273. 威力交渉人(竜)
【追記】10/1[21:55]
前日分の投稿が出来ていない事実を教えて頂きまして、慌てて追加投稿しました。
真に申し訳ありません。前話『272. 人魚の魔物(後)』をまだお読みで無い場合には、先にそちらからお読み下さい。
(誤字報告機能にて指摘下さいました方、ありがとうございました)
[2]
その日の午後、ユリはとある人物をユリタニア宮殿へと呼び出した。
来訪したその人物と応接室にて相対し、まずユリは謝罪の言葉を告げる。
「ごめんなさいね、タザール。呼びつけるような真似をしてしまって」
「いえ、とんでもありません。元より我等はラドラグルフ殿に―――引いてはその主であるユリ陛下に、従属している身です。如何様にもお使い下さい」
応接室のソファの対面側に座る、背の高い男性はタザールという海竜の長だ。
以前、各地を行脚したラドラグルフによって実力を知らしめられた竜達が、百合帝国の首都ユリタニアへ続々と集結してくる、という事件があったが。タザールが率いる海竜の部族もまた、その折に百合帝国へとやってきた経緯がある。
海竜の部族は現在、海神のスサノオに管理されることで『海』と全く同じ性質を有している、蓬莱の塩水湖を拠点として暮らしている。
「ありがとう、タザール。海竜部族の忠義心は、心より嬉しく思っているわ。
海竜の一族はもう『人化』の修得は出来たのかしら?」
「はい、部族全員が既に修得できております。ユリ陛下が『転移門』の利用許可を出して下さっておりますお陰で、百合帝国内を自由に移動することができ、誰もが人の身ならではの良き生活を日々満喫しています」
「それは何よりね。私の国での暮らしに、何か問題など生じていないかしら?」
「特に御座いません。『迷宮地』を利用させて頂いているお陰で、お金も不足なく手に入れることが出来ており、不便無く過ごさせて頂いております。特に食に関しては、百合帝国は大変に豊かですから……この国での美味い食事に慣れすぎた今となっては、もう島暮らしをしていた過去には戻れない気分です」
竜は『人化』によって人の姿となっても、やはり元々の戦闘能力や魔術・魔法の能力が優れているだけのことはあり、かなりの強さを持つ。
そのため、百合帝国にて『迷宮地』へ挑む探索者達を視聴する人達にとっては。タザール達に限らず、各部族の竜の活躍を応援する者も多い。
竜達もまた、多くの人々から自身達の強さが認められ、応援されている立場を悪くは思っていないようで。特にユリシスの都市内では、竜と人とが互いに気を置かず触れ合い、酒を飲み交わし合う姿が日常的に見られていた。
「ふふ、海竜の方々に褒めて頂けるのは、とても光栄ね。
ありがとう、タザール。国主として大変嬉しく思います。今後も愛想が尽きない限りは、いつまででも当国にて暮らして下さると嬉しいわ」
「願ってもないことです。こちらこそ竜であります我等を、人と全く同然の扱いで受け容れて下さっておりますこと、心より感謝しております。
ところで―――今回、ユリ陛下からお呼び出しを頂戴しましたのは、きっと我々でも何かお役に立てることが出来たのかと、期待しておりますが」
カップを持ち上げ、紅茶を味わいながらそう口にするタザール。
これから面倒事を持ちかけられると判っていながら、なお率先してそれに応えようという姿勢を示してくれている彼の言葉には、率直な好感を覚える。
「あなたは優しい竜ね、タザール。その気遣いに感謝を申し上げるわ。
実は―――我々はこのメキア大陸西端部の海沿いにて、現在1つの都市を建造中なのだけれど。困ったことに、ちょっとしたトラブルが生じてしまってね」
「トラブル、ですか」
「ええ。海が関わる案件なので、海竜の助力を得られないかと思っているわ」
それからユリは、午前中に『桔梗』隊長のメテオラから聴取した一連の経緯を、海竜部族の長であるタザールにも順序立てて説明していく。
タザール達の部族が暮らしていた島は、メキア大陸の北東にあると聞いている。だから大陸の西側にある海に関しては、彼らも大して知識は無いだろうけれど。
それでも―――『海竜』は、海の絶対的な支配者だ。
こと海に関する問題に限れば、彼らを頼って解決しないものなど殆ど無い。
「なるほど……事情は概ね把握致しました。そのユリ陛下のお心を煩わせている、人魚を殲滅せよということでしたら、我々で苦もなく行えるでしょうが……。
おそらくユリ陛下は、そのような安直な解決をお望みではありませんね?」
「ええ、その通りよ。話が早くて助かるわ」
タザールの言葉に、ユリはこくりと頷く。
ただ敵を殲滅するだけで良いなら、別に海竜の手を借りる程の案件では無い。
海中活動を可能にする魔術は『紅薔薇』が、魔法なら『黄薔薇』や『青薔薇』が行使できるため、『百合帝国』の戦闘部隊を海に派遣して、人魚を根絶やしにするのは造作もないことだ。
―――とはいえこの世界では、魔物を根絶やしにしても意味が無い。
1体残らず殺戮しても、翌月にはまた全ての魔物が復活してしまうからだ。
どんなに相手が鬱陶しい存在でも、魔物は根絶すること自体が不可能に近い。
「幸い敵の人魚達には、一定の知性があることが判っているわ。
だから―――海竜の皆様には、独自に人魚達と交渉を行って頂きたいの」
「交渉、ですか。ユリ陛下が彼らと交渉せよと仰るのであれば、無論我々に異存はありませんが。……その交渉は、どのような着地点を求めるものでしょうか?」
「人魚達が我々の都市建造を妨害せず、また都市完成後も住人が行う漁などを妨害しないようであれば、落としどころは何でも構わないわ」
「なるほど。つまり百合帝国としては、人魚達と友誼を結ぶのでも、あるいは人魚達を服従させるのでも、どちらでも構わないということですね?」
「ええ、そう申し上げているわ」
実際、ユリにとっては人魚達のことなど、どうでも良いのだ。
要は彼らが百合帝国に害を為す存在でなくなるなら、何でも構わない。
但し―――彼らを殲滅するというのだけは、愚策だとユリは考えている。
月が変わる度に復活する存在を殺害するために、毎月の始めに海へ『百合帝国』の子達を送り込むのが手間というのもあるが。それ以上に、結構な生息数が確認されている人魚達を殲滅するために、月が変わる度に何度も海の中で戦闘を行えば、海洋資源に少なからず損害が出るのではないかと危惧しているからだ。
折角、海のすぐ傍に都市を造る機会に恵まれているのだから。海の恵みは傷つけることなく、十全なまま確保したい。
「承知致しました。その一件、どうぞ我々にお任せ下さい」
「ありがとう、助かるわ。建造中の都市までは『転移門』で移動できるようにしてあるから、あとはタザールの判断で、現地にて自由に活動して頂戴」
「はっ。良い報告をお届けできるよう、全力を尽くします」
餅は餅屋と言うのだから。海のことは、海の専門家に任せるべきだ。
海の王者であるタザール達に全て任せておけば、悪い結果にはならないだろう。
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お読み下さりありがとうございました。




