手には渡らない。

 また『白蛇』系の魔物というのは、この世界ではまだ全く確認していないので、『迷宮地』以外から調達することも難しいように思う。

 だからこの世界に於いて現在、変若水を作る為の素材を普通に揃えられるのは、おそらく百合帝国の主であるユリだけだろう。


「ユベルにお願いしたいのは、『探索者ギルド』の主であるソフィアと連携して、レベル70以上に達している〈巫女〉の職業の取得者を調べて接触を図り、国営の商会に勧誘すること。

 白蛇石は国庫に大量備蓄されているから、そこから必要数を持ち出し、また他の素材についても国庫のお金を使って調達して、勧誘した〈巫女〉に変若水を生産させることね」

「なるほど……。生産された変若水は、国庫に収蔵しておけばよろしいですか?」

「ええ、そうして頂戴。それと、もちろん雇用した〈巫女〉には、生産数に応じた充分な額を支払っておいて頂戴。相場よりかなり高額の報酬にして構わないから。

 無論、これは言うまでもなく『口止め料』を兼ねているわ。……まあ、別にどこからか漏れたとしても、素材を自国で独占的に管理している以上、特に問題は無いのだけれど。一応ね?」

「承知致しました。その程度の仕事でしたら、私にも務まるでしょう」

「ありがとう、ユベル。工房の建物の建設については『桔梗』に、完成後の工房の防諜に関しては『撫子』の子達とも相談の上で、実行して頂戴」

「はい、お姉さま。精一杯頑張らせて頂きます」


 若返りの薬である『変若水』は、有事の際に他国と取引できる武器になり得る。

 必要な時に備え、量産体制を確立しておくのは、必要なことだろう。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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