188. 蒼い髪の淑女
本日の投稿量は少なく、また無推敲です。申し訳ありません。
(昨晩は地域コミュニティからの召集令状に拘束されており、殆ど書くことができませんでした)
[6]
「リンドヴルム、あなたはどうする? 一旦『絶』に帰っていても良いけれど」
ヴォルミシア帝国の首都ドリスダール、その南門の外側の草原に降りたユリは、たった今までユリを乗せてくれていたリンドヴルムにそう問いかけた。
『絶』とは〈召喚術師〉系の職業を選択した者であれば誰でも利用できる個人的な異界領域で、自身と契約した召喚獣を格納しておく為の空間だ。
契約している召喚獣の数が増えれば増えるほど広くなり、また全ての召喚獣が快適に暮らせるよう、必要に応じて変化する空間だと言われている。
それが事実なら―――大量の召喚獣と契約しているユリの『絶』の広さは、おそらくかなりの規模になっていることだろう。
竜を始めとした大型の魔物や、水棲・海棲の魔物も多数有していることを考えると、大抵の都市よりずっと広い空間があってもおかしく無さそうだ。
『いえ。ご迷惑でなければ、お供させて下さいませ』
そう告げると同時にリンドヴルムの身体が白く輝いて―――彼女のシルエットが巨大な竜の姿から縮小し、ユリと殆ど変わらない背丈の人間サイズへと変わる。
―――『人化』だ。やがて輝きが収まった後に残された、紫色のドレスに綺麗な蒼い髪がよく似合う淑女の姿は。まるで『冷艶清美』という四字熟語をそのまま顕したかのような、非凡な美しさがあった。
「私がリンドヴルムを迷惑だと思うわけ無いでしょう?」
「はい。ありがとうございます、ユリ殿」
「いつ見ても、気品のある優美な姿ね。私は人の姿を取った時のリンドヴルムが、とても大好きなのよ。もっとも―――偉大な竜として完成された威容を持つあなたとしては、人の姿の方を賞賛されても嬉しく無いかもしれないけれど」
「そんなことはありません。ユリ殿に少しでも好ましく思って頂けるのなら、私は明日から喜んで劣等竜にもなりましょう」
竜よりもずっと矮小な戦闘能力しか持たず、知性や魔法の面でも遙かに劣るワイバーンは、しばしば竜の『出来損ない』と言われることがある。
普通の人間からすればワイバーンでも充分恐ろしい存在だけれど、竜にとっては唾棄すべき対象でしか無い筈だ。
ユリの為ならワイバーンにさえ身を落としても構わないと、そう躊躇無く告げるリンドヴルムの覚悟には、大きな忠誠心と親愛が籠められている。
「そう? 竜の姿も格好良いけれど、私はやっぱり人の女性が好きだから。リンドヴルムがそちらの姿で居てくれるほうが嬉しいわね」
「では是非とも、そう私にご命令下さい」
「あら」
リンドヴルムは『命令』されるのを好む所がある。
過去に詳しく話を聞いてみたことがあるのだけれど、どうやら彼女は自分よりも強い相手に、好きなように自身を扱われることが好きらしい。
強い被虐願望を秘めている『黒百合』の子達に、近しい性癖を持っているとも言えるだろうか。もちろん色々と破綻した性格の子が多い『黒百合』に較べるなら、リンドヴルムは随分まともな性根の子ではあるけれど。
「リンドヴルム。今後は私のために、なるべく人の姿で居なさい」
「―――はい、我が君」
満面の笑みで、嬉しそうにリンドヴルムはそう応える。
ユリは敢えて『私のため』という部分を強調してそう告げた。『黒百合』の子達に接しているお陰で、命令を欲する子が本質的に求めているものが判るからだ。
普段は『ユリ殿』と呼称するリンドヴルムだけれど。彼女は時折にだけ、甘い声でユリのことを『我が君』と呼ぶことがある。
何か彼女なりの使い分けがあるのかもしれないけれど、その辺りは深く訊いたことが無い。何にしても、彼女なりの親しみが籠められた呼称であることは間違い無さそうだけれど。
リンドヴルムと2人でそんな話をしていると。帝都ドリスダールの門の側から、馬に跨った6名の騎士と、なかなか豪華な馬車が1台こちらに迫ってきた。
おそらくはユリを迎えるために寄越してくれたのだろう。
「失礼する! そちらが百合帝国の女帝ユリ殿に相違無いだろうか!」
「………!!」
相手の騎士のリーダー格らしき人物が、張り上げるような声で問いかけてきたその言葉に。リンドヴルムが即座に目つきを鋭くして睨め付ける。
下馬もせず問いかけるなど無礼にも程がある! ―――と、彼女の表情が雄弁に語っていた。この世界での外交儀礼についてそれほど詳しいわけではないけれど、確かにユリとしても、他国の君主相手の振る舞いとしては多少どうかとは思う。
とはいえ、ユリとしては気にするようなことでもない。
「ええ、そうよ。ルドウィン皇帝とは会えるのかしら?」
「お会いになるそうだ! 案内するので、馬車にご乗車頂きたい!」
「判ったわ」
充分に距離が近づいてもなお声を張り上げて問いかける男性の物言いに、リンドヴルムが猶更判りやすく表情を顰めてみせた。おそらくは一方的に本人確認を行うだけで、先方が名乗らなかった事も彼女の不快ポイントだろう。
いかにも武闘派の騎士といった容貌の男性に見えるし、彼自身に悪気は無いのだろう。多分、もともと他人に対してあまり配慮ができない男性なのだ。
そんな騎士とは対照的に、ユリの近くに馬車を停めてくれた御者の男性の方は、物腰の丁寧な人物で。深く一礼した後に、率先して馬車の扉を開いてくれた。
礼節ある対応を見て、少しだけリンドヴルムの表情も緩む。
「乗りましょう?」
「は、はい」
ユリは手を引いて、リンドヴルムを馬車の中へとエスコートする。
2人が乗り込んだ後に、御者の男性がゆっくりと馬車の戸を閉めてくれた。
「よく我慢できたわね、偉いわ」
同じ側の座席に並んで腰掛けながら、ユリはリンドヴルムの頭を優しく撫でる。
ユリの言葉を受けて、リンドヴルムは少し困ったような表情をしてみせた。
「お仕事の邪魔をするのは本意ではありませんから」
「ふふ。ラドラグルフなら、間違いなく手が出ていたでしょうね」
「それは間違いありません」
ゆっくりと動き始めた馬車の中で、ユリはリンドヴルムと小さく笑い合う。
豪華な見た目の割に、なかなかの揺れが伴う馬車だったけれど。リンドヴルムと密着して共に過ごす時間だと思えば、それほど不快でもなかった。
-
お読み下さりありがとうございました。
誤字報告機能での指摘も、いつも本当にありがとうございます。




