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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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277. 共生海洋都市

 


     [5]



 その日の夜の放送で、ユリは自国と同盟国の民に向けて、大陸西岸の沖合にある人魚の海中集落をひとつ、自国の支配地域に加えたことを発表した。

 同時に『人魚』を国民に新たに加えたことを周知し、また彼らを人族と全く対等な相手として扱うよう、全ての民に要請する。

 これが出来ない者は国から追放する―――という厳格な姿勢を当初より明確に示し、また同盟国にもこれに準ずる姿勢を求めるものとした。


 この発表には反発……という程ではないにしても、あからさまに不快の意を示す人達というのもそれなりに居たようだ。

 ユリは放送の中で、人魚が『魔物』であるという事実を、民に明言している。

 魔物が自国や同盟国の民に加わるのを、良く思わない人が一定数存在したのだ。


 ユリからすると、この民の反応は少し意外なものだった。

 そもそも百合帝国では、既に幾つもの竜の部族を国内に擁しており、彼らを人族と全く対等に扱っているのだ。

 竜もまた当然『魔物』であるのだから、既に百合帝国は魔物との共生を開始している国家だと言って差し支えない筈だ。にも拘わらず、何故この国に住まう魔物の種族が1つ増えた程度で、良く思わない者が出るのか理解できなかった。


「―――竜は『特別な存在』ですから、魔物と言えども味方になってくれるなら、好ましいという気持ちの方が先に立つ民が多かったのでしょう」


 ユリが得心できずにいると、側室のソフィアがそう教えてくれた。

 そういうものなのか、とユリは思う。どうにも納得できないものはあるけれど、ソフィアがそう言うのなら、それが事実なのだろう。


 僅かな暗雲が漂うかに見えたが―――果たして、自国と同盟国の民からの人魚に対する心証は、予期せぬ形で劇的な改善をみることになった。

 ユリからの指示を受け、即座にシーサーペントの駆逐を実行した海竜達の努力に応えるように。人魚達が百合帝国に納品してくれた大量の海産物が、自国と同盟国の民に大変な好評を博したからだ。

 人魚達が収集した海産物は採られたその日の内に、ソフィアが経営する国営商会によって『転移門』を利用して迅速に各都市へ運ばれ、新鮮なまま安価で販売されて。そのことが、すっかり『食』の魅力に取り付かれている自国と同盟国の民に、大変な歓喜を引き起こしたわけだ。


 『蓬莱』の淡水湖や塩水湖で採れる海産物は、それなりに広いとはいえ『湖』という限定的な場所で採れる分だけしか確保できないので、他都市へ流通できる量は限定的なところがあった。

 一方で、人魚達は海産物の採集に関して人間の比ではない卓越した能力を有しており。しかも海竜達によってシーサーペントの脅威が排されたことで、効率的な大量収集が可能となっていた。


 供給量が増えれば、当然取引価格は下がることになる。自国と同盟国のどの都市でも、海産物が安価に手に入るのを喜ばない者など居ない。

 これにより、民草が『人魚』に対して向ける目は、手のひらを返したかのように好意的なものばかりになった。―――所詮、人の反応というものは、自分に利があるか否かで簡単に変わるということだろう。


 人魚達が齎した恵みにより、彼らの価値は多くの民が認めるものとなった。

 もはや人魚達を『魔物』だからといって、蔑視する民など存在しない。

 彼らは―――百合帝国の民の一部だ。




「―――メテオラ。『桔梗』の皆に、現在建設中の海洋都市について、追加で幾つかお願いしたいことがあるわ」


 人魚達の集落が、百合帝国に組み込まれて数日が経過した『夏月16日』。

 この日、ユリに呼び出されたことで『桔梗』隊長のメテオラが、ユリタニア宮殿の執務室に姿をみせていた。


「はい、姐様(あねさま)! どのようなご要望でも、遠慮無く『桔梗』にご命令下さい!」


 ユリの言葉を受け、嬉しそうにメテオラが顔を綻ばせる。

 彼女から向けられている心からの愛情と忠誠が、ユリにはとても嬉しい。


「先の『放送』でも周知したけれど―――今後、百合帝国は人魚と共生できる都市を目指すことにするわ。というか人魚だけに限らず、知性ある魔物であれば国家に受け容れていく方針で行こうと思っているの」

「それを姐様(あねさま)がお望みでしたら、もちろん異存はありません!」

「そこで、メテオラにお願いがあるの。現在建造中の海洋都市を、人族だけでなく人魚や海竜にとっても住み良い都市にして欲しいのよ」

「……人魚や海竜にとっても、ですか?」

「ええ」


 鸚鵡返しに問い返したメテオラに、ユリは頷く。


「知っての通り、人魚の下半身は基本的に魚で―――つまり、両脚が無いのよね。だから人魚の身体だと、あまり段差が多いと階段を上がるのも一苦労だという話を最近小耳に挟んだのよね」

「なるほど……。人族とは身体の構造が違うから『共に住み良い』都市にするためには、建物や街路などに相応の工夫が必要になるわけですね」

「メテオラは賢いから、話が早くて助かるわ」


 そう告げて優しく頭を撫ぜると、メテオラが嬉しそうに目を細めた。


「具体的に、都市にどういう工夫が必要なのかは、人魚や海竜から直接話を聞いて考えてみて欲しいのよ。なかなか大変だと思うけれど……頼めるかしら?」

「もちろんです、全て『桔梗』にお任せ下さい!」

「ありがとう、頼もしいわ。それと―――海洋都市には『迷宮地(ダンジョン)』も設置しようと考えているから、そのつもりで居て頂戴」

「海洋都市にも『迷宮地』をですか? それは、賑やかになりそうですね!」


 『迷宮地』がある都市へは、自国や同盟国の都市から『転移門』を利用することで、自由に移動することができる。

 各地から人が集まることになるため、特に日中は都市人口の数倍にも及ぶ人出で街路が溢れることが多い。メテオラが言う通り『大変に賑わう』都市になるのは、充分に想定されることだ。


「もしかして、海という地形を活かした『迷宮地』にするのでしょうか?」

「それはまだ判らないけれど……。でも折角だから、人魚の探索者が活躍しやすいような場所には、するかもしれないわね」

「なるほど……。色々と想像が膨らみます!」

「ええ、沢山の想像を膨らませておいて頂戴。もちろん『迷宮地』の建造に関しても、あなた達『桔梗』を頼ることになるでしょうからね」

「はい、是非とも我々にお任せ下さい!」


 海洋都市の建造には充分な時間を費やしたい、というメテオラの要望もあって、都市完成の予定日は『とりあえず年末までに』ということになった。

 現在が『夏月16日』であることを思うと、まだ100日以上あるわけだから。『桔梗』にしては(本当に沢山の時間を掛けたいのだな)という感じだけれど。

 ―――言うまでもなく、他国が都市を建造するために費やす期間に較べたならば、異常な程に短い工期であることは間違いなかった。


「人魚や海竜向けに、一部は海に沈んだ区域(エリア)を造るというのも良さそうですね!」

「あら、それはなかなか面白そうね」


 早速、メテオラは色々と想像の翼を広げているようだ。

 彼女と『桔梗』の子達に全て任せておけば。建造中の海洋都市が、人族と人魚の共生が実現した立派な都市になることは、間違いないだろう。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い
[一言] ゲーマー視点だと水中ステージにはいい思い出はないがはたしてどうなるか
[一言] 人魚との共生が加わることによりバリアフリー化が進む新都市。
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