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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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274/370

272. 人魚の魔物(後)

おそらく予約をし忘れたせいだと思われますが、本話(273話)が9/30日中に投稿されていない事実を、翌日10/1の投稿を終えた後に頂戴した誤字指摘にて把握致しました。

遅くなりましたが272話を改めて投稿致します。大変申し訳ありません。

 



「結構な数を揃えて、海から一斉に建設中の都市を攻めてきまして」

「……人魚が?」

「はい。多分500~600体ぐらい居たと思うのですが」


 人魚のレベルは45~55という話だから、別に『桔梗』にとっては数を揃えて来ようと、問題となるような相手ではないが。

 けれど、一般的な国家からすれば、レベル50程度の魔物が何百匹も攻め寄せてくるというのは、結構な脅威となるものだろう。村落なら間違いなく防ぎきれずに陥落するだろうし、下手をすれば都市でも陥落しかねないかもしれない。


「でも、レベル50程度の魔物じゃ【障壁結界】は超えられないでしょう?」

「仰る通りです。結界に襲撃を阻まれて、人魚達は1体も建設中の都市内に入れませんでした。そうなることが判りきっていたので、私達も最初から相手にはせず、都市建造の作業を続けていましたし」

「……な、なんだかちょっと、可哀想になるわね」


 【障壁結界】は透明なので、目視では存在を確認することができない。

 魔法や魔術を中級程度まで使いこなすことができるなら、魔力の存在を知覚することも可能となるため、結界の存在をある程度知覚することもできるのだけれど。流石にレベル50程度の魔物では、それも難しいだろう。


「最初の数日は偵察を行い、その後にタイミングを揃えて襲撃を行う。

 ―――これだけでも、人魚にそれなりの知性があることが判るわね」

「はい。魔物ではありますがゴブリンやオークなどとは異なり、人間と見れば即座に襲い掛かってくるだけの無思慮なけだもの、というわけでは無さそうです」

「ふむ。だったら殲滅するより―――いえ、今の時点で考えを決めるのは早計ね。まずはメテオラの報告を一通り聞かせて頂戴。まだ続きがあるのでしょう?」


 ユリがそう問いかけると、メテオラはこくんと頷いた。


「襲撃を行ってきたその日は、1時間ほど結界を破壊しようと頑張っていたようですが、最終的には諦めて人魚達は海へ帰っていきました。

 次に人魚達が姿を見せたのは、3日後の『春月36日』。今度は前回よりも少し数を増やして、700~800体ぐらいの人魚が都市を襲撃してきました」

「数を増やせば落とせると考えたのかしら……?」

「それは判りかねますが。とりあえず、2回目の襲撃は前回とはちょっと違って、人魚達は主に遠距離攻撃で結界を破壊しようと試みてきました」

「遠距離攻撃? 弓とか魔法ってこと?」

「いえ、主に投石でした」

「投石……」


 『紅梅』が展開する【障壁結界】は、『祖竜(エルダー・ドラゴン)』の攻撃にも数発は耐えられる程度の堅牢さを持つ。

 当然ながら、どんなに兵の数を揃えようとも、投石程度で破壊できるほどヤワなものではない。


「20分ほど頑張っていましたが、やがて石が尽きると彼らは帰っていきました」

「なんだか本当に、相手が可哀想になってきたんだけど……」

「次に人魚達がやってきたのは、月を跨いだ『夏月1日』。今度は一気に数を増やして、総勢1500体ぐらいの人魚が一斉に建設中の都市へ襲撃してきました」

「まあ。1500体ともなれば、ちょっとした軍隊並みね」

「実際に弱小国の首都ぐらいなら落とせる戦力ではないでしょうか」

「そうかも……」


 ユリは、嘗て『弱小国』と言っても差し支えなかった、レイピア王国の軍隊や、首都が備えていた防壁について思い返す。

 レベル50の魔物が1500体も居れば―――確かに、あの程度の軍隊や防備であれば、陥落させられるような気がした。


「でも、残念ながら【障壁結界】には通じないでしょうね……」

「お察しの通りです。人魚達は数に任せて、建設中の都市を取り囲むように布陣しながら包囲攻撃を行ってきましたが。結界には傷ひとつ付きませんでした」

「レベル50程度の攻撃ではねえ……」

「すると人魚達は結界の破壊は諦めながらも、建設中の都市の包囲だけは継続する作戦に切り替えてきました」

「―――あら、まあ」


 人魚達の作戦に、ユリは素直に感心を覚える。

 こちらの食料や物資の枯渇を狙ってくるというのは、それなりの知性がなければ思いつかない作戦だろう。


「おそらくは補給のために、結界の中から出てくる者がいれば、それを襲撃しようという心算なのでしょうけれど。……今回ばかりは、相手が悪かったわね」

「はい。建設中の都市内には、姐様(あねさま)に設置して頂いた『転移門』がありますので、結界から出ることなくユリタニアへ移動することができますから。食料や物資は、毎日でも補給できてしまいます。

 どちらかといえば、食料の補給には人魚達のほうが苦労しているようでしたね。兵の一部を海へ戻して漁を行い、獲れた魚を陸まで毎日輸送していましたから」


 多分、人魚達なりには頑張っているつもりなのだろう。それは判る。

 けれど―――何の成果にも繋がっておらず、ユリ達の側に些細な痛痒さえ与えられていないという事実が、何だか本当に不憫に思えてならなかった。


「それ以降、人魚達は今日までずっと建設中の都市の包囲を続けているのですが。どうやら、我々が包囲されていても何ら影響を受けていないことを何となく察したようで、昨日になってまた作戦を変えてきまして」

「ふむふむ。今度は一体何をしてきたのかしら?」

「包囲しながら結界内部にいる我々に向けて、罵詈雑言を浴びせかけてきました」

「……なんだか、やっていることが子供の喧嘩みたいに思えてきたわね……」


 1500体も数を揃えた人魚達が、手も足も出ないものだから言葉で挑発してくる光景というのは、想像してみるとちょっと面白い気もするが。

 とはいえ―――都市建造の作業をしている『桔梗』からすれば、それなりに迷惑な行為であるという点で、ある意味これまでの作戦でもっとも効果を発揮しているものだとも言えるだろうか。


「……うん? そういえば、『桔梗』には人魚達の言葉が判るのかしら? 彼らが浴びせかけてくる言葉が、よく『罵詈雑言』だと判ったわね?」

「姐様(あねさま)。お忘れかもしれませんが、我々はこの異世界に来た時点で〔翻訳〕の恩寵を授かっておりますので」

「ああ―――そうだったわね。ごめんなさい、すっかり失念していたわ」


 ユリや『百合帝国』の皆は、この異世界に転移してきた時点で、リュディナから〔翻訳〕という恩寵を授かっていることが既に判っている。

 これは、誰とでも『言葉が通じる』ようになれる恩寵だ。

 相手が何の言語で話していようとその内容を理解することができるし、また同様に自身が何の言語で話そうとも、その内容を相手に理解させることができる。


 だからユリ達には、人魚がどのような言語を用いていようとも、彼らが話す言葉を理解することが出来てしまうわけだ。

 ―――今回の場合は、理解出来るからこそ、相手が浴びせる言葉が『罵詈雑言』だと判るわけだから。恩寵があまり良い意味で作用していないとも言えるだろう。


「別に、この挑発行為を防ぐこと自体は容易なのですが……」

「それは判るわ。【遮音結界】を張れば良いだけだものね」

「はい。ご明察の通りです」


 【遮音結界】は内側と外側との間で、音が伝わるのを阻害する結界だ。

 この結界を既存の【障壁結界】と重ねて展開すれば、人魚達が結界の外からどれだけ騒ぎ立てようとも、結界の内部にその声が伝わってくることは無くなる。


 結界の中では最下級のものなので、【遮音結界】は設置コストが非常に安い。

 気軽に設置できるため、本件に対処するだけなら容易なわけだけれど―――。


「もっと抜本的な対策を講じなければ、今後も手を替え品を替え、様々な遣り方で妨害工作を試みてくるでしょうね」

「はい。間違いないと思います」

「―――判ったわ。本件は私の方で対処することにしましょう」


 この世界では、魔物は殺しても、季節が変わると復活してしまう。

 だから彼らを『殲滅する』という対処法は、あまり好ましいものではない。来月になれば復活して、また同様の厄介事を引き起こすことは目に見えているからだ。


 幸いと言うべきか―――彼らとは、意志の疎通が可能だと判っている。

 だから出来れば、人魚達には自らの意志で、引いて貰うことが好ましいだろう。



 

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