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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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267. 第六側室(3)

 



「えっと、いかがでしょう?」

「うーん―――ちょっと型に嵌り過ぎている気がするかしら」


 射撃場に設置された近距離と中距離の的に、それぞれ10射ずつを撃ち終わった後に。イロリナが問いかけてきた言葉に、メルファルーデはそう答えた。


「あなたの弓って多分、騎士か兵士の人に指導されたものよね?」

「あ、はい。お判りになりますか」

「そりゃ、判るわよ。射撃の姿勢が、あまりに良すぎる(・・・・)もの」


 地面に対して垂直に構えた弓を、大きく引絞るイロリナの射形(フォーム)は、矢を最大威力で、かつ狙い通りの軌跡を描いて飛ばすことに特化されたものだ。

 ―――無論、これはこれで悪いものではない。

 実際にイロリナが放った合計で20本の矢は、その殆どが的の中心に近い位置を捉えており、また威力も充分であることが、傍で見ていたメルファルーデにはよく理解出来ていた。


 姿勢が完璧に制御されていればこそ、小柄なイロリナの体躯でも威力と命中精度が充分な射撃が行えているわけだ。

 だから、決して悪いことではないのだけれど。


 とはいえ―――射撃がいちいち『丁寧すぎる』という印象は拭えない。

 イロリナがやっているのは、軍隊が行う『矢衾(やぶすま)』の形成に適した撃ち方だ。

 隙間無く射手を並べて隙間無く矢を飛ばし、前方から迫る敵を一網打尽にする。集団が敵集団を効率良く殲滅するために、最も適した射ち方なのは間違いないが。

 けれども、それは多分―――残念ながら『迷宮地』の中で戦う、探索者に向いた撃ち方では無いような気がした。


「今の撃ち方は、もちろんそれはそれで良いと思うけれど。もっと適当な姿勢でも弓を引けるように、練習してみてはどうかしら?」

「適当な姿勢……ですか?」


 言葉の意味が判らない、といった様子で首を傾げてみせるイロリナ。


「多分イロリナって、最初に弓の使い方の指導を受けた時には、短弓ではなく長弓を使っていたんじゃない?」

「……仰る通りです。それも判ってしまうんですね」

「イロリナが矢を撃つ姿勢はとても完成されているわ。その姿勢を維持しながら、5秒に1度のペースで矢を撃てるのは、充分に誇って良い技倆だと思う。

 でもね、本来は『短弓』って、もっと速く連射できるものなのよ。……ちょっと貸して貰っても良いかしら?」

「あ、はい。もちろんです、どうぞ」


 イロリナから差し出された短弓を、メルファルーデは受け取る。

 最初に弦の張りの固さだけ、予め感触を確かめてから。

 メルファルーデは先程イロリナがやったのと同じように、近距離と中距離の的へ向けて、それぞれ10射ずつ矢を放った。


「速い……!」


 矢継ぎ早に射るメルファルーデの姿を見て、イロリナが感嘆の声を上げた。

 メルファルーデが矢を射る速度は、大体2秒に1本のペース。

 これは、1本の矢を撃つのに5~6秒掛けているイロリナと較べると、2倍から3倍の連射速度ということになる。


 その分、射撃毎の威力は控えめになっているのだけれど。それでも手数がそれだけ多くなれば、当然火力というものは上がる。

 また絶え間なく攻撃を撃ち込み続けられるのは、相手側からするとかなり嫌なことだろう。少なくとも相手は魔術や魔法の詠唱のような、集中力を必要とする行動を封じ込まれてしまう筈だ。


「イロリナはちょっと弦を引き過ぎだと思うわ。もちろん弓を大きく引絞る方が、放たれる矢の威力は高くなるのだけれど。そのせいで、射撃に要する時間が増えているのであれば、改善した方が良いわね」

「な、なるほど……」

「弓の利点は、張力を利用して効率良く威力を稼げることにある。でもイロリナの遣り方は、ちょっと弦を引きすぎていて効率が悪くなっているわね。

 長弓であればともかく、短弓の弦を胸まで引いて撃つものでは無いわ。弓の張力をもう少し強めに調整しても良いから、弦は自分の肩までしか引かず撃つように、癖を付け治した方がもっと便利に扱うことができると思う」


 短弓は扱いが難しい武器ではない。長弓を扱う技術が出来ているなら、1時間も触っていれば、同じ感覚で扱うことが出来るようになるだろう。

 とはいえ、やはり短弓ならではの利点を―――つまり連射性を生かすためには、少し弓の扱い方を矯正する必要がある。


「ふむふむ……。引き幅を抑える方が、連射しやすいということですよね」

「もちろん、それもあるけれど。弦を肩までしか引かずに矢を撃つ最大の利点は、弓の向きを問わずに矢を射られることにあるわ」

「弓の向き、ですか?」

「イロリナ。あなたは弓を横に寝かせた状態で、矢を射ったことがあるかしら?」


 メルファルーデがそう問いかけると。

 イロリナは少しの間きょとんとしてみせたあと、やがて首を左右に振る。


「……いえ、ありません。弓は身体と並行に構えるものだと習いましたので」

「じゃあ、ちょっと弓を横向きにして撃ってみて頂戴?」

「わ、わかりました」


 言われた通りに、イロリナは弓を横向きに構えてから。弓の胴体上に矢を乗せるようにしながら、弦をゆっくりと引き絞る。

 そうして―――すぐに、イロリナは気付いたようだ。


「なるほど……。弓って横向きに構えると、肩までしか弦が引けないのですね」

「ええ。まあ、頑張れば首元までは引けなくもないけれど……。それ以上は絶対に無理になるわ。弦が自分の身体のどこかに当たっちゃうから」

「なるほど。弓って縦に構えないと、引き幅が減っちゃうんですね」


 弓を横に寝かせる撃ち方なんて、騎士や兵士の人達は教えたりしないだろう。

 新たな気づきを得たことに、イロリナは頻りにうんうんと頷いてみせた。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 6人目は先生として弓の指導から。
[良い点] 更新乙い
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