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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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283/370

281. クローネの提案(前)

 


     [2]



 世界に『小変革』が適用された、翌々日の『夏月26日』。

 この日、例によって朝から執務室に籠っていたユリの元を、生産部隊『竜胆(りんどう)』の隊長を務めるクローネが訪ねてきた。


「ユリ様。人魚の長が身に付けていた装身具の、複製に成功しました」

「……もう?」

「はい。なかなか複雑で、しかも未知の魔術が籠められたネックレスでしたので、解析に苦労しましたが。魔導構造の解析まで完了すれば、複製自体は容易でした」


 ユリが人魚の集落で長を務めるアトラに頼み、彼女から『身に付けることで人魚の下半身を人族と同様のものに変化させる』効果のネックレスを借り受けてから、まだ2週間も経っていない気がするのだけれど―――。

 この僅かな期間に解析・研究を終えたのみならず、あまつさえ複製を作ることにさえ成功しているというクローネの報告には、ただ感嘆するばかりだ。


「流石ね、クローネ。あなたに任せて正解でした」

「お褒めに与り光栄です、ユリ様。複製品については、お借りした原品よりも更に効率化した魔導構造に改良してありますので、製作は容易で時間も掛かりません。また必要素材も『迷宮地』から産出する物だけで賄えますので、問題無く量産化を行うことができますが、いかが致しましょう?」

「……ほ、本当に、流石としか言いようがないわね……」


 複製を1つ作れているだけでも、充分凄いのに。魔導具を効率化した挙句、既に量産についてまで考慮しているとは―――正に『流石』の一言に尽きる所業だ。

 生産部隊『竜胆』の隊長を任せられる腕前は、伊達ではない。


「量産した場合、全ての人魚に行き渡るだけの数を用意するのに、どれぐらい掛かる見込みなのかしら?」

「すみません、ユリ様。人魚の総数を存じませんので、何とも……」

「ああ、ごめんなさい。現在支配下に置いている人魚の集落4つには、全部合わせて約1300名の人魚が住んでいるそうよ」


 最初に支配下に置いた、アトラが長を務める集落が最も多くて600人。

 後から追加で支配した3つの集落が、それぞれ300人、200人、200人前後の住人数だと報告を受けている。


「では、少し多めの1400個を作れば足りると仮定しまして。

 そうですね……私ひとりで製作する場合で5日、【従者召喚】スキルも使うなら1日半もあれば、不足無くご用意することが出来ると思われますが」

「かなり早いペースのようだけれど、無理はしなくて良いのよ?」

「それについてはご安心下さい。私は職人ですので、無理は決して致しません。疲労を理由に精彩を欠いた品を作るのは、愚かな職人のやることですから。

 充分な休憩を取りながら、1日に合計5時間を製作に費やす条件にて試算した場合で、1日半あれば問題無くご用意できると考えております」

「それなら安心して任せられるわね。では是非、従者と共に製作に当たって頂戴」

「はい、承知致しました」


 『職業』を得ることが出来るようになったことで、人魚の中に『迷宮地(ダンジョン)』を利用する人が随分増えているわけだけれど。

 『迷宮地』は階層を跨ぐ移動時には必ず階段を上り下りしなければならないし、特にユリシスの『迷宮地』などは、まず入口の部分からしてかなり長い階段を下りる必要がある。

 ―――どうしても構造的に、2本の足を持たない人魚には優しくないのだ。


 ユリはこの問題を、『桔梗』にお願いして『迷宮地』を改装し、新たに昇降機(エレベーター)を追加設置することで対処しようかと思っていたのだけれど。

 クローネが『人魚に足を齎す』ネックレスの量産を行ってくれるなら、その必要が無くなるので有難い。


「ところで―――ユリ様。これは『桔梗』の者を経由して聞いた話なのですが」


 生産部隊である『竜胆』は、特に建築部隊である『桔梗』と特に仲が良い。

 桔梗もまた建築物の『生産』が生業だと言えなくも無いので、共に通い合う部分が多くあるからだろう。

 情報交換も密に行っているようなので、その際に聞いた話だろうか。


「何でも建設中の海洋都市に、新しい『迷宮地』もお作りになる予定があるとか。しかもそれは人魚達の優位性を活かせる、海地形に縁あるものにしようとお考えなのだと聞きましたが」

「耳が早いわね。確かに、メテオラとはそういう話をしたわ」

「というか、メテオラ本人から聞いたのですけれどね」

「ああ、道理で……」


 共に部隊を纏める立場ということもあり、『竜胆』隊長のクローネと『桔梗』隊長のメテオラは、とりわけ親密な関係を築いている。

 クローネに対しては完全に心を許しているため、メテオラは何でも話してしまう所があるので、耳が早いのも当然のことだ。


「ユリ様。新しい『迷宮地』について、ひとつ提案が」

「あら、クローネの提案となれば興味があるわね。是非聞かせて頂戴?」

「はい。いっそ完全に水没した『迷宮地』にする、というのはいかがでしょう?」

「………………はい?」


 クローネの提案する意味が理解できず、思わずユリは目を見開いてしまう。

 そんな『迷宮地』では―――人魚以外に、誰も入れなくなると思うのだけれど。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] そうだね二本足にするアクセが解析できたなら……
[一言] RPG名物・水中ステージですね。わかります。 まさかの水着着用だったら上がりますねー。本当の意味でビキニアーマーとか開発されたりして。
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