W 018話 進む準備
1939年◯◯月◯◯日 『南米ブラジル アマゾン とある日本人植民地村』
「代表! 荷物は全部届きました!」
「よしっ! これで組み立てを開始できるな」
「はい、ようやくですね」
「明日から忙しくなるぞ」
「待ち望んでいた事です」
「まったくだ」
アマゾン大密林にある日本人入植村。
今そこに港から運ばれて来た大量の荷物が届いていた。
荷物の中身は開拓用機材となっている。
しかし、実際には違う物だ。
港の税関には金を握らせて黙らせている。
史実における昭和の時代、「南米三悪」という言葉があった。
現代ではもう誰もが忘れ去っているが、当時の南米では税関、警官、軍隊が腐敗の象徴であり、公務員なのに外国人旅行者や一般市民の害となっていたからだ。
一例で言えば露骨に賄賂を要求する。税関でもだ。
他のお役所もかわらない。
ただし逆に言えば金さえあれば買収し放題でちょっとやそっとの無理は押し通せる。
それは、この1941年という年も変わらない。
役人を買収して口を閉ざさせ、アマゾン大密林の奥地で密かに「準備」を整えている日本人入植者。
彼らの活躍する時が近づいている……
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1939年◯◯月◯◯日 『アメリカ合衆国 バージニア州ポトマック川沿いのとある家』
家の前の川岸に造られた桟橋に3隻のモーターボートが停泊していた。
そのうちの1隻に男が乗りエンジンの整備をしている。
そこに家から出て来た男が声をかけた。
「どうだエンジンの調子は?」
「いい感じだ。問題無いぞ快調、快調」
「よしっ、こちらの準備ももうすぐ整うぞ」
「後は本番までこの調子を維持する事だな」
「あぁそれが一番大変だ」
「いや、一番大変なのは本番だ」
「違いねぇ」
二人は笑い合う。
その時、家からもう一人の男が出て来て二人に声を掛ける。
「おーい、飯ができたぜ」
「あぁ今行く!」
「飯にしよう」
二人は馬鹿話をしながら家に向かう。
彼らの狙いは何なのか。
何をしようとしているのか。
それを知る者は限られており、それを知る中にアメリカ人は一人もいない……
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1939年◯◯月◯◯日 夜 『北米 カナダ太平洋岸 沖合』
月明りに照らされる海上で、2隻の漁船が遥かに大きな船の傍で停船していた。
その大きな船は普通の船ではない。
舷側が低く、艦橋だけが障害物のように突き出ている。
その独特のシルエットを見せるのは潜水艦だ。
その潜水艦の艦内より幾つもの荷物が運び出されている。そして小型のボートに積まれ何度も漁船との間を往復していた。
「これで全部だ」
「有り難うございます」
「では気を付けてな」
「そちらも」
漁船の船長と潜水艦の艦長は互いに敬礼を交わすと、それぞれの仕事をするべく配置に戻る。
2隻の漁船は潜水艦からゆっくりと離れて行く。
それを見送った潜水艦も潜航を開始した。
そしてその海域からは船も人も消えた。
3隻の船がいた事など最初から無かったかのように海には波の音しかしない。
月だけが、そんな海上を照らしていた。
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1939年◯◯月◯◯日 夜 『メキシコ太平洋岸 沖合』
無数の星達が輝く夜空の下、海上で2隻の小さな漁船が大きな漁船の傍で停船していた。
2隻の小型漁船を操っているのはメキシコに移民した日本人だ。
史実では漁師としてメキシコに移民した者達がいる事が知られている。
大きな漁船は日本船籍だ。
この時代、既に日本の大型漁船はメキシコ沖にまでやって来て漁をしている。
マグロや海老など良い漁場なのだ。
冷凍技術の発達がそれを可能にしていた。
だが、この時は小型漁船も大型漁船も漁をしているようには見えなかった。
船内より幾つもの荷物が運び出されている。そして小型の漁船にその荷物が運び込まれている。
「これで全部だ」
「有り難うございます」
「では気を付けてな」
「そちらも」
大型漁船の船長と小型漁船の船長は互いに敬礼を交わすと、それぞれの仕事をするべく配置に戻る。
2隻の小型漁船は大型漁船からゆっくりと離れて行く。
大型漁船も動き始め、漁船はそれぞれの方向へ進んで行く。
そしてその海域からは船も人も消えた。
3隻の船がいた事など最初から無かったかのように海には波の音しかしない。
夜空に輝く星達の光だけが、そんな海を照らしている。
【続く】




