148. 国家は概ね恙なく
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ここ最近はレイピア王国の一件に注力していたが、内政も疎かにはしていない。
鉱山都市ユリーカと坑道『迷宮地』の運営は、現在のところ上手くいっている。一般解放した当初の賑わいに較べると、挑戦する探索者の人数こそ随分と減っているけれど。ユリシスの『迷宮地』とは上手く差別化が出来たためか、毎日安定した人数が潜っているようだ。
特に治療術の修得を目指す〔神官〕などの人達は、レベルが30に達した後は、ユリシスよりもユリーカの迷宮地を中心に潜ることが多いようだ。
ユリーカの坑道迷宮地に配置されている魔物の2割は『アンデッド系』の魔物になるため、神聖魔法を行使できる人達には戦いやすい部分があるのだろう。
他にも、近接武器をメインに扱う人達はユリシスの迷宮地を好み、逆に射手や魔術師のような遠隔攻撃手段を持つ人達はユリーカの迷宮地を好む所があるようだ。
ユリーカの坑道迷宮地に配置されている『妖精』や『精霊』系の魔物の中には、遠距離攻撃手段を持つ個体も多い。そういう魔物は距離を詰めてこないため、遠隔攻撃がメインの人達にとっては、却って対処が容易なのだ。
現在は様々な商会から『迷宮地の攻略情報』を取り扱う『攻略本』が販売されるようになったこともあり、その手の情報の拡散が想像以上に速くなっている。
今後、それぞれの迷宮地の特色や、攻略のコツなどの情報がより詳しく広まっていけば、どちらの迷宮地も探索者からより愛される場所になっていくことだろう。
坑道迷宮地を積極的に利用する探索者は大抵、ユリーカの都市すぐ傍にある神社への参拝も欠かさない。カナヤマヒコとカナヤマヒメが祀られるこの神社に参拝すると、良い鉱石が得られやすくなる御利益があると言われているからだ。
実際、それは結果的には正しくもあるのだ。信仰が増したことでカナヤマヒコとカナヤマヒメの神威もまた増しており、鉱山に齎されている『鉱石埋蔵量増加』の恩恵もまた、当初期待していた以上に大きなものとなっているのだから。
とりわけ銀と魔銀、銅と鉄といった鉱石はかなりの産出量に達している。
これらの鉱石はユリーカの『探索者ギルド支部』での買取価格はやや抑え気味に設定してあり、シュレジア公国やニムン聖国に持ち帰った方が少しだけ高く売れるように調整してある。
なのでユリーカで産出する鉱石は、あたかも両国にも鉱山が増えたかのように、市場供給量を大きく増やす結果となった。
特にニムン聖国では元々、鉄さえも国内ではあまり掘れなかったため、安価な鉄が市場に増えたことは様々な形で国益に寄与したようだ。
砂漠の民は他の地域に住む人達に較べると、同じ人間種族であってもタフであることが多い。そんな彼らが、安価に市場へ供給されるようになった良質な鋼の武器を手にしたため、探索者を志す人達は今まで以上に増えたようだ。
ユリーカの坑道迷宮地の魔物からは、宝石や魔石も得られる。
貴金属や宝石は魔導具を生産するために用いる主要材料であるため、市場供給量が大幅に増えて価格が下がった結果、より安い原価で魔導具を生産することが可能となった。
その結果、魔導具自体の市場流通量も増加して価格が下がった。また、魔導具を稼働させるための『電池』の役割を果たす魔石も同様に市場へ多く流通するようになったため、魔導具の稼働費用も安く済ませられるようになった。
ニムン聖国とシュレジア公国では、特に収入が多いわけでもない庶民でも、魔導具を保有する人が増えつつあるらしい。百合帝国でも同様に、元々住居に備え付けられている幾つかの魔導具以外にも、自分が追加で欲しいと思う魔導具を買い揃えて、暮らしを更に豊かにしようと考える人達が増えているようだ。
より良い暮らしを希求するというのは、人生を謳歌するひとつの形だろう。
そう思うから、ユリはこれを良い傾向だと認識している。
新貨幣についても、現時点では特に問題も生じず、上手くいっている。
特に商人からは大変な好評を博しており、既に百合帝国とニムン聖国、シュレジア公国の3カ国内に於いては、既存の『Beth貨幣』よりも新しい『gita貨幣』のほうが既に、より利用が好まれているぐらいだ。
何しろ『gita貨幣』はコインの表裏に施された意匠が大変に細かく、芸術的でさえあるために、およそ偽造というものが成立しない。魔法貨幣であるために『加工が出来ない』特性を有しており、第三者によってコインの金含有率や銀含有率を改変させられるリスクが無いため、取引に安心して用いることができるようだ。
貨幣の信用を担保するのが百合帝国であるというのも好材料だろう。エルダード王国やシュレジア公国といった、メキア大陸内の大国を相手にしてもまるで揺るがない強大で堅固な軍事力を持ち、更に国主のユリはこの世界の主神の1柱である。
信用性という意味では、大陸内に流通しているどの国家の貨幣より、早くも高い評価が得られているように思えた。
流通についても『探索者ギルド』を利用して得られる報酬が、原則として新貨幣でのみ支払われるため、一般への普及は早かった。
ロスティネ商会やトルマーク商会といった有数の商会が即座に対応し、新貨幣の普及に尽力してくれたこともあって、新貨幣への移行に嫌気が持たれることは全く無かった。
『gita貨幣』の流通量が増すに従い、市場から回収された『Beth貨幣』が国庫に堆く山積されたため、結構な量を鋳潰して銀や金の地金へと変えた。
ちょっと笑える量の銀塊と金塊が出来上がってしまったけれど、現時点では特に使い途も思いつかない。……というか、安易に市場に流通させると銀と金の価値が暴落することが目に見えているので、当面は国庫に死蔵するしか無さそうだ。
(概ね、何もかも上手くいっているわね……)
ユリタニア宮殿の執務室にて、各所から寄せられた報告書を読みながら、ユリは静かにそう思う。
『神域都市』の建造についても順調のようだ。今までに建造したユリタニア、ユリシス、ユリーカの都市とは趣が異なる、和風の都市の建造ということもあって、意欲的に『桔梗』の子達も建造作業へ取り組んでいるらしい。
第二のユリタニア宮殿として活用する建物や、沢山の神を迎えるための大社などの建物も、既に幾つかが完成しつつある。そろそろ少しずつ『リーンガルド』の世界から神をお迎えし始めても良い頃合いかもしれない。
一方で不都合が生じている案件も、全く無いわけではなかった。
例えば、ニムン聖国との交易量が最近では大幅に減少してしまっている。
暦が『夏月』に入ると、ニムン聖国の国土の半分以上を占める砂漠地帯の猛暑が殊更に深刻なものとなり、輓馬や御者が疲労するのも早くなるため、行商人の中に夏期に砂漠へ向かうことを嫌う人達が多くいるからだ。
お陰で『春月』だった頃に較べると、ニムン聖国との交易量は4分の1近くにまで落ち込んでしまっている。
来月の『秋月』に暦が入れば自然解決する問題であるため、喫緊の対処が必要な案件では無いのだけれど。できれば来年の夏が来る前に、何らかの対処法を模索しておいたほうが良いのかも知れない。
(―――そもそも、ニムン聖国に限らず、もっとちゃんとした交易路を整備したいところよねえ)
『桔梗』の子達に質の良い舗装路を敷設して貰えば、その上を走る馬車の機動力を大きく底上げすることができる。揺れも最小限に抑えることが可能となるため、御者の負担を抑えると共に、積荷が破損するのを防ぐことにも寄与する筈だ。
但し、現状では『桔梗』が『百合帝国』の部隊の中で最も忙しく、新都市の建造作業を次々と行っているため、舗装路の敷設にまで人員を割くことが難しい。
あまり一度に色々片付けようとはせず、長期的な展望で臨むべきだろうか。
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