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第3話『放課後のヒーロー』

「……本気の話……してもいい?」


茜色に染まる其成第一高等学校の屋上。風が三人の制服の裾を静かに揺らしていた。

放課後、このみに呼び出された波音と燐。立ち尽くす二人の前で、このみは真剣な眼差しをまっすぐに向け、決意を込めた言葉を切り出した。

「私達でさ、この街で暴れてるモンスター、全部倒さない?」

一瞬の静寂の後、波音は鼻で小さく笑い、吐き捨てるように言い放った。

「ヒーローごっこならオレ達を巻き込むな。もう子供じゃねえんだぞ」

冷たく突き放す波音に対し、このみは一歩踏み出し、まっすぐに彼の目を射抜く。

「ごっこじゃないよ。昨日だって、私達で上手くやれたじゃない」

「あんなのは上手い事噛み合ったまぐれだろうが! いつもいつも上手くいく保障はねえ、命だって一つしかねえんだぞ……!」

波音の声には、冷徹な拒絶だけでなく、どこか切羽詰まった焦りが混ざっていた。自分たちの抱える能力がどれほど異常か、一歩間違えればどれほど容易く命が散るかを知っているからこその言葉だった。その熱くなった不穏な空気を断ち切るように、割って入ったのが燐だった。

『おれは、戦う』

燐の背中が夕日を背にして伸びる。不器用だが、何一つ偽りのない重い声だった。

『だって、あの時、動けたの、おれたち、だけだった。じぶんが、出来る事、めいっぱい、やるのが、人間!』

悪魔でありながら人間の食と心を愛し、人間のフリをして生きてきた燐の口から出た、あまりにも純粋な「人間」の定義。その言葉は、波音の胸の奥底へ鋭く突き刺さった。


(――自分が出来る事を、目いっぱいやる……?)


波音は何も言えず、固く口を結んだ。他人の忌々しい本音や泥のような思考が勝手に頭の中に流れ込んできて、自分の放つ言葉一つで容易く人の精神を狂わせてしまう。生きているだけで人に迷惑をかけ、拒絶されないためにイヤホンで世界を遮断し続けてきた自分。んな自分に、一体何ができるというのか。

(オレのこの不気味な力で……誰かを救えるって言うのか……?)

脳裏に浮かんだのは、昨日助けたあの幼い少女の顔だった。自分の言葉で涙を拭い、怯えを払って頷いてくれたあの感覚。

「シマ……」

このみが静かに波音の名を呼ぶ。

「お前ら……本当にバカだな」

波音は小さく溜め息をつくと、学ランのポケットからゆっくりと有線イヤホンを取り出し、首にかけた。

「オレの力は……お前らが思うような綺麗なもんじゃねえ。……だが、あの化け物どもが街で暴れて、親友(ダチ)やウザい先公(センコー)や、有降の街の連中の『悲鳴』が四六時中頭の中に流れ込んでくるくらいなら……」

波音は二人を睨みつけるように見つめ、口端を少しだけ歪めてニヤリと笑ってみせた。

「オレがその原因を片っ端から潰してやるよ。お前らの司令塔(コマンダー)としてな」

『シマ君……!』

「ふふっ、やっぱりそう言ってくれると思った!」

このみが嬉しそうに顔をほころばせ、燐が大きな手を叩いて喜ぶ。


その時だった。

校舎の遥か上空、昨日塞がりかけていたはずの空の亀裂が、再び不気味な紫色に発光し始めた。それも昨日より遥かに巨大な亀裂となって、有降タウンの街全体を覆い尽くそうとしている。

「来たみたいだな……」

波音は耳からイヤホンを外し、指先で弄んだ。彼の目にはもう、迷いはなかった。

「行くよ、二人とも!」

このみの叫びとともに、三人は夕闇に包まれつつある屋上を蹴り、新たな戦いへと足を踏み出していった。

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