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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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149. 八咫鏡

 


     [2]



「既にかなりの建物が出来ているようね」

「そうですね~。すっかり『都市』の形が出来ているように見えます」


 周囲の景観を見回しながら、ユリとホタルの2人がそれぞれ感想を口にする。

 ―――本日は『夏月32日』。夏の季節も残すところあと1週間となりつつある今日、ユリとホタルの2人は現在『桔梗(ききょう)』が建造中の『神域都市』に来ていた。


 これまでに建造してきたユリタニア・ユリシス・ユリーカの3つの都市が、いずれも石やレンガで造られた建物を中心としているのに対し、この『神域都市』では都市の建物のほぼ全てが木造のものになる予定だ。

 だからなのか建造中の都市内を歩いているだけで、様々な方向からトンテンカンのリズムが無作為に聞こえて来るのが、なんだか少し心地良くて楽しい。考えてみれば、金槌や木槌がこうした旋律を奏でるというのは、木造建築でこそ有り触れた光景なのかもしれなかった。


「やっぱり和風の街というのは良いわよねえ」

「こればかりは、あるじ様に全面的に同意せざるを得ませんね~」


 ユリの言葉に、うんうんとホタルが頻りに頷いてみせた。

 根が日本人であるユリからすれば、やはり和風家屋が沢山並んでいる風景というものは、洋風全開の瀟洒な街並みより、ずっと好感が持てるものだ。

 その感覚は『紅梅(こうばい)』隊長のホタルにしても同じものなのだろう。普段から白衣(はくえ)緋袴(ひばかま)、そして千早という巫女装束一式を身につけているホタルが和の都市を愛するというのは、ある意味で当然のことのようにも思える。


 街並みを歩いていると『桔梗』やその従者の子達をよく見かけるので、ユリの側から手を振ってみせると。彼女達の誰もが、嬉しそうに手を振って応えてくれた。

 和風の建物は通常よりも建築に時間を取られるらしく、今回の『神域都市』では『桔梗』の子達が従者も召喚して、フルメンバーで建造にあたっているそうだ。


「そういえば、ここには温泉が出るのですよね?」

「ええ、カナヤマヒコに教わった場所を掘ったら、すぐに熱水泉が湧いたそうよ」

「その温泉は、もう入れたりするのでしょうか~?」

「一応、簡易の湯殿で良ければもう作ってあるそうよ。『桔梗』と従者の子達は、1日の仕事を終えた後にいつも入浴してから宮殿へ戻っているようだし」

「おお……! では是非私達も、今日は入っていきたいですね~」

「そうね、興味はあるし……。あとで適当な子に場所を聞いてみましょう」


 簡易の湯殿でも何でも良いので、温泉に浸かれるのであれば浸かりたい。

 『桔梗』の子達も別に、ユリやホタルが利用するのを駄目とは言わないだろう。


「では、さっさと今日のお仕事を片付けてしまいましょうか~」

「そうね、行きましょう」


 少しだけ足を速めて、ユリとホタルの2人は街並みを歩く。

 やがて2人が到着したのは、いわゆる『正宮』と呼ばれる大社。

 『神域都市』にお迎えする『リーンガルド』の神様の御神体は、原則としてこの正宮の建物内に安置される予定となっている。


 ユリ達はその御神体を安置する予定の部屋の、一番中心にある台座の前に立つ。

 今日は『神域都市』の神々を統括して貰うために、まず『天照大神(アマテラス)』の御神体をここに安置して、お迎えする予定なのだ。


「御神体は『八咫鏡(やたのかがみ)』で良いのよね?」

「もちろんです。アマテラスの御神体に、それ以上相応しい物は無いでしょう~」

「まあ、そうよねえ」


 アマテラスを祀っていることで知られる日本の伊勢神宮の内宮でも、御神体には『八咫鏡』が安置されているのだから。それと同じ物を用いて不都合があろう筈も無いのだ。

 ユリは今朝『撫子』の子達の〈侍女の鞄〉から予め回収しておいた、『八咫鏡』をひとつ〈インベントリ〉から取り出す。




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 □八咫鏡+10/品質[255]


   【神器】

   このアイテムを〈インベントリ〉の中に収納しておくと

   [知恵]+1200、[魅力]+1200、[加護]+1200、の恩恵が得られる。


  * 高天原を統べる主宰神『天照大神』に縁ある神鏡。

  * 10回の『神器強化』が行われ、神威が一層高められている。


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 『八咫鏡』は『アトロス・オンライン』のゲーム内に於いて『神器』というカテゴリに分類されているアイテムで、〈インベントリ〉の中に入れておくだけで能力値などを増やしてくれるという、大変有用なものだ。

 同種の神器同士で効果が重複することは無いものの、装備品とは別枠で能力値を底上げしてくれるというのが素晴らしい。


 『八咫鏡』はゲーム内では、ガチャの景品として入手可能なアイテムだった。

 レア度が『C』とそれほど高くなかったこともあり、例によってユリはこのアイテムを大量に保有している。

 元々は所持者の精神系能力値3種を『300』ずつ増やしてくれるアイテムなのだけれど。今回ユリが持参した『八咫鏡』は特別なもので、これに『神器強化』という行為を10回加えており、性能を更に高めている。


 この『神器強化』というのは『50%の確率で神器の性能が少し上がるけれど、50%の確率で神器が破壊される』という、いわゆる強化ギャンブルのことだ。

 ユリが持参した『八咫鏡+10』はこのギャンブルに10連続成功したもので、性能が限界まで引き出されている。ちなみにこの『八咫鏡+10』を作るために、強化に失敗して合計1000枚ぐらいの『八咫鏡』が損失していた。


「……御神体は通常の『八咫鏡』でも、別に良いかと思いますが~?」

「でも折角だから、限界まで強化した『神器』を御神体にした場合にどうなるか、一度実際に確かめておきたいじゃない?」

「まあ、興味はありますけれど~」


 百合帝国は『八咫鏡+10』を、全部で7つ保有している。

 なので1つぐらいなら御神体として提供しても、別にそれほど困らない。


「それに今回お迎えするアマテラスは、長年ホタルがその身に宿していた神霊なのだからね。最上位の待遇でお迎えするのは、当然のことでしょう」

「あるじ様……。ありがとうございます~」


 長年ユリの『嫁』を護ってくれた神様には、それなりの待遇を用意したい。

 御神体を安置する台座の上に『八咫鏡+10』を置き、ユリは少し距離を取る。


 ホタルを含む『紅梅(こうばい)』の子達は、全員が身体に『天照大神(アマテラス)』と『神産巣日神(カミムスヒ)』、『下照姫命(シタテルヒメ)』の3柱の御霊を降ろしている。

 今回はホタルの身体に宿っているアマテラスの分霊(わけみたま)を、この『八咫鏡+10』の御神体へと宿らせるだけだ。なのでカナヤマヒコやカナヤマヒメをお迎えした時のように、ユリが神としての力を行使して『リーンガルド』の世界と接続を確立し、世界を跨いでの勧請を行う必要は無い。

 つまり今日のユリが行うべき仕事は何もなく、ただ後ろで見ているだけだ。


「終わりました~」

「え、もう終わったの?」

「はい~。身体に宿る神様を分けて、移し替えるだけのことですので」


 以前の儀式と同じように、祝詞(のりと)のひとつぐらいは詠唱するかと思っていたのだけれど。どうやら『八咫鏡+10』にアマテラスを宿らせる作業は、殆ど一瞬の内に完了したようだ。


 何だかあまりに呆気なさ過ぎて、すっきりしない気持ちもあるけれど。〈鑑定〉のスキルで八咫鏡のことを()てみると、アマテラスの神霊が『八咫鏡+10』の中へ、確かに宿っていることが判別できた。

 流石に今すぐにはまだ、姿を形作れないようだけれど。カナヤマヒコとカナヤマヒメの時と同じなら、翌日には自由に顕現できるようになることだろう。


「温泉行きましょう! 温泉!」


 一仕事終えたとばかりに、即座にそう要求してくるホタル。

 無邪気なホタルの様子を見て、思わずユリの表情が綻んだ。


「いいけど湯殿に行く前に、一旦ユリタニアの宮殿へ戻っても良いかしら?」

「………? それは、何のためにでしょうか?」

「〈インベントリ〉にお酒を入れておいて、温泉に持ち込みたいのよね。熱い湯に浸かりながらキンキンの冷酒を一杯、なんて贅沢してみたくない?」

「ああ、それはとても素敵ですね~」


 温泉に思いを馳せて賑やかに会話を交わしながら、ユリとホタルの2人は揃って正宮の建物を後にする。

 ユリ達の姿がなくなった後の、正宮内の御神体の安置所では。中央の台座に置かれた『八咫鏡+10』が青白い光を放ちながら、カタカタと小さく揺れていた。




 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] ステが人外だから、お風呂で飲酒しても大丈夫!! 羨ましいwwww
[一言] 動き出すの早いですね。
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