225. お代わり
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ユリタニアへ押し寄せてきた竜の大群については、ひとまず神域都市『蓬莱』の都市から1kmほど離れた場所に水神の協力を得て淡水湖を作り、その近くに滞在して貰うことにした。
綺麗な水場と食料さえあれば竜は生活に困らないらしいので、当面はこれで問題無いだろう。食料はユリシスやユリーカの『迷宮地』から常時得られる魔物の肉が大量に余っているので、『撫子』を毎日派遣して譲渡すれば問題無い筈だ。
竜は『人化』さえ修得できれば、普通の人族と変わらない暮らしを行うことが出来るので、教育が済み次第『蓬莱』の都市内に移り住んで貰う予定だ。
都市の中で、普通の人族とレベルが100を越える竜が一緒に暮らすというのも奇妙な話のように思えるけれど。『蓬莱』に限って言えば、既に現時点でレベルが100どころか『1000』を越える神様も多数住んでいるので、今更だろう。
また竜の群れに関しては、部族の代表者であるワルターの上位にリンドヴルムを置くことで、彼女に管理を委任することにした。
竜は己よりも強き者に対しては従順な生き物だ。リンドヴルムはラドラグルフと大して変わらない強さを誇っているし、それに彼らと同じ『氷竜』でもある。
リンドヴルムを上位者と認めるのには、さして抵抗も覚えないだろう。
これで竜の一件は片付いた―――と、そうユリが安堵していたのも束の間。
どうやら厄介事というのは、間隙を置かず押し寄せてくるものらしい。数日後には、再びユリタニアへ向かって飛来してくる140体ほどの竜の一群が確認され、またもユリは慌ててその対応を行う羽目になった。
先方の代表者と相対して話を聞いてみると、彼らはメキア大陸の北東にある島に住む『海竜』の部族であるらしい。そしてやはり同様に、彼らもまた過去にラドラグルフと戦って敗北したことがあり、ラドラグルフの主であるユリに従属すべく、わざわざユリタニアまでやってきたそうだ。
海竜なら、海のある土地から離れて、こんな内陸の国にまで来るなよ―――と、内心でそう強く思わないでは無かったけれど。とはいえ、既に氷竜の部族を受け容れてしまっている以上、今更『拒否』の方針へ転換するわけにもいかない。
海竜の部族にはとりあえず、『蓬莱』のすぐ近くにある塩水湖を拠点に暮らして貰うことにして、やはり氷竜の部族と同様に、彼らにも早急に『人化』を修得して貰うことで話を付けた。
暫くは塩水湖が海竜に占有されてしまうため、釣りなどの娯楽を楽しむことが出来なくなるけれど、これはもう仕方がないと割り切る他はない。
塩水湖の付近で、釣具店を始めとした幾つかの店舗を経営しているロスティネ商会のルベッタには、後で謝罪しておく必要がありそうだ。
海竜の案件が片付くと、2日後に今度は東から『風竜』の部族がやってきた。
数は240体ほど。来訪の経緯は以下同文なので省略する。
『蓬莱』都市外の淡水湖を拡張することで、そこに氷竜と一緒に風竜にも当面は住んで貰うことにした。
氷竜と海竜に加え、風竜の部族まで管理しなければならなくなったリンドヴルムから軽く泣きが入ったけれど、ユリはこれを黙殺した。
無用な事務処理やら摂政案件が増えて、泣きたいのはユリも同じなのだ。
4日後に、南東から『火竜』の部族が来た。
―――この時点で、ユリとリンドヴルムの我慢が限界に達した。
「ゆ、ユリよ。なぜ我は喚ばれたそばから、正座させられておるのじゃ?」
全ての元凶であるラドラグルフが今、ユリタニア宮殿の執務室で正座させられていた。
ユリタニア宮殿は建物全体が石造りで出来ているため、当然床の素材も固いものとなっている。そこで正座させられるラドラグルフは、早くも軽く涙目だった。
ユリは自身の使役獣を、いつでも【使役獣召喚】のスキルを使えば喚び出すことができる。元々ラドラグルフのことは、やろうと思えばいつでも召喚できたのだ。
ちなみにラドラグルフが人の姿になっているのは、『紅薔薇』隊長のプリムラに【他者変身】の魔法を掛けて貰ったからだ。
間違っても彼女が『人化』を自力で修得したからではない。
「それが判らない内は、待遇は改善されないものと思いなさい。
―――リンドヴルム」
「はい、ユリ殿。ご命令とあらば、使役獣の私には従うほかありません。ならば私も心を鬼にしまして、呵責を実行することに致しましょう」
「ぬおおおおお!? や、やめよ、リンドヴルム!?」
正座中の足裏を、リンドヴルムから指先でちょんちょんとつつかれて。ラドラグルフが忽ち苦悶の声を上げた。
人の姿へ変身すること自体に慣れていない彼女が、正座の姿勢に慣れていよう筈もない。苦悶に身を捩らせつつも、けれどユリに『命令』されているせいで正座の姿勢を一切崩すことが出来ず、ラドラグルフはひたすら苦悶に耐え続ける。
仕置きを続けながらラドラグルフから詳しく話を聞いてみると。―――なんでもメキア大陸の外に住んでいる竜達は、一様に縄張り意識が強いらしい。
だからラドラグルフのように巨体で遠くからでも目立つ竜が悠々と飛行していると、それだけで縄張りへの侵略行為だと見なし、大群で襲い掛かって来たそうだ。
つまり、ラドラグルフが言うには「向こうから率先して襲い掛かってきたのを、ただ撃退しただけ」であるらしい。
一方で、竜は強い者に従属する特性も持っている。
大群で襲い掛かっていながら、なお返り討ちに遭う。ラドラグルフが示した圧倒的な力に、誰もが従属を希望してくるのも無理からぬことだと言えた。
その結果が―――ご覧の有り様というわけだ。
「……ひとつ、ラドラグルフに訊きたいのだけれど」
「な、何じゃ。何でも訊いてくれ。そして我をもう許してくれ……」
「別にあなたなら、戦わず逃げることも出来たわよね? レベル100ちょっとの劣等竜に追い付かれる程、あなたの翼は遅くないでしょう?」
「………………え、ええっと……それは、じゃな………………」
「リンドヴルム」
「はい」
「―――のおおおおおおお!?」
他者から喧嘩を吹っ掛けられれば、逃げるような真似はしない。
それがラドラグルフの性分であると判っては居るけれど―――。
こんなに面倒な事態を招くぐらいなら、戦わず逃げて欲しかったと。
ユリはどうしても、国主としてそう思わずにはいられなかった。
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