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W 023話 揺れる海軍

 1941年3月~8月 『海軍軍令部と連合艦隊司令部 陸軍参謀本部と陸軍省』 


 史実をなぞるように日本とアメリカの関係は極度に悪化していた。

 アメリカの経済制裁は徐々に強まり、野村特命大使がワシントンDCに派遣されたが、事態は好転していない。 


 そんな中、海軍軍令部と連合艦隊司令部が揺れていた。


 海軍軍令部はアメリカ、イギリスとの開戦した場合の戦略として南方攻略作戦を練っていたところ、連合艦隊司令部から真珠湾攻撃の計画案を提示され驚愕する。


 しかも、その作戦を聞いた伏見宮総長がこの案を受け入れたのだ。


 それに加えて伏見宮総長が独自の対アメリカ作戦計画を提示し、それが何と10年以上も前から準備が開始されており既に各所に人員が派遣され配置についていると言う。

 

 これには海軍軍令部と連合艦隊司令部の両方が驚愕した。


 今更、長年に渡り伏見宮総長が準備して来た対アメリカ作戦計画を中止するようには言えないし、その計画が悪い物とも思えなかった事から、軍令部も連合艦隊司令部も、そのまま受け入れる事になる。


 これにより、南方作戦案、真珠湾攻撃作戦案、総長の作戦案と3つの作戦の準備がそれぞれ進められる事になった。


 だが、しかし、そんな中、またもや驚愕の事態が発生する。


 山本五十六連合艦隊司令長官が急病で倒れ人事不省に陥ったのである。

 直ぐには病状の回復が望めず、このアメリカとの緊張が高まりつつある中、連合艦隊司令長官が不在という状況になった。


 ここに来て海軍に大きな影響力を持つ伏見宮総長が決断を下す。


 伏見宮総長は軍令部総長を辞任し、自ら連合艦隊司令長官になる道を選んだのである。


 軍令部総長の後任は永野修身、海軍大臣は嶋田繁太郎という布陣だった。


 つまり史実での連合艦隊司令長官の座が山本五十六から伏見宮に変わったのであった。


 そして対アメリカ作戦も大幅に変わる事になる……



 伏見宮連合艦隊司令長官は連合艦隊司令部の幕僚を代える事はしなかった。

 伏見宮が司令長官となって初めて行われた会議において、早くも爆弾は落とされた。


「真珠湾攻撃の計画は不可とする。これより真珠湾攻撃の研究と訓練は中止するように」


 その伏見宮司令長官の言葉に幕僚達は顔を見合わせた。

 一同を代表する形で宇垣纏参謀長が意見を述べる。


「閣下は真珠湾攻撃に賛成と聞いておりましたが……」


「山本がやりたいというのなら反対はしないという程度の話しだ。

だが儂が連合艦隊司令長官となった以上は真珠湾攻撃はしない。

アメリカ太平洋艦隊は南洋諸島で迎え撃つ。

それが儂の作戦計画だ」


 参謀達の殆どは反対しなかった。

 まだ、作戦の研究が始まって半年程度でしかない。

 解決しなければならない問題は山積みだ。

 準備も捗っているとは言えない。

 ならば、ここで中止しても大きな混乱は起こらないだろう。


 計画中止は残念ではあるが、司令長官が交代した以上はそういう事もある。


 それに伏見宮連合艦隊司令長官の南洋諸島で迎え撃つという計画は日本海軍が長年研究して来た作戦だ。

 日本海軍本来の作戦計画に戻ったと言える。


 参謀達の大半はそう考えたのである。


 だが、2人だけ異を唱えた人物がいた。

「仙人参謀」「変人参謀」とも仇名された黒島亀人先任参謀と渡辺安次戦務参謀である。


 連合艦隊司令部では、この二人が古株で最も山本五十六連合艦隊司令長官と長い付き合いだったと言って良かった。


「閣下、お考え直しいただけませんか。真珠湾攻撃は山本前長官が全てを賭していたと言っても過言では無い計画でありますし、これからは飛行機の時代です」

 黒島参謀のその言葉には相手が宮様総長であっても言うべき事は言わなければという思いが滲み出ていた。


「右に同じであります。どうかご再考を」

 渡辺参謀も頭を下げる。


「君達の言う事もわかる。

儂もこれからの戦争が飛行機中心となっていくと思っておる。

だが、真珠湾は遠い。

敵主力が必ず真珠湾にいるとは限らん。

先に敵に発見される恐れも多分にある。

故に却下だ。

敵主力が南洋諸島に進攻して来たところを一網打尽にする。

それが儂の計画だ。

この計画に変更は無い」


 こうして連合艦隊司令部の「真珠湾攻撃作戦」は白紙撤回となり、海軍の作戦はこれまで通りの漸減邀撃作戦へと回帰した。

 これにより海軍の作戦は史実とは大幅に違う姿を見せる事になる。


 【続く】


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